ガイシャ
2018年 3月13日 15時12分、名古屋市の中警察署からひとりの男が出てきた。男の名前は中村英介という。
髪は黒い癖毛で無精髭を生やした男だ。
服はグレーのスーツを着ている。
中村はパトカーに乗り込んでエンジンをかけた。
目の下のクマが今日も中村が徹夜だったことを示している。
世の中はブラック企業を改善しようと働いているというのに、中村が働く部署ではブラックがグレーになる気配はない。微糖にもならない。
そんな中、また事件が起きた。
また忙しくなる。
中村はだるそうに自動車のアクセルを踏んだ。
さあ、現場に向かおうか?
………
「16時03分、現着。みなさん、お疲れ様」
中村は現場に到着すると、鑑識や制服姿の警察官にあいさつをしてテープを潜った。
現場は小杉二番通りで繁華街から100メートルほど離れた場所にある。
そしてテープの外にはいつも通り、野次馬や記者たちがワサワサと群がっている。
さて、仕事をしましょうか!と中村は迷わず、死体の元に向かって歩いた。
「しつれい、仏さんの顔を見させてもらうよ」
死体用の担架の覆いをずらした。
見たところ、被害者に不審な点はなく、争った形跡がないことからどうやら身内の犯行のようだ。
犯人が身内であるならば、まず必要な情報は被害者の身元を確認するのが鉄則だ。(まあ、どんな事件でも身元は確認するのだが)
「身元は割れているか?」
中村は部下である永野巡査部長に尋ねた。
「ガイシャの持ち物や近隣住民の証言から身元が判明しました。名前は田中次郎、37歳の独身。このあたりを縄張りにする暴力団の一員のようです」
「なるほど、暴力団ということは内部抗争か、敵対する他の組の奴らにやられたかだな。確かここら辺では30年前に抗争があったきりデカイやつはなにも起こってないよな」
「はい、最近の通報は確かに確認できません。もっとも、私達の知らないどこかで何かやっていたかもしれませんが」
中村の話にすかさず永野が応えた。
「物盗りの犯行の線はないんだな?」
「もちろんです。被害者の所持品から盗まれた形跡はありません」
物盗りではない。
そうなるとやはり抗争の確率が高まってくる。
中村の表情に深いシワが現れた。
「永野、この山けっこう大変なものになるかもしれない。覚悟しておけよ」
「また徹夜ですか?」
「俺に聞くなよ、、、」
…………
3月13日 20:00 中警察署に捜査本部が設置された。
副署長の荻原警視と署長の加藤警視が本部の中心となることが決定し、各部署から次々と人員が中警察署に集まってきた。
適当に作った地名もありますが、作品を思いついたのは3月後半だったため、メインの地名は桜で有名な鶴舞公園周辺にします