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第14話 剛柔のすゝめ その1

 夜。マリーは一人部屋のベッドに横たわっていた。今日もいつものように魔力コントロールをしていただけだったが、これは精神的にきつい。なんせ一日中目をつぶり、自身の体内魔力をコントロールするだけなのだから。


 この数日間で多少の魔力コントロールはできるようになった。しかし、剛柔に精神を支配されていた際に、マリーの魔力が剛柔の側に引っ張られてしまい、今では第10級魔法を1日に数度使えるくらいしか魔力がない。


 なんとももどかしい気持ちだ。なんせ自分の中には膨大な魔力が満ち満ちている。しかしそのほとんどを扱うことができない。100年に一度の魔法の天才と言われていた自分が嘘のようだ。


「また明日も魔力コントロール…もう嫌……」


 マリーはまだ10歳の女の子である。もっと遊びたい盛りであるはずなのにそれができない。自分のためであることはわかっているが辛いものがある。


 それでも運命は変えられないと諦め、そのままぐっすりと眠りについていった。




「ここは?」


 マリーが目を開けるとなぜか家の前にいた。自分が立っているところはなんだろうか。見たことのない形式ではあるがどうやら庭のようだ。池もありなんだか心が安らぐ。


「おお、嬢ちゃんやっときたか。まっとったよ。」


「あなたは…」


 声のする方を向くと軒先に老人が座り茶をすすっていた。それは初めて会うはずなのだが懐かしいような、思わず嬉しくなってしまい飛びついてしまいそうな変な気分だった。


「ふぉっふぉ、わしじゃよ。剛柔じゃ。」


「あなたが…でも…どうして?」


「ここは夢の中。もっと正確に言えば嬢ちゃんの中。嬢ちゃんの魔力そのものじゃよ。」


 マリーは混乱する。一度深呼吸して落ち着いてみる。どう考えてもベッドに眠ってからの記憶がない。つまりそこで眠ったはずだ。


「精神干渉魔法?それとも精神支配系の魔法?」


「そんな物騒なものではないぞ。まあ干渉というのは間違いではないか。まあ立ち話もなんじゃからここに座ってお話ししようか。」


 マリーは言われるがまま、剛柔の横に座る。すると剛柔はすぐにお茶を入れる。普段から飲み慣れている紅茶と違い、緑茶は初体験だ。色はハーブティーに近いものがあるが全く別物だ。一口飲んでみる。するとどこかホッとするようなそんな気持ちになる。初めて飲んだのに安心する気持ちになってくる。


「…美味しい。けど苦い。」


「ホッホッホ、お嬢ちゃんには苦かったか。じゃあお茶菓子をあげよう。」


 剛柔が差し出してきたものは白く丸いものがいくつか串に刺さっており、それに黒い豆を潰したものが刺さっている。一口食べるともちもちとしていて甘い。


「餡団子じゃ。美味しいかい?」


「美味しい。これ好き。」


「そうかそうか。」


 静かな時間だけが過ぎる。風の音が聞こえ、水のせせらぎが聞こえる。心が休まる空間だ。しかし一体この空間はなんなのか全くわからない。


「剛柔さん。この家や庭はなんなんですか?」


「ここかい?ここはね。」


 剛柔曰く、マリーが指輪をはめてからというもの、ある一定の空間内に押し込められてしまったそうだ。無理やり出ようと思えば出られないことはないが、きっとマリーに迷惑がかかると思い、そうはしなかったそう。


 何もなく暇を持て余していると、ある時なんとなく思ったものがこの場に出てくることを知った。それからというもの以前自分が住んでいたところを作り出したということだ。


「じゃあここは剛柔さんの元々住んでいたとこ?」


「そうじゃよ。変かね?」


「ううん。素敵なとこ。…ごめんなさい剛柔さん。こんなことになって。」


「いいんじゃよ。案外気に入っておるしな。それよりわしの方こそすまんかった。嬢ちゃんの体を奪ってしもうて。」


 お互いに同じところにいるが会うことはなかった。初めて会ったから言いたいことