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第21話 恐獣 1

明日も投稿できそうです。

「も、もう狙われているってどういうことですか?」


「そのままの意味じゃ。それよりもここだと見晴らしが悪い。どこか開けた所はないか?」


「それでしたら10分ほど戻ったところに良いところがあります。」


「ではそこまでゆっくりと戻れ。大丈夫、あれもすぐには攻撃してこぬ。」


 誰も疑問を抱かせぬうちにゆっくりと着た道を引き返す。戻る道中の間に現状の戦力を剛柔は把握する。


「剣士が15人に魔法師が5人。ロッテとバドラを合わせても剣士16人の魔法師6人か。魔法師のうち回復魔法が使えるのは何人だ?」


「私は一応第6級の回復魔法が使えます。他にも2人いたはずです。」


「わしも回復はできるから回復人数は4人か。嬢ちゃんが攻撃魔法を使えるから攻撃魔法人数は5人。剣士の中で弓が使えるものは?」


「実戦で使えるものはギリギリ6人です。槍ならば使えるものも多いですが…」


「槍ではダメだ。攻撃する人数は11人。それ以外のものは盾を持たせて防御にだけ専念させろ。負傷者はすぐに後退させて治療し、前線に戻せ。作戦指揮は護衛の隊長であるお主とバドラ、お主がしろ。」


「た、隊長はわかりますが私もですか!私に務まるかどうか…」


「お主では前線で盾になれん。後ろに下がって指示だけを飛ばせ。今のお主にできることはそれだけだ。」


 バドラに対して厳しい物言いだが、実際あれを前にして戦力になる人数の方が少ない。正直、護衛の中にも役に立たなそうなものがいるが、いないよりかはマシだろう。


 剛柔自身、今の自分では役に立たないと思っている。だからこそ、今のうちに作戦を伝えてマリーと入れ替わる予定だ。


「それにしても…いまいちピンとこないのですが、それほど危険な相手ですか?」


「危険だ。この世界に来てから一番危険だと感じた。正直レッドオーガとの戦いの際にラシャドールが率いていた部隊がいても状況はそこまで好転せぬ。本気のラシャドールが3人いてようやく少し安心できるレベルじゃな。」


「正直信じられませんが…まあ万が一に備えておくのも良いでしょう。それで作戦はどうしますか?」


「ある程度の指示は出すが実際に戦うお主達が考えた方がいいじゃろ。奴の出だしはおそらくわしの思う3パターンのうちのどれかじゃ。どれが来ても良いように考えろ。良いか、まずは……」




 剛柔達は少し戻った開けたところで陣を築いた。奴が来るまでに木を切り倒し、それを積み重ね、バリケードを築き上げた。さらに土魔法で隙間を埋めて強固な壁にしておいた。


 剛柔は先ほど一度マリーと入れ替わり、他のものに現状を説明させ作戦を伝えた。その後もう一度剛柔へと入れ替わっている。これは別に剛柔が戦うわけではない。奴の接近を感知するためだ。


「来たぞ、太陽の方角。そのまま近づいてくる。」


 剛柔の合図とともに全員が武器を構える。剛柔もすぐにマリーと入れ替わる。完全な戦闘態勢だ。


 やつは正面から馬鹿正直に現れ、威嚇している。そこに指示通りに魔法師が火魔法を放ち、剣士が弓を射る。すると見事に命中し、慌てふためいて暴れている。燃える自身の体に驚いて怯えている、まるでそこらの雑魚モンスターのようだ。


 普通ならここで剣士全員で切り掛かり勝利を収める。その場で待機していたとしても歓声が上がりそうなものだ。


 しかし彼らの表情はまるで違った。驚愕し、先ほどまでよりも闘志に燃えている。その理由は先に説明された、剛柔の3パターンのうち最も確率が高いと言われていたものだからだ。


「3パターンのうち最も確率が高いのはやつが正面から現れ、無様に攻撃をくらい慌てふためくことじゃ。そこで前衛の剣士達が切りかかったら死なない程度に攻撃されるだろう。そして我々の目の前でゆっくりと喰っていく。」


「どうしてそう思われるのですか?」


「さっき奴が喰っていたゴブリン達だ。あの図体のくせにあれほどまでにゆっくり喰うのは少しおかしい。だから気になってよく観ると、あのゴブリン達は食われながらも生きていた。やつは食欲よりも獲物が苦しみ、もがく様子を見ることが好きなタイプじゃ。人間ならば快楽殺人者と言われる類のやつじゃ。快楽を知るということは知能も高い。気をつけろよ。絶対に先走るな。生きながら喰われても誰も助けんぞ。」


 まさに剛柔の予想と完璧に合っていた。他の二つの予想は剛柔の見立てが違っていた場合の可能性で、一般的に考えられるものだった。


 そして剛柔の可能性が正しかった場合。それは最悪の場合を予想していた。戦闘力が高く、知能も高く、獲物で遊ぶ。つまり奴を倒すか、致命傷をくらわせて引かせるしか生き残る道はない。


