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第22話 恐獣 2


明日も投稿できるように頑張ってみます。



「全員集まれ!奴が馬を食っている間に体制を整えるぞ!」


 隊長の指示のもとすぐに全員が動き出し体制を整える。しかしどんなに防御を固めても全く安心できない。あんな化け物を目の前にしたら、自分たちのちっぽけさが嫌という程伝わる。しかしそれでも絶望している暇はない。生きるためには必死に争わなくてはならない。


「お嬢様!奴の情報を!」


「キメラは人工的に作られた生物です。異なる生物を組み合わせた異形で、6種までで危険度はB、それ以上はAとなります。奴の場合現在確認できるだけで8種類。つまり危険度はAとなりますが、まだ隠れている可能性があります。下手をすれば危険度Sも視野に入ります。」


「見た目以上に危険なやつってことか…弱点は!」


「弱点は本来異なる生物のため結合が甘く、寿命が短くなりやすいので見つけた時は時間を稼げば自滅します。しかし私の見立てが正しければこのキメラは結合が完璧です。もし完璧なキメラの場合、寿命は通常の生物よりも長く寿命が尽きることはありません。」


「そんな最悪なことばっかり言ってどうする!何か手立てはないのか。」


「…キメラは異なる生物を結合していることで毒の耐性が強く、状態異常にはかかりません。さらに結合されたモンスターごとに魔石を所有しているため自然治癒力も高いです。キメラは生物にとして完璧なんです。しかし完璧なキメラを作ることはどの国でもできていませんでした。どこかに欠陥があって、使う種数が多いと使い物にならなかったんです。だけど…だけどこのキメラには今のところ欠陥は見つかっていません。勝つ方法は欠陥を見つけることです。」


「見つからなかった場合は我々の死か…」


「今のところ欠陥があるとしたら、食事量を見るからに奴は常時多量のエネルギーを使うということでしょうか。だからあのキメラは短時間の戦闘でも腹をすかせ、空腹になった時が我々の最後です。」


「いらない欠陥が見つかったな。馬…逃すべきじゃなかったかもな。」


 全員に動揺が走る。奴がその気になればいつでも全員を皆殺しにできるだけの力を持ち合わせているのだ。タイムリミットはキメラが腹をすかせるまで、それまでは嗜虐心の強いこのキメラならば我々でその快楽を貪るだろう。


 しかし逆に言えばその間がチャンスだ。奴は遊ぶためにすぐには殺さない。痛ぶり、恐怖に歪む我々を見て楽しむだろう。だからこそ油断している今がチャンスだ。奴にも通じる一撃を食らわせてやればいい。


「お嬢様、あれにも通じる魔法は何かお持ちですか?我々の剣は奴に届きそうにないので。」


「一つだけ…第5級魔法なら通じるかもしれません。しかし発動まで時間がかかります。私の使える全魔力を投じるためにも…5分、いや4分間時間を稼いでください。」


「10秒と持たなかった我々に4分間ですか…わかりました。この命に変えても稼いで見せますよ。全員散開せよ!奴の注意を引きながら時間を稼げ!」


 マリーは何も言わず、すぐに術式を形成する。マリーの使える魔法の中で最も高火力な一撃。しかしそのぶん複数の術式を同時に使用するため、困難を極める。しかし泣き言は言っていられない。


 素早く、それでいて丁寧に的確に術式を組んでいく。さらに術式に最大限魔力を加えることで発動する魔法の効果を高めていく。術式としてはこれ以上のものはない最高のものだ。


 その間、護衛の彼らは散開し注意を引き続ける。遠距離の攻撃ができる魔法師と弓使いを守るように剣士が一人づつついている。その組み分けが周囲に散らばり交互に攻撃を繰り返すことによって注意を引き続けている。


 キメラの前後左右から絶え間なく続けられる攻撃。通常ならうっとおしく感じ、暴れだすだろう。しかしこのキメラは違う。攻撃自体が全く通じていないのだ。だからなんとも面白そうに見ている。何をしてくれるのか、この後にどんなことが起きるのか、それに期待しているようだった。


 絶対的強者の余裕。何をされても意味をなさないと思っている。しかしその余裕も2分も経つ頃には飽き始めていた。


 だから少し恐怖を撒き散らそう。奴はそう思った。


「動き出したぞ!全員警戒しろ!」


 ひとまずキメラは一番近くにいた剣士と弓使いの組み合わせに近づいた。キメラにとっては歩く程度のスピードであったが、彼らには十分な速さだった。


 近づいてから前足を振り下ろした。ただそれだけ、ただそれだけで強化された盾はいとも簡単に切り裂かれ、腕を切り落とした。


「腕がぁぁ!」


「落ち着け!誰か奴の注意を引け!その間に助けて回復魔法をかけろ!」


 背後からの一撃、別にこれといって危険を感じない。しかしやるというのならば良いだろう。尾が形を変え、蛇の頭になる。蛇は前で守る剣士に絡みつき、後ろにいた魔法師の腕に噛み付く。


 剣士は締められたことによって肋骨を折られ、そのまま気絶した。魔法師は蛇の毒によって動くことも喋ることもできなくなった。しかし誰一人として死んではいない。殺してはならない。殺してしまっては遊ぶことができないから。


