第5話
娘を返してもらおうぞ…か。どうやらふざけているわけでもないようだ。娘の中のわしに気がついたようだ。どこで気がついたか…まあ考えんでもわかるか。
「あの魔法の時ですか。」
「ああ、娘だったらどんな時でも魔法は問題なく使える。しかしそれができないということはお前が娘の中にいた化け物だということだ。」
どうやらこのわしの状況について色々知っていそうだ。是非とも教えて欲しいところだがこの状況では少し難しいか。
「化け物化け物って、少しひどくはありませんか?こんな可愛い少女に対して。」
「ふざけるな。娘は生まれた時から正体不明の魔力が取り付いていた。長年それを封じ込めてきたが襲撃の際にそれが解かれたのだろう。娘と同じ見た目と言葉遣いで騙そうとしてもそうはいかないぞ。お前を再び封印させてもらう。」
どうやら完全にわし、悪者じゃん。確かに娘に取り付いていたんじゃ悪魔や物の怪の類だな。しかしこのまま封じられるのも癪か。
「なるほど…少し休みませんか?椅子に座って紅茶でも飲みましょう。」
「黙れ、すぐにでもお前を」
「封印してそのまま隠し続けますか?一生苦しみ続けますよ?それにこちらは対話の機会を望んでいるんです。少し考えたらこの場はどうするかわかるでしょう?」
気にくわないようだが周りからも説得され少し話をする気になったようだ。椅子とテーブルを用意し、カップに紅茶を注ぐ。なんともピリピリとした雰囲気だが、この程度のことはもう慣れている。
紅茶を飲み一息つく。席にはわしと父、そしてランドルも席についている。二人とも空気をピリつかせている。ランドルは顔には出していないが見ればすぐにわかる。まあこのまま黙っていても仕方ないし話を始めるか。
「では話をしましょうか。その前にこの口調を変えてもよろしいですか?」
「とっととやめてもらおうか。吐き気がしてくる。」
「そうか、ではやめよう!いやぁカタ苦しくって疲れるわい。」
突然口調が変わったことで全員が驚き、固まる。まあこんな少女の姿でジジイみたいな話し方をすれば驚くのは当然か。
「さて!では色々とわしに聞きたいこともあるだろうが少し質問に答えてくれ。この状況のことを知っている風だったがこれはどういうことだ?」
「ふ、ふざけるな!娘の体を奪っておいて!」
「落ち着きましょうラーカン伯爵。これはマリーお嬢様のためです。」
ラーカン伯爵、つまり父を落ち着かせた後にランドルが説明を始めた。
この世界の子供の中には生まれつき魔付きと呼ばれる正体不明の魔力の塊にとりつかれるものがいる。その魔付きは人によって大きさは様々で、小さいものなら成長して行くうちに取り込んで己の力にすることができるものもいる。
しかしその魔付きの力が大きく、制御できないと自身が飲み込まれ暴走することがあるという。過去にはそれで人災が何度か起きている。
「なるほど、それでその魔付きのわかる方法が魔法が使えるか使えないかだと。」
「ええ、魔付きで精神を飲み込まれると魔法が使えなくなります。その代わりに魔法とは少し違う特殊な能力に目覚めると言われています。あなたも何か使えるのでは?」
「いや、全く知らん。そもそも魔法なんぞ知らなかった。いや、魔法というものはなかった。」
「それは興味深いですね。ではそちらの質問に答えたのですからこちらの質問に答えてもらいましょうか。あなたは何者ですか?」
「わしか?わしの名は戦原剛柔。地球出身の格闘家じゃ。ついこの間150歳で死んだ。死因は知らん。寝ている間に死んだみたいじゃからの。気が付いた時にはこの少女の体じゃ。この少女としての記憶も一応あるがなんともおぼろげでそっちも自分だという実感はわかない。襲撃を受けた際に変わったらしい。理由はよくわからんが、まあわしならなんとかしてくれると思ったのじゃろうな。」
一息付き紅茶をすする。あ、しまった。紅茶は音を立てずに飲むものじゃった。つい気が緩んでしもうた。
「ゴウジュウさんですね?では単刀直入にお願いします。マリーお嬢様に体を返してもらえませんか?」
「ん、ええよ。」
「すぐには受け入れがたいとは思いますがそれでもそれはお嬢様の…って、え?よろしいので?」
「かまわん構わん。わしにも子や孫、玄孫、来孫、昆孫と子もたくさんおったからのぉ。子供の人生を奪うというのは辛い。まあたまに出してもらえれば良い。体を鍛えればなお良い。」
子供の人生を奪ってまで自分の人生を謳歌したいとは思わない。そんなとこまでして生きたいと思うような人間にだけはなりたくはない。第二の人生を謳歌できると思ったがそうはうまくいかないか。
「では…封印の準備を。」
「いや、それは待て。」
「何を今更。それでも男か。」
「まあまあ、お主もこの子の父ならばこの子のことを考えるべきじゃ。ランドル、お主さっきこういったな。制御できれば己の力にできると。」
「確かにそう言いましたが…まさか。」
「うむ。どうせならこの子の力になろうではないか。この子に吸収されわしは消える。それでよかろう?」




