第8話 オーガ その2
周囲の警戒を行いながら移動をしていくと周囲を見渡せるところに出た。そこからも明かりは見えなかったが暗闇に目が慣れてきたおかげで何と無くだがわかるようになった。
村が消えている。正確には村だったものの残骸が散らばっている。ここからでは詳しいことはわからないため、村だった場所に行くとそこには見るも無残な現状が広がっていた。
倒壊した家屋に、戦うために使っていたと思われる槍のようなものがある。どれもボロボロで酷い有様だ。人の姿が全く確認されないのはおそらく…
「血痕がいくつか見つかりました。死体がないことから考えると…」
「モンスターに食われましたね。どこかに逃げのびたという可能性を捨てたくはありませんがおそらく全滅でしょう。」
ラシャドールと護衛の一人との会話。二人は慣れたように話している。この世界ではごく当たり前のことなのだろう。しかしわしにはなんとも受け入れがたい状態だ。
日本においても大正や昭和の頃なら、熊に襲われて食われるということは無くはない。世界を見てみれば虎やライオンなど人を食う動物は多くいる。しかしそれでも村ひとつが消える、しかも食われるなんてことは経験がない。
現状を受け入れるのには少し時間がかかりそうだ。
「倒壊した家屋に人がいないか確認させろ。それから襲撃者が周囲にまだ潜伏している可能性もある。注意しろ。」
「はい、お嬢様。」
倒壊した家屋を調べさせてはいるが、死体どころかその一部すらも確認できない。綺麗さっぱり食べ尽くしたとうことだろう。痕跡は多々見つかるが、すでに数日は経過しているようだ。
しかしなんとも不気味だ。なんというか胸騒ぎがする。わしの予感というのはよく当たる。しかし何がおかしいのかははっきりしない。鳥や虫の鳴き声一つしないというのはおかしいが周囲を探索した護衛たちは怪しい影がなかったと報告している。
モンスターがこの辺りの動物全てを喰らい尽くしたということなのだろう。それほど腹をすかせていたということは周囲の村々が危険だが、あいにくこの村の周囲には他に村はない。
オーガというのはそれほど食欲旺盛ということなのだろう。
「いや、待てよ。ラシャドール!オーガは基本群れを作らず単体で行動するはずだな?」
「ええ、群れても5匹程度らしいですがそれが?」
「おかしくはないか?この村の感じは一瞬で攻め落とされ、その場で全員食われておる。血の量からして殺してから数日保存していた様子はない。血すらすすっているようだ。それに小動物や虫すらも根こそぎ食べている。」
「まさか…多種のモンスターによる群れだと?つまりそれは群れを率いるモンスターがいるということでは…」
オーガは体長2mを超える巨躯だ。そんなのがわざわざ小さな虫まで食べるとは思いにくい。小型のゴブリンや滴る血液をすするモンスターの類がいると考えればこの状況に説明がつく。
「キングクラスがいるということじゃろう。しかも拠点を持っていない可能性がある。このままでは被害が広がる一方じゃぞ。」
「規模も大きそうですね。これは一度撤退して増援を呼んだ方が…」
「確かにな、敵がわからん以上撤退するのが得策じゃろう。」
ここで無理やり戦うというのはあまりにも無謀。わしだけならともかく護衛の彼らにも危険が及ぶ。それだけは避けなければならない。
「では私の方から全員に撤退命令を」
「ラシャドール様!モンスターの群れです!」
「どうやらそういうわけにも行かぬか。」
長居しすぎたようだ。モンスターが走ってこちらに向かってくる。こちらが風上にいたようで、モンスターのところまで匂いや音が届いてしまったらしい。
徐々に地響きが近づいてくる。馬に乗りすぐに撤退しようとも思ったが、意外にもオーガの足が速い。馬の速度では追いつかれそうだ。ならば開けて戦いやすいこの場で迎え撃つのが得策。その後、弱った頃に馬で逃げる戦法だ。
ラシャドールによる的確な指示ですぐに陣を築けた。将官としての才能も上々のようだ。これならば問題はないと信じたい。
「敵確認!数は大20、小30!オーガとゴブリンと思われます!」
「予想よりも少ないですね。この倍程度は覚悟していたのですが…」
「これだけ手当たり次第に食らっておるからのぉ。共食いをしたんじゃろ。」
わざわざこっちに来たのも、大方この辺りの動物を食い尽くしたせいで飯に困っていたというところか。飯があればわざわざ遠くにいた我々の方にくるとは思えない。
群れの中に一つ、大きくて体表の赤いオーガらしき存在がいた。手には大剣を持ち見るからに強そうだ。
「あの赤いのが大将か。」
「そうでしょうね。体表の赤いオーガ…確かオーガの亜種として確認されていたはずです。レッドオーガと言い、通常よりも表皮が硬く、鉄の剣でもたやすく弾くと言われています。知能も多少はあるのでかなり厄介な相手です。ここは時間を稼いだのちに撤退が望ましいでしょう。」
「じゃな。ではその手筈で頼むぞ。」
こう言った集団戦闘ではわしのような存在が前線に入るとかえって邪魔になる。後ろでおとなしく見ておき、何かあったら援護するのが一番得策だ。
戦闘はなんとも作業的だ。始めに突撃して来たゴブリンは槍で突き刺し排除する。オーガがきた際には数人で正面からの戦闘を避けるように戦う。転ばせたり、視界を遮ったりとダメージは少ないが疲れさせるのにはちょうど良い。
その様子をレッドオーガは後ろからじっと見つめている。なんとも気味が悪い。こちらを観察して食えそうなら来る。食えないと見限れば撤退する感じだろう。実際にそこまで知能があるかはわからないが。
すると唐突にレッドオーガが後ろを振り向いた。何か来たかとも思ったが別にこっちにも増援はいないし、奴らにも増援がいるとは思えない。それに自分たちの増援ならわざわざ後ろを向いて確認する必要性もないだろう。
レッドオーガはそのままこちらとは反対の方向へ歩き出していった。撤退してくれるのかと思ったが何やら嫌な、胸糞悪くなるようなそんな感じがする。
「ラシャドール!あのレッドオーガのあたりを明かりで照らせるか?」
「簡単な魔法でいけますので少々お待ちを…」
ラシャドールの指先に幾何学模様の術式が現れたのちに野球ボールくらいの光弾が射出される。それはレッドオーガの行く先を明るく照らす。
そこには2人の子供がいた。
「な!さっきまであそこを確認した時は誰もいなかったのに!」
「隠れていたがわしらの声で助けが来たと思い出て来たんじゃろ!まずい!」
子供達もレッドオーガが来ていることに気がつき体を震わせている。しかし逃げるだけの体力がない。わしはとっさに魔力を巡らせ彼らの元に走る。
「だ、だめです!危険です!すぐに戻ってください!」
「ラシャドール!そいつらを片付けてすぐに来い!それまでなんとかしてみせる!」




