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第20話 誓いと邂逅

 翌日、今日はついにきた出発の朝である。護衛にはバドラとロッテと20名の手練れがついている。ラシャドールはというと、


「お嬢様、本当に私はついていかなくてよろしいのですか?」


「ラシャドールがいると敵が出てこなくなる可能性があるから。その代わり、いざという時は救援信号を出すから急いできてください。」


「それはわかっていますが万が一ということが……言っても聞きませんね、了解しました。」


 本音を言えばラシャドールにもついてきてほしかった。しかしラシャドールが来れば屋敷の警備がおろそかになる。他の手練れの護衛は兄たちの警護のため、王都周辺にいる。呼び戻すのは不可能だ。


 それにラシャドールがついてくるということになれば万全を期すため、ラシャドールの専用武器のあの魔槍を持ってくるだろう。普段は厳重に保管されているため見ることはないが、あの魔槍を持ったラシャドールの威圧感はすごい。


 千の敵兵をなぎ払い、慄かせたというあのラシャドールがついてきたら間違っても喧嘩を売る馬鹿はいない。

 …剛柔さんなら普通に売りそうだけど。


 とにかくラシャドールがついて来たら問題なく王都まで到着するのでダメなのだ。代わりに手練れの護衛を連れていくことで許可が下りた。本当は彼らもまずい気がするが、これ以上はお父様が妥協しなかった。


「それでは準備も済んだようなのでそろそろ行きます。お父様、お母様、ラシャドール、ランドル先生。次の休暇には必ず帰りますので、その時まで。」


 別れの挨拶を手短に済ませる。別に今生の別れというわけではない。お父様は涙ぐんでいるが無視して良いだろう。馬車に乗り込みようやく旅が始まる。




「順調ね、あまりにも順調すぎて退屈になるわ。」


「堪えてくださいお嬢様。まだ初日ですからこんなものですよ。」


 出発してすでに昼の休憩も済まし、日も傾き始めている。もうすぐ野営のする場所を見つけなくてはならない。それくらい時間が経っているというのに何も起きていない。


「あ、どうやら今日の野営地が見つかったらしいですよ。今日はゆっくりと休みましょう。」


「そうね…そうだわ!ロッテ、バドラと一緒に今日の夕食を取りに行きましょう!少し体を動かさないと鈍ってしまうわ。」


「お嬢様……剛柔様にだいぶ毒されていますね。」


 確かに。剛柔が出る前のマリーならば、どれだけ動かずにゆったりとしていられるかと考えていたものだ。ロッテも他の先輩メイドたちから聞いているのでそれと全く違うマリーの様子に度々戸惑っている。


「昔に比べて体動かすのが楽しくなっているから。まあそんなことはどうでもいいの、早く行きましょ。」


「ま、待ってください!今バドラを呼んで来ますから!」


 その後狩に出かけていくつかの獲物を確保し、夕食の足しにした。そんな普通の貴族ではありえないような、それでいて刺激のある日となった。


 そんな日々が2〜3日続いた。さすがにそのくらい経つと少し飽きてくる。しかしその飽きたくらいの時に、ちょうどあの忌まわしい襲撃事件の現場へとたどり着いた。


 すでに襲撃時の痕跡はどこにもない。すでに他の兵士たちによって、遺品や遺骨を集め終えている。それでもマリーは一目見ただけであの日のことを鮮明に思い出す。一種のトラウマだ。


「お嬢様、顔色が良くありません。少し休みましょう。」


「大丈夫よロッテ。これは乗り越えなくちゃいけない過去だから。それよりも周辺の探索をして。もしかしたら奴らが来ているかもしれないから。」


 バドラにロッテ、他の護衛たち全員で周囲の探索を行う。その間、マリーはその場から動けずにいた。もう自分が強くなってあいつらに襲撃されても大丈夫だと思っている。思ってはいてもその確証はない。根拠はない。


