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第16話 剛柔のすゝめ その2

「うぅ…散々な目にあった…」


 木こりの人たちの手伝いをしてから急いで帰ったら、帰りを心配したランドル先生とお父様に説教されて。しかも剛柔さんは不味いと見るや否や、指輪をはめて逃げちゃうし。おかげで私は1時間も説教されちゃって。


 だけどおかげで使うことのできる魔力の量が極端に増えたから、まあよしとするけど。


「今日も疲れたしもう寝よう。」


 眠ったら剛柔さんに文句言ってやるんだから!





「あ!隠れるな!」


 眠ってすぐにいつものようにあの庭に着いたけど、私が現れた途端剛柔さんは奥に隠れてしまった。言ったらすぐに出てきたけど。


「すまん、ついな。」


「すまんじゃないですよ!私大変だったんですからね!」


「まあ抜け出したのはマリーちゃんだからしょうがないじゃろ。」


「それはそうですけど。」


 いつものように他愛のない会話。そんな会話をしていると奥から何やらいい香りがしてきた。


「お、ちょうど焼けたようじゃ。ちょっと待っとれ。今日のお茶菓子を持ってこよう。」


 そう言って剛柔さんは奥へ消えていく。それにしてもここが私の中にある空間っていうのが未だに信じられない。触感もあるし、香りも味もする。この空間は一体なんなのだろうか。


 少し待っていると剛柔さんは何かを持ってきた。見るからに美味しそうないい香りを放っているお菓子だ。


「今日はシフォンケーキを焼いてみた。生クリームも添えてあるからつけてお食べ。」


「いただきます!」


 フォークで一口大に切り取り生クリームをつけて食べる。フワッフワの食感と生クリームの甘く、なめらかな口どけがたまらない。思わず溶け出してしまいそうだ。


「おいしぃ…こんなに美味しいケーキ食べたの初めて。」


「それは良かった。頑張って作った甲斐があったわい。」


 手が止まらずパクパクと食べ進めてしまう。いつのまにかお皿は空になってしまった。しょんぼりとしていると剛柔さんはお代わりを持ってきてくれた。まだまだあるとのことなので食べ放題だ!


「それにしても…どうして美味しいんですか?だってここは私の中なんですよね?私こんなの食べたことないし、見たこともありません。この空間の原理そのものがまったくわからないんです。」


「ふむ。わしなりに考えて見て、色々と試して見たんじゃが、おそらくこれは記憶じゃな。」


「記憶?」


「ここの空間にあるものは全てわしが見て、聞いて感じたものだけじゃ。記憶の中にあるものだけ。だから例えばこの葉の味。わしはこの葉を食べたことはないからこうして食べて見ても味を感じない。」


「えっと…じゃあ私が今食べたシフォンケーキの味を感じたのは?」


「わしとの記憶を共有したからじゃ。ここはわしとマリーの記憶を共有することができる世界。わしが見て聞いたものを、マリーに体感させることができる世界ということじゃ。」


 なんというかものすごくすごい空間ということみたいだ。だけどこんな魔法聞いたこともない。ある意味世紀の大発見ではないだろうか。


 だけどこの空間を支えるのは魔付きの人間だけ。それもこうして意思疎通を問題なくできる人間だけだ。世界中探しても数人もいないだろう。


「だけど記憶の中のものを作り出せるんだったら作る必要はないんじゃないですか?こう…ポンって出しちゃえば。」


「一度やってみたがな、味が格段に落ちた。おそらく作成過程を含めることで、より強く記憶が引き出されるんじゃろ。それにお菓子作りも趣味じゃからな。案外楽しいぞ。一緒にやってみるか?」


「やる!」


 剛柔さんに連れられて奥のキッチンに行く。建物と比べてはるかに高性能そうなキッチンだ。食材もいくつか用意されておりすぐに作業に取りかかれる。


「おっと…クリームを切らせておった。今作り出すから待っておくれ。」


 そういうと剛柔さんは目を閉じて何か考え始めた。すると手の平に小さく四角いものができ始めた。


「それが…クリームですか?」


「紙パック入りのな。これが一番想像しやすい。初めて想像するものは時間がかかるが何度かやっておると早く作れるようになる。」


「便利だなぁ。魔法もこんな風に使えたらいいのに。」


「そういえば魔法はこういった物質の創造は無理じゃったな。」


「魔法も万能ではないですから。生命を生み出す魔法はありませんし、あまり複雑なものは魔法陣が対応しきれませんから。」


「魔法陣か。しかし魔法陣を使わなくても魔法はできるじゃろ?」


「ごく一部です。身体強化魔法は体内魔力をそのまま転用することでできますから。あと一定まで一系統の魔法を極めると第10級魔法なんかは魔法陣なしでできるようになるって聞いたことあります。多分剛柔さんが武装魔法を魔法陣なしで、できるようになったのもそこらへんが関係していると思います。」


