第4話
あれから1週間が経過した。毎日のように医者が来て様子を確認する。もう大丈夫だが、それでもいいとこの令嬢なのだ。心配なのだろう。
それと両親が見舞いに来た。忙しい身であるため、そう何度も来ることが出来ないのだろう。それでも空いた時間で顔を出してくれた。
正直言って両親の記憶は曖昧だ。自分の親という気は全くない。むしろこの歳なら、ひ孫に近いくらいだ。むしろひ孫よりも若い気が…
それでも曖昧な記憶からなんとか普段通りに接したつもりだ。やり取りの中で少女の両親が喜ぶと罪悪感に襲われる。
真実を告げたほうが良いのだろう。しかし、なんと告げればよいのかわからない。これだけは150年生きた儂でもわからない。
今日は1週間が経過したということで外に出る事ができた。早速今日からランニング、と行きたいところだがランニングすらできる体力がない。今日は一日歩くだけだ。
周りにはメイド達が付き従っている。あまり変な真似はできないだろう。それでも3時間も歩いているとヘトヘトになる。もっと身体を鍛えておけと文句を言いたくなるレベルだ。
いや、森の中を彷徨っている時はもう少し歩けていた。やはり12日間も寝ていると身体も鈍ってしまうということか。
一度外の椅子に座り、メイド達が用意してくれた紅茶を飲む。紅茶も悪くないが、やはり緑茶を飲んだ時のホッとした感じが恋しい。
しばらく休んでから再び歩こうかと思っていると遠くから1人の男が近づいて来た。
確か…ランドル先生だったかな?家庭教師の先生だ。主に教えてくれたのは確か…
「お久しぶりですマリーお嬢様。ご無事でなによりです。」
「ありがとうございますランドル先生。私もこうして先生に会えたことが嬉しいです。」
記憶の中にある最大限礼儀の正しいやり方で挨拶を行う。なんともこそばゆいがこれが少女にとっては当たり前のこと。わしの好き嫌いで変えてしまうというのは如何なことか。
「こうして無事な姿をまた見ることができて本当に嬉しいですよ。それと今日はご両親様に頼まれまして、学園に入学する前にもう一度授業を軽く行いたいということでした。」
学園。それはこのマリーが護衛を連れてこの街から出ていた理由の一つだ。この秋から学園に入学するために試験を受けていたのだ。試験は文句なく合格。その後、友人たちとお茶会をいくつか出席したのちに帰る道中で襲撃にあったのだ。
「ありがとうございますランドル先生。私も病み上がりなのでうまくできるか心配ですがうまくやってみせます。それで今日は何をいたしますか?」
「いきなり難しいことはやりませんよ。今日は軽く手慣らしです。簡単な魔法術を行いましょう。」
魔法。そう、この世界には魔法がある。なんとも信じられないことだが、記憶の中では確かに魔法を使っている光景がある。魔法は誰もが使えるということではなく、才能がなくては魔法は扱えない。
この少女、マリーはその魔法の才能が人一倍あるらしく第5級魔法まで扱える。魔法は第1級から第10級まであり、第10級が最も簡単で、第1級になると世界でも扱える人間は少ない。
そんな中マリーは第5級を扱える。第5級ともなると大の大人でも扱える人は少ない。そんな中でこれだけの魔法の才能をこの歳で持っているため、将来は世界有数の魔法師になるのではないかと言われている。
「魔法の授業ですか…わかりました。お願いします。」
「それでは簡単な第10級の火魔法を行いましょう。まさかとは思いますが術式を忘れてはいませんよね?」
「え、ええ。もちろんです。」
火魔法第10級呪文ファイア。とても簡単なもので魔力さえあれば誰でもできる魔法。攻撃性はほとんどなく手のひらや指先に火を灯す魔法。記憶の中でも術式というものは残っているし、使った覚えもある。
息を整え、目をつぶり術式を構成する。そのまま魔法名を声に出して見る。しかし…
「魔法が…出ていませんね。」
「すみません。まだ体の方が良くないのかもしれません。」
本来できたはずの魔法が出せない。やはりダメなようだ。
森でさまよっている時も魔法というものがあることを知ってこれは便利だと思い水を生成して飲み水の確保をしようと思った。しかしなぜか魔法を使うことができなかった。これに関しては何度試してみてもうまくいかず、結局諦めてしまった。
「もう一度試してみましょう。目を閉じて術式をイメージするのです。」
ランドルに言われた通りにやって見る。しかし何度やってもうまくいかない。そもそも魔法を扱う際に術式というものが発生するはずなのだがそれが出ない。第一前提からうまくいってないのだ。
その後も数時間やってみたが結局何も起きることはなかった。
「そうですか…ではもう……」
「どうかされましたか?」
「い、いえ。どうやら襲撃された時の影響で魔法がうまく使えていないのかもしれません。精神的なもので魔法がうまく使えないというのはよくある話ですから。」
「そうでしたか。ではもう少し体の調子を戻しておきます。」
するとランドルはまたどこかにいってしまった。このわしが襲撃された程度でへこたれるような精神の持ち主でないことは当たり前のことだが、もしかしたらわし自身が魔法に何か影響を与えている可能性も十分にあり得る。
とりあえず考えても仕方ないので十分休憩もとったことだし再び散歩をする。とっとと走れるくらいまで体を鍛えあげたいものだ。
その日の夕食後、父親に呼ばれ地下室に行った。流石に金持ちなだけあって家がでかい。まあ生前のわしも同じくらいの別荘は持っていたか。滅多に使わなかったが。
地下室に行くと幾人もの護衛が並んでいた。服装からして騎士のようなものとローブを着た怪しい奴もいる。
その中央に父がいた。その手には剣が携えられている。見るからに名剣だ。持ち手は金の装飾が施されていて外見の良さと実用性が兼ね備えられていた。刃は厚く、長さもあるためこの体では扱うことができないのが悔しいところでもある。
しかしそんなに重武装で一体これからどうするというのだろうか。まさか稽古?そんなわけはないか。
「お父様?これは一体どうしたんでしょうか。」
「……やめてもらおう。」
「え?」
「化け物に娘の姿形で父などと呼ばれたくもない。」
「えっと…どういうことですか?」
「黙れ。娘を返してもらうぞ。」