 諦めるということはないだろう。なんせ我々に絶望を与えることこそ奴の目的なのだから。


「全員気を引き締めろ!考えられる最悪の敵だ!気を引き締めろ!」


「「「おう!」」」


 マリーは驚いていた。確かに剛柔は作戦を指示した。しかしそれに従う理由はない。それに根拠だってない。なのに彼らはそれを信じている。剛柔のことを信頼しているのだろう。


 マリーには決してできないことだ。何せ剛柔と出会ってからようやく護衛の人たちと、まとも話せるようになったのだから。それまではラシャドールにも嫌われていた。そんなマリーの体でも剛柔はすぐに打ち解けることができた。羨ましい才能だ。


 奴は未だに転がりまわっている。しかしどうやら相手が油断しないところを見ると動きを止めた。すると何事もなかったように立ち上がり、身震いをした。すると燃えていた火は消え、刺さっていた矢も抜き飛んだ。


 心底つまらなそうな表情をしている。もしも人間ならばため息の一つでも吐き、悪態をついていただろう。奴はじっとこちらを見つめて、駆け寄って来た。早いが驚異的なスピードではない。


 駆け寄ってくる方向に向けて護衛が盾を構える。もちろん盾には全て強化魔法がかけられている。さらに踏ん張りをつけるために身体強化魔法も使用している。この防御力ならば、たとえあのレッドオーガの一撃でさえも軽々と受け止めてしまうだろう。


 さらにはバリケードも設置されている。丸太を土魔法でつなぎ合わせただけだが、それでもそこらのモンスターは飛び越えるしか方法はないだろう。


 奴は何のフェイントも入れずに真正面からその盾に向かい走り寄る。そしてなんてことないようにまずバリケードにぶつかった。ぶつかる瞬間に力を込めた様子もない。魔法で強化した形跡もない。ただただ、ぼーっと走っていたらぶつかったという程度だろう。


 しかしバリケードはまるで発泡スチロールのように粉々に砕け、護衛は吹き飛ばされた。剛柔が見たらトラックに轢かれたのかと思うだろう。それほど軽々と人が飛んだ。バリケードと10名掛りの防御がまるで意味をなしていない。


 彼らも腕前は一流だ。他の貴族達に見られても恥ずかしくない力を持ち合わせている。しかしそんな彼らが役に立たない。竜巻の前の枯葉のごとく、なすすべなく飛ばされた。


「攻撃しろぉ!何としてでも奴を怯ませろ!」


 呆然とした全員に対し隊長が号令をかける。その声を聞いて後衛は我に帰り全員で攻撃する。思い思いの魔法を放つが系統は全て火魔法だ。ここで誰かが水魔法なんて使おうものなら魔法同士が相殺され、威力が落ちる。


 奴は獣だ。一番効くのは火魔法だろうと安易だが決められた。それに何より、火魔法は全員が扱える系統の魔法だ。集団戦闘において、最も合わせやすい魔法だろう。


 全員の火魔法は広範囲に渡っているがそれでも奴に向けて撃たれている。確実に全弾命中すると確信できた。しかし奴はそれを一吠えしただけで吹き飛ばした。力のこもった咆哮だったが、それでも咆哮一つで魔法師5人の火魔法全てを消し飛ばせるとは誰が思っただろうか。


 しかしそれでも攻撃の手を緩めない。正面から放った魔法をかき消された瞬間に左右から矢を浴びせる。まっすぐに飛び進んだ矢は吸い込まれるように奴に突き刺さる。幾本もの矢が奴に向けて放たれる。


「おい…嘘だろ……強化した矢だぞ。何で刺さらねぇ…」


 奴に突き刺さったと思われた矢はその体毛に絡め取られていただけだった。何一つ傷をつけていない。何一つとして意味をなしていない。


 奴はそのまま進み、繋がれていた馬に喰らいついた。大きめの手頃な餌だ。繋がれていることで逃げ出すこともできない格好の餌だ。


 奴は嗜虐心を持つこともなく、そのまま丸呑みにしていった。獲物が多いので遊ぶのは他のにしようと思ったのだろう。だから今は腹を満たすことだけに集中した。


「お前らぁ!逃げろ!」


 それはとっさの判断だった。喰われるくらいならと馬を繋いでいたロープを矢で貫いた。縄が切れたと知った瞬間、馬は我先にと逃げ出した。一度逃げて、馬が落ち着けば、また護衛たちが移動する際に呼び戻せる。


 奴もそれは予想外だったのか、逃げようとする馬の1匹に食らいつくが残りはさすがに追うことができない。すると急に奴の背中のあたりからトラの頭が出て来て他の馬に食らいついた。さらに首のあたりから蛇の頭が出て来てさらに他の馬に絡みついた。


 その光景はまるでこの世のものとは思えぬ異形のものであった。さらに一度出て来たせいなのか、体が膨れ上がり数倍の大きさになる。皮膚の一部にはゴブリンのような頭が張り付いていたり、もう何のモンスターかわからないものまであった。


 その光景を見たマリーは呼吸を忘れ、言葉が出なくなる。しかし、何とか声を出さないといけないと思い何とかその恐怖に打ち勝つ。


「敵はキメラです!想定危険度A以上の危険生物です!」


 それは生きる厄災とまで言われた超ド級の人造危険生物であった。



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