第3話
とある城の中。まだ日も出たばかりだが、既に使用人達は動き出している。慌ただしく動きつつも、その音は静かで、今も寝ている主人達を起こさないように配慮されている。
そんな中、一つの部屋で少女が目覚める。その少女の服装やベッドを見れば少女のこの城での地位の高さがはっきり分かる。
少女は身体を起こし周囲を見回す。キョロキョロと見回す様はまるでここがどこか確認しているようだ。いや、実際少女はここが何処だかしばらくの間分かっていなかった。
そこが良く知る自分の部屋だと分かるとホッと一息ついた。それから考え込み悲しげな笑みを浮かべる。
「そう…上手くいったのね。だけど制御が効かない。もう……私は無理ね。ごめんなさいお父様。」
少女は誰もいない部屋でそう呟くと倒れ込むように再び眠りについた。
「ん……ふぁ〜〜…よく寝た。ここは…」
「お、お嬢様!お目覚めになられたのですね!」
起きると突然隣から女性の声がした。その女性は私付きのメイドだ。何かをまくし立てるように話したと思ったらそのまま人を呼びに行った。
なんとも慌ただしいが懐かしい光景に思える。いつも何かあると慌ててしまう。それが彼女の悪いところであり良いところでもあると思う。
「まぁその懐かしさも半減しているけどね。」
マリーとしての記憶はなんだかぼんやりしている。それでも森の中を彷徨っていた時よりかはハッキリしている方だ。
今まくし立てられるように言われたのは、私は森の中を歩いている時にうちの騎士団によって発見されたらしい。
発見された時はかなり危ない状態で急いで城へと連れ帰り、そこから1週間もの間、治療し続けたらしい。治療が終わってからも疲弊していた身体を癒していたため、目覚めたのは森で助けられてから12日後の今日となった。
このまま寝ているのもなんだし、起き上がってすぐにでも身体を動かしたいところだ。
しかし12日間も寝ていた所為もあって身体が固まっている。これはストレッチをして身体をほぐす必要がある。
「この身体は筋肉のない割に固い…柔軟と筋トレは日課にしないとダメね。」
長座体前屈なんて足の指先まで手が届かない。関節という関節が溶接されているようだ。これはまともに身体を動かせるようになるまで1年はかかるかもしれない。
どの程度の筋力があるのかと、試しに腕立て伏せをしようとしてみる。すると腕立ての姿勢を作るまでは良かったのだがその後が全く続かない。
「腕立ても…まさか一回もできないなんて…こんなの…都市伝説かと思ってた…」
ぐはぁと息を吐きながら腕立ての姿勢から崩れ落ちる。剛柔としては未知の体験。この少女にとっては当たり前だったのだろう。なんとも遣る瀬無い気持ちになる。
しかしそれと同時に、なぜか笑みがこぼれる。楽しくて楽しくてしょうがないのだ。
もう終わったと思っていた自分の人生。齢80を越えた後は、自らが培った武を整理し、それを昇華させ、突き詰めるだけだった。
その昇華させる最中に多くの技を考え出した。それを弟子に教え、やらせて見ても思った通りのものは生まれなかった。
しかし、今からならそれができる。世に広めることのできなかった技を自ら使うことが出来る。これほど喜ばしいことがあるか。
考えただけで鳥肌がたってくる。歓喜。身体中の細胞レベルで喜びが込み上がってくる。
まずはそのために身体を作らなくては。この身体に基礎を築く。その上で肉体に武を叩き込む。少なくても3年はかかるだろう。
いや、3年かけても形だけしか出来ない。だから10年、20年。まだまだこの身体は若い。じっくりと濃密な時間を過ごそう。
「ふふふ…楽しくなってきた。」




