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第9話 オーガ その3

 少年とその妹はいつものように遊んでいた。最近村の近くで恐ろしいモンスターが現れたから村の外に出てはいけないと言われていた。しかし、そんなことは御構い無しに村から少し離れた秘密基地で遊んでいた。


 その場所はその兄妹しか知らない秘密の場所。大きな平たい岩の下に掘った小さな穴。子供一人しか通れない穴の先には広がった空間がある。


 こんなものが天然にできるはずがない。これは妹が作ったものだ。妹には魔法の才能があり少しずつ掘り進めてこの大きさになったのだ。兄の方も魔力は持っているがうまく魔法を使うことはできない。


 それでも力はあるため森の中でこっそりと食べ物を集め、この秘密基地の中に隠していた。この兄妹にとって、ここは最高の隠れ家だった。


 そしてその日も同じようにその秘密基地で遊んでいた。いつもと変わらない日常。いつものように秘密基地でとことん遊びそろそろ帰ろうかという時、奴らは現れた。


 それは一瞬だった。どこからともなく現れたモンスターの集団は一瞬で村を飲み込み村の人々を食った。その現状を最後まで見ていることができず、入り口を埋めて隠れた。


 それが幸運だったと言える。もしも隙間を開けていたら、その隙間から漏れた匂いで匂いに敏感なモンスターに気がつかれていた。そして中に保存してあった食料を食いつなぎながら5日間、隠れ続けた。


 そして薄れて来た意識の中で外から人の声が聞こえた。声を出して助けを呼ぼうと思ったが声が出ない。仕方なく這いつくばるように移動しつつ穴を掘り外に出た。兄妹の前には身なりのしっかりとした男たちがいた。


 助けが来たのだと思い這い出ていくとあのモンスターが現れた。村を襲った赤いオーガ。みんなを殺したあのオーガがこちらに来ている。そのオーガはゆっくりと近づき手に持つ大剣を振り上げた。


 自分たちも同じように死ぬ。怖いけどそれでいいのかもしれない。ここで死ねばみんなに会える。このまま生きているよりかは幸せかもしれない。自分はこういう運命なのだと。


 そう自分の運命を悟った時、それは現れた。

 金色の髪、白い肌に赤い瞳の少女。綺麗な服を着て自分たちとは違う人種なのだとすぐにわかる。自分たちが一生たどり着けない上の人間だと。


 そんな少女は薙ぎ払われた大剣と自分たちの間に入り守ってくれた。はっきり言って意味がわからない。こんなみすぼらしい自分たちを助ける価値などない。もう死のうと思ったのに何をしてくれるんだ!


 少女はそのオーガの一撃から守ってくれた際に自分たちも連れて飛ばされた。着地の衝撃は辛かったが、それでも怪我らしい怪我はない。


 しかし自分たちを守ってくれた際に少女は右側に大きな怪我を負っていた。右腕はもうめちゃくちゃだ。折れ曲がった木の枝のようだ。


 少女は何やらボソボソ喋っていたがどうやら助けがどうとかいっていた。しかしふと顔を上げると、急に怒り出した。そして


「俺は武神!武神剛柔!そう呼ばれ続けるためには常に勝たねばならん!俺は強者だ!強者が逃げていいわけがない!」


 自分のことを武神、神様だと言い始めた。強者だと。強者だったらそんな怪我は追わないし、神様だったらあんな敵一瞬で倒してしまうだろ。どうやら頭を強く打ってバカになったらしい。


 やはり自分たちの運命はここで死ぬのだ。この少女の助けはそれが一瞬先延ばしになっただけ。ここでおとなしく殺されるのを待とう。


 しかし少女は歩き出した。しかもあのオーガが来る方めがけてだ。とんだ自殺志願者だ。自分たちよりタチが悪い。


 少女はやがてオーガとかち合うと戦闘が始まった。いや、戦闘という名の虐殺だろう。いまだって何もできずに避けているだけだ。あと数分もしないうちにあの少女も死ぬだろう。


 しかし運命はそうならなかった。


 先に気がついたのは妹だった。指差し何かを訴えているが妹ももう喉が枯れて声は出せない。しかしすぐに僕も気がついた。怪我が消えていっているのだ。折れていたはずの腕が元どおりに戻っている。