「ふむ。魔法陣のことはよく知らんがわしはぶっつけ本番でその武装魔法はできたぞ?それに回復魔法も。」


「へ?ぶっつけ本番って…けど武装魔法は身体強化魔法と似たところがあるらしいので…けど回復魔法も?回復魔法は複雑な魔法で魔法陣を介さないとできないはずじゃあ…」


 回復魔法は第8級魔法だ。しかも傷によって魔法陣が変わってくるので難関な魔法の一つのはず。だけど剛柔さんは色々話してくれた。レッドオーガと戦った際に骨が折れるたびに骨をつなげ、皮膚が裂けるたびにくっつけて、最後には筋肉を回復強化した。


 骨を繋げるのは第7級、裂傷なんかは第8級だけど、筋肉を回復強化って…回復魔法の中でも人体変質に値する分類。第4級…いや第3級魔法に属する魔法だ。私だってまともに使えない。


 私はその異常さを剛柔さんに伝えた。どれだけすごいことか、どれほどの才能なのか。すると剛柔さんはなんてことないように言いのけた。


「わしは嬢ちゃんの体で嫌という程回復魔法を受けた。確かに部分ごとによって魔力の波長は少しずつ違った。しかしその本質的なところは同じ。傷を癒す、離れたところをくっつけるだけ。あとは傷を癒すためのイメージを固まらせる。それだけで意外となんとかなった。具体的にどうやって直すかまで考えるとより強く回復させられたがな。」


「回復魔法の波長を感じ取るって…しかも今のことをレッドオーガと戦いながら考えていたんですか?」


「体内に変な魔力が入り込んでくれば感覚でわかる。それに戦いながら同時に複数のことを考えるのは当たり前のことじゃ。マリーもそのうちできるようになる。」


「やっぱり剛柔さんって…天才なんですね。」


「まあ武の世界にこの人ありと言われておったからのぉ。それとおじいちゃんじゃよ。」


「はいおじいちゃん。」


 それから剛柔さん…おじいちゃんと一緒にシフォンケーキを作り始めた。混ぜたりするのが大変で、魔法で混ぜたくなったけどここでは魔法は使えない。全て手作業で行う。大変だけどなんだかやりがいのある作業だ。


 焼き上げる間もおしゃべりして、楽しく安らぐ時間が過ぎ去った。


 楽しい時間が過ぎ去り、完成したシフォンケーキはなんだか思ったものとは違かった。


「なんか…ぺちゃんこ。」


「ふむ…手順に間違いはなかった。しかしこの結果。もしかするとこれはマリーが作ったから記憶の中のイメージが正しく反映されなかった?マリーはこの作業を初めてしたから正しくイメージが固まらなかったのか。」


「味も…なんかぐちゃぐちゃ…」


「作っている間に様々なイメージが入り込んだんじゃろ。おそらくここで作り続けても上手くはいかんな。起きたら試しに作ってみるといい。作りながらイメージを固定させていくとここでも上手くできるようになる。魔法にだって同じことが言えるじゃろ?」


「魔法にも?魔法は魔法陣を使ってやるものだよ。イメージとかは…」


「何かするのに一つしか方法がないとは限らない。わしだって魔法陣なしで魔法を扱えたぞ?魔法を使うときも一つ一つ考えながら使ってみるといい。きっと役に立つはずだ。」


「うーん…わかった。魔力の波長?とかも考えながらやってみる。」


「よし。ああ、あとロッテにもこのシフォンケーキの作り方を教えてやってくれ。あの子達を預かったのはわしじゃが何もしてやってないからな。マリーも仲良くなりながら一緒に作るといい。」


「やってみる。ありがとうねおじいちゃん。」


「ええよ。ああ、もう起きる時間じゃ。ではまた今夜。」


「うん。ばいばい。」



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