影山恵子
今日はやたらと陽射しが暑い。
桜たちは春がきたと喜び、閉じていた蕾がハラリハラリとほぐれていく。
そんな季節にもかかわらず、なにやらだるそうな男が公園を歩いていた。
「なんでこんな場所で待ち合わせるんだ?こっちは桜なんて見たい気分じゃあないんだがな」
桜を見にきた人を無視して中村は呟いた。
刑事の中村にとって、花見の季節は暴走族が目覚めるように走り出す季節であり、花見客が酒を飲んで暴行事件や飲酒運転をする、ひどくやっかいな季節なのだ。
中村はぶつぶつ言いながらもおとなしく桜の木の下のベンチに腰掛けた。
ベンチは木製であり、足元にはタンポポの花が首を伸ばして太陽の光を清々しく浴びていた。
中村が腰掛けてからすぐに、背後に忍び寄る人がいる。
そしてその人物は中村に声をかけた。
「相変わらず、くたびれた顔をしていますね。何かいいことでもあったんですか?」
「よお、遅かったじゃないか。約束の時間から20分も遅れている」
「あら、あなたはさっきここに着いたばかりじゃないですか。あなたははじめから私を20分も待たせる気でしたの?」
「・・・・・・。」
見なくても分かる。
今背後の女はニタニタと満面の笑みを顔に浮かべているに違いない。
中村は背後を振り向かずに続けた。
「で、なんでこんな場所で待ち合わせなんかしたんだ?直接あんたの事務所じゃダメだったのか?」
中村はめげずに言った。
「あら、そんなに私の事務所に来たかったの?ダメよ、私は事務所をひとりでやってるんだから妙な男を入れるわけないじゃない」
「妙な男って、俺のこと?」
「そうよ、あなた鏡を見てごらんなさいよ。そんなにヒゲを伸ばしっぱなしの人は今時いないわ。板垣退助の時代の人?」
「別にいいだろ、他人に合わせる必要はない。しかもこれはヒゲが勝手に伸びるのが悪いんだ」
「ああ、怖い。そんなに怒鳴っちゃだめよ」
「怒鳴らせたのは君だろう。それに君はこんなもんで怖がる人間じゃない」
そうこの女性、影山恵子はそんなやわな人間ではない。
数々の事件の解決を依頼され、数々の死体を見てきた女だ。
20代半ばにして1000件を超える事件を解決する「相談屋」だ。
確かに顔は可愛らしく整い、すらっと足は伸びていて出るとこが出ているがとんでもない腕利きであることを中村は知っている。
「で、なんでこんな場所なんだ?」
「あなたはきっとしばらくジメジメした部屋でカビとお友達になりそうだからちょっとだけでもお日様に当てておかないといけないでしょう?」
まったく、ふらりとして掴みようがない。
中村はしばらく影山とのおしゃべりにつきあい、影山の許しを得て事務所にあがらせてもらうことにした。
…………
「さて、改めまして依頼人さん?今回はどんなご用件ですか?どんな相談でも喜んでお受けしますよ。もちろん、そちらは知りうる限りの情報を私にください。そうでなくては適切なアドバイスを出す機会を失いかねませんから」