 オーガもそれに気がついて動きを止めた。何が起きたのか全くわからない。すると少女は腰から小さな短剣を抜いた。なんとも頼りない短剣だが、なぜかそれが何よりも頼もしく、とても、とても力強く見えた。


 そこから僕は永遠に忘れられない光景を目の当たりにした。


 戦いというのはなんとなく知っている。村のおっちゃんたちが村を襲撃してきたゴブリンたちを倒した時だ。もみ合いながらなんとか倒したあの戦い。なんというかかっこよく思えた。あんな風になりたいって。


 だけど少女は違った。美しい。本当に綺麗なものを見たときのあの感覚。夕日の沈む光景、光り輝く水面。美しいものを見たとき人は息を飲む。

 しかし本当に美しいものを見たとき、人は呼吸すらも忘れてしまうんだとそのときの僕は知った。僕は瞬きさえも忘れた。自分がどう動いていたかさえも。


 少女は舞った。大地を、空を、あのおぞましいオーガの体の上でも。時折光る短剣がその美しさを際立たせる。憎いオーガとの戦いのはずなのにそこには憎しみも何もない。


 オーガは少女の短剣に切られるが体表が硬く刃が通らない。その度に散る火花はどんな星々よりも美しい。暗闇の中で光る短剣とその火花は一生記憶に残るだろう。


 もう死のうとかそんなことはどうでもいい。僕は一生この光景を見ていたいと強く思った。





 さてさて、もう何十回も切りつけているというのに全く刃が立たん。どんどん刃が丸くなってきているから切れる可能性がどんどん低くなる。思いっきり突き刺してやろうとも思ったが、抜けなくて武器を失う可能性の方が高い。


「とりあえずやれることをやってみるか。」


 オーガの懐に潜り込み殴ってみる。まるで岩を殴っているようだ。かなり思いっきり殴ったから指の骨が折れた。回復させよう。


 何度か蹴りを放つ。足の皮膚が割れ血が溢れる。これも回復しよう。


 骨が折れないように連撃を放つ。全く効いている感じがしない。手足を痛めただけ、回復しよう。


「ではこれならどうかな?」


 再び懐に潜り込み殴る。全く効かない…というわけでもなさそうだ。違和感くらいは感じたらしい。


「これならまだ可能性があるか。では貴様が倒れるまで何度でもやってやるか。」


 何度もなんども殴り続ける。次第に何かおかしいと思ったのだろう。レッドオーガは少し警戒をし始めた。


 今やっている技は鎧通し。古くからある技の一つだ。日本でもそれなりに有名だが、中国でも浸透勁としてそこそこ知られている。鎧など硬い表面にダメージを与えるのではなく、その内部へと振動を伝える技。こういった硬いやつには効果的である。


「まあこの体じゃあ本来の100分の1も威力は出せてないけどな。」


 生前の俺なら金庫の中のスイカを粉々に粉砕できた。極めればかなり有用な技だがこの状態では100発やっても同じことはできないだろう。


 それでも多少は効いているのだろう?だったら死ぬまでやり続けてやる。狙う先は内臓、関節など効果が出やすそうな部位。特にあの大剣を持っている腕は狙い所だな。普段からあんな風に大剣を振り回していれば関節などに疲労が溜まっている可能性が高い。


 オーガの攻撃をかわしながら細かく攻撃を当てていく。大きな一撃を狙ってはダメだ。大きな一撃は大きな隙にもなる。焦らずにゆっくりとやる。


 魔力の使い方にも気を配る。怪我をした場合は回復魔法にするがそれ以外の時は身体強化の魔法にする。身体強化を本来自分が出せる限界を超えるレベルに設定しているため、時折手足が壊れかけるが無理やり直している。


 こうでもしない限りこの均衡は保てない。この状況さえ見れば俺の圧倒的有利に見えるが一撃でももらえば俺は負ける。俺はオーガが倒れるまでこの攻撃をやめられない。


 正直このままで勝てる見込みは少ないがそれでもこの方法が最も勝率が高い。


 このままいけばなんとかなる。そう思った時、オーガがニヤリと笑った。そしてある方向へと進み始めた。


「くそっ。一番嫌なことしやがる。」


 オーガは再び侵攻を始めた。子供達の元へと。


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