 しかしこうしてあの日のことを思い出すと体が動かなくなる。トラウマにはなっているとは思ったが、ここまでとは思わなかった。あまりの不甲斐なさにその場で地団駄を踏む。


 すると土の中から何かが出て来た。マリーは自分の手が汚れることなど気にせずそれを掘り出した。それはどうやら小さな鉄片だった。


「これって欠けた剣の一部?」


 別に何の確証もない。しかし何だかこの鉄片が私の護衛についていた人のもののように思える。剛柔さんからあの日の詳しい話は聞いた。私を守るために本来荷物持ちの人たちが命をかけて、命を賭して守ってくれたことを。


 あの人たちが今こんなところで、トラウマだの何だの言って動けずにいる私を見たら何をいうだろう。バカにするだろうか、情けないと叱るだろうか、こんなののために命を捨てたのかというだろうか。


「それとも頑張れって…言ってくれるかな。」


 ふと、記憶の中の彼らが笑ってくれたように思う。そんなの私のただの妄想に過ぎない。それでも、それでも私の足は動いた。


「もう立ち止まらないよ。もう、もう過去を悔やんだりしない。過去にとらわれない。あなたたちが守った私はすごいんだって知らしめる。だから、だからさようなら。」


 今この時、マリーは誓った。平凡な人生で十分だと思っていた自分はあの時、あの場所で死んだ。彼らのためにも何かを成し遂げよう。何を成し遂げることができるかわからないが、それでもやれるだけやってみよう。


 そして人々から賞賛を浴びた時に、私が生きているのはあの勇敢な騎士達のおかげだと胸を張って言おう。




 しばらくして周囲の探索を終えた護衛が全て帰って来た。どうやらなんの異常も見当たらず、敵の影すらなかったようだ。仕方ないのでまた出発する。まだ昼時だ。しばらくは進めるだろう。


 それからしばらく経ち、随分とあの襲撃場所から離れた頃。目の前に一体のモンスターが現れた。それはゴブリンを殺して食べているようだ。3体ほどの捕食されているゴブリンが見える。


「見たこともないモンスターですね。お嬢様はご存知ですか?」


「見た目は黒い狼。しかも大きい。ヘルハウンドにも見えるけど、ヘルハウンドなら足に炎を纏って瘴気を吐き出している。それにヘルハウンドはこの辺りには出ないはず…ダメ、どんな記憶に残っているモンスターとも一致しない。」


 馬車の中で話し合いをしたが結果は出ない。すると周囲にいた護衛の一人が馬車に近づいて来た。


「お嬢様、申し訳ありません。あのモンスターを知っていますか?」


「ごめんさない。誰もわからないみたい。」


「そうですか…こちらでも何のモンスターかわからなくて。ではあのモンスターを討伐してもよろしいでしょうか?この道沿いですし、ゴブリン程度は枯れるほどの力は持っています。周辺の村に行かれて被害が出たら困りますから。」


「そうですね…本来なら情報のないモンスターを狩るのは危険ですが、この戦力なら問題ないでしょう。あ、どうせなら実力だけでも測っておきますか?」


「実力を?一体どうやって?」


「以前剛柔さんが知らない相手でも見ればどの程度の実力かわかるって言っていたので。まあもしもわからなくても問題は起きませんし。」


 そう言ってマリーは剛柔と入れ替わる。すぐに目覚めた剛柔にロッテが事情を説明する。


「なるほどな。そのくらいならわしに任せておけ。そいつはこの先におるんじゃな?」


 剛柔は馬車の外に身を乗りだし、周囲を見渡す。すぐに例の黒いモンスターが視界に入った。そのモンスターは今もまだゴブリンを捕食している。図体の割に遅い食事だと思ったが、一瞬そのモンスターと目があった気がした。


「やばい…」


「ど、どうされたんですか?顔色が悪いですよ。」


「あれ…やばい。」


 剛柔の顔色が悪くなっているのが目に見えてわかる。こんな剛柔を見るのは初めてだ。


「ラシャドールの救援はすぐに呼べるか?」


「不可能です。もう離れ過ぎているので救援は呼べません。それほどまでにやばいのなら今すぐに逃げますか?」


「いや、もう無理だ。すでに狙われているわい。」


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