第7話 オーガ その1
「というわけで明日オーガ狩りに行くから護衛数人借りるぞ。」
「ふざけるな。娘の体を返してからにしろ、この化け物。」
その日の夕食の時にわざわざ説明してから行こうと思ったのに、すぐに却下されてしまった。しかし却下されたからといって諦めるわけもないが。
「その娘の体を返すためだとも。最近は魔力の消費が少なくて全くダメだ。まあお主が護衛たちに稽古の際に手を抜かせているせいもあるがな。」
「……気がついていたのか。」
「当たり前だ。わしを侮るなよ小僧。」
そう、ここの連中は全員手を抜いている。この娘の体を傷つけないためなのは十分にわかる。だがそれでは一向に魔力が減らない。このままの現状では一生娘に体を返してやることができない。
「このまま一生娘が帰らなくても良いのであればこれでいいだろう。しかし一刻も早く返さないと娘が楽しみにしていた学園生活が消えてなくなるぞ。」
「ぐ…だからと言って危険なことは許容できん。」
「可愛い子にも旅をさせなくてはならんぞラーカン。それにお主のところの腕利きの護衛を連れて行く。万が一の場合にも十分対応できるだろう?」
この屋敷には意外と腕利きが多い。今のわしでは到底かなわない奴も大勢いる。まあそんなに腕利きがいるのになぜ襲撃にあったかというのが疑問ではあるが。
「しかしな…」
「旦那様。私からもお願いいたします。お嬢様に一刻も早くお戻りいただきたいというのが我々の思いでもあります。」
今なかなか良い助言をしたのは父の側近、ラシャドール。この屋敷でも1、2を争う槍の名手だ。昔のわしなら十分勝てるがこの状態では逆立ちしても勝てる気がしない。早いところ体を作り上げて戦いたい相手の一人でもある。
「ラシャドール…しかしな……。いや、お前がついていれば万が一もないか。ではラシャドール、ほかにも数名の護衛を連れてオーガの討伐に向かってくれ。くれぐれも娘に万が一のことがないように頼むぞ。」
「はっ!お任せください。」
翌日、というわけにもいかず2日後の今日、ようやく出発となった。わしの他にラシャドール、その他20人を連れてのなかなかの部隊によるオーガ討伐隊だ。なかなかの面構えをした護衛たちだ。これは頼り甲斐がある。
そんな中をみんなで馬に乗り出発…というわけにもいかずわしだけ馬車に乗っている。目の前にはラシャドールが座っているがなんとも意心地が悪い。
「ラシャドール。わしらも降りて馬に乗ろうではないか。」
「ダメです。旦那様から言いつけられて降りますので。」
頭の固い奴だ。それにこやつ…なんというか…いや、言わないでおくか。
「わかったわい。それでオーガの確認された村というのは遠いのか?」
「そこまで遠くありません。今日の夜には着くでしょう。」
なんとも会話が弾まない。何度か話しかけてはいるがどうにも心を開く可能性すら見当たらない。このままの状態で夜までというのはキツイものがある。
「あなたは…異世界で武術家をしていたとか。」
「ん?そうじゃ。気になるか?」
こやつから話しかけてくるとは珍しい。出発してから4時間。最初の2時間はこちらから何度か話しかけたがそっけない態度。それから2時間沈黙が続いたというのに急に話しかけてくるとは。
「まあ…異世界の武術というのは気になりますね。」
「武術は人が扱う限り世界が違っても大差ないぞ。…いや、その土地の特色が出ているからそういった面白みはあるが、この世界で見た武術はどれも見たことのあるものだったな。」
「そうですか。」
「まあ意外と大したことのない奴らが多いがな。以前のわしなら指先で勝てるレベルじゃな。」
お、今一瞬表情に変化があったな。眉が少し動いた程度だったがそれでもこの仏頂面に変化があるのは少し面白い。いかん、悪い癖が出そうじゃ。
「お主くらいの槍の使い手ならゴロゴロおったしな。わしにかかれば子供の遊戯のようなものじゃが。」
「遊戯…ですか。」
お、また変わった。しかも今度はなんともわかりやすい。わしは昔からこういった強そうなやつにケンカを売るのが好きすぎる。婆さんにも何度も叱られたがこれだけはやめられそうにない。
「おっと…すまんな。ついつい口に出てしもうた。今のは失言じゃった。許してくれ。見世物くらいにはなるだろう。」
「貴様…頭に乗るなよ…」
「ホッホ!素が出ておるぞ。わしは一応お主の主人だぞ?」
ちょっとやりすぎたか。しかし楽しいな。昔ならこのまま試合ということになったのだが、さすがにこの状態では負けるのがほぼ確定しておる。負けるのを覚悟して戦っても良いが怪我をしたらこの嬢ちゃんに悪いからな。
「しかしなラシャドール。お主最近はまともに戦ってすらいないだろう?側近として仕えすぎたせいで腕を落としているだろう。」
「まあ…多少は。しかしそれでも負けることはあり得ません。」
「その程度の槍の腕でか?ラシャドール、世界は広い、お主程度の腕前なぞ掃いて捨てるほどおるぞ?少しは訓練をしておけ、今のお主なら1年後には越せそうじゃ。」
「その自信があると?」
「無論。なんせわしは史上最強と呼ばれて、事実それだけの力を生涯持ち続けたからな。」
一瞬だがまたラシャドールの表情が変わった。今の感情は怒りでも嘆きでもない。喜んでいた。なんとなくだがこのラシャドールとは仲良くなれそうな気がしてきた。
それから特に会話もなく気がつけば夜になっていた。そろそろ目的地であるオーガが確認された村に到着する頃だが、明かりすら見えない。まあ田舎だからこんなものか。田舎の夜は月明かり程度しかないからなぁ。それが風情があってまた良いのだが。
「ラシャドール様。少しよろしいですか?」
外にいた護衛から声がかけられる。ラシャドールが馬車の外に出た際に、何かあったのかと顔を覗かせると一瞬異臭がした。この匂いは嗅ぎなれない匂いだがなんとなく察しがつく。
「ラシャドール。護衛たちに周囲を警戒させろ。死臭がする。」
どうやら到着早々問題が起きたらしい。