 左右から攻撃してきた者達がいたのでそちらに駆け寄る。するとその間に先ほど腕を切り落とした人間を運び、何かしている。すると切り落とされた腕がくっつき、元どおりになっている。


 キメラはその様子を見て、別に驚きも怒りもなかった。思い浮かんだ感情はただ一つ、良かった。心の底から本気で思った。腕が元通りに戻って、怪我があっという間に治って本気で良かったと思った。


 これでうっかり殺しかけても直してくれるとわかったから。


 キメラは暴れた、思う存分。しかし本気ではない。本気で暴れればすぐに壊れてしまうと知っているから。だから丁寧に、壊れすぎないように暴れた。その様子を見た人間が恐怖に歪む顔を見て、嬉しくて嬉しくてしょうがなかったが、調子に乗りすぎて壊さないように。


「できました!離れてください!」


 そしてその時はやってきた。護衛達が命をかけて時間を稼いだ4分間。たった4分だというのに酷く長く感じた。すでに全員満身創痍だ。しかしついにやってきたのだ。勝利のための瞬間が。


「第5級合成魔法メルトジャベリン。これでもくらえぇぇ!!」


 赤熱した鉄の槍は真っ直ぐに飛んでいき、キメラの頭部に突き刺さる。第5級合成魔法メルトジャベリン。この魔法は4つの魔法を組み合わせた第5級魔法の中でも難易度の高い魔法だ。


 通常のアースランスを変質させ、金属化させた第7級魔法メタルジャベリン。さらに熱を加えるために第9級魔法ファイアランスを組み込んだ。しかしそれだけでは熱量が足りない。だから第8級鍛治魔法火竜の火床で熱量を高めた。そこに推進力を加えるため第7級魔法精霊の息吹を組み込んだ貫通力の高い魔法だ。


 合成に使った魔法の等級は低いがそれでも組み合わせることで、その威力は第5級の中でも上位クラスに登る。込めた魔力も考えれば最上位クラスだろう。そんな魔法が見事にキメラの頭部に突き刺さった。


 しかもこの魔法は突き刺さった周辺に溶けた金属が張り付くため、熱による継続ダメージ、さらには熱が弱まった際に金属が固まることで起こる行動阻害の効果もある。モンスター相手には完璧な魔法だと言えるだろう。


 実際、キメラも想像以上のダメージだったのか悶え苦しんでいる。その悶え方は演技ではなく明らかに苦しんでいる。


 しかし殺すことはできなかった。この一撃ならば致命傷になることは間違い無いと考えていた。しかしあの悶え方はそうではなさそうだ。死に至るだけの傷では無い。いずれ起き上がり、再び襲いかかってくるだろう。


 しかし万が一のことも考えてある。それは第5級合成魔法メルトジャベリンによる行動阻害の効果だ。鉄は軽く数百キロの重さはあるだろう。しかし魔法によるものなのでいずれ消える。だが自分たちが逃げる間くらいの時間稼ぎは十分にできるだろう。


「撤退してください!今なら奴は動けません!今のうちに急いで逃げましょう!荷物は全て捨てて全速力で逃げるんです!」


 その意見に反対するものはいなかった。怪我人を担ぎ上げ、その場から全速力で逃げる。これでなんとかいきて逃げられるはずだ。

 誰もがそう思った。


 ドン!と何かの爆発音が聞こえた。誰もが最悪の予想をした。信じたくはなかった。しかしその爆発音に反射的に振り向いてしまった。


「嘘…なんで……なんで竜が…」


 先ほどまで固まりついていた頭部には竜の頭がついていた。子供でも危険度はBクラス。種類にもよるが子供でもAクラス以上の危険度を持つものもいる。そんな竜がキメラに合成されている。


「危険度S…いや、それ以上……」


 その瞬間察した。自分たちが相手にしていたのは単体で国を落とせるレベルの危険生物なのだと。はなから勝ち目などなかったのだと。第5級魔法など遊び程度だったのだと。


 絶望した。もう生き残る道はないのだと。しかしマリーは決して泣き崩れることはしなかった。今ここで諦めたら23人の命が尽きてしまうのだから。マリーは必死に考え、そして一つの可能性に賭けた。


「今から剛柔さんに入れ替わります。そして伝えてください。あの竜の頭こそが弱点になり得ると。竜は再生速度が高いです。その竜の再生速度がこのキメラが完全に形を成している理由です。だからあの竜の頭を壊したら自滅する可能性があります。」


「で、ですが!そうでなかった場合は!」


「だから保険をかけます。奴の魔力が尽きれば回復能力もなくなります。魔力さえ奪いきれば良いのです。」


「魔力を奪う方法なんてありません!もう逃げましょう!」


「いえ、あります。他にも燃え移り、魔力を燃やし尽くす聖炎なら魔力を奪えます。ただし剛柔さん自体の戦闘時間が短くなりますが仕方ありません。これに全てを賭けます。」


 マリーは人目も気にせず聖炎を使った。燃え移れば魔力が消えるまで決して消えない神の炎。本来の使い方とは違うが、それでも確実に役に立つ魔法だ。


「剛柔さん、お願いします。私たちの命はあなたにかかっています。」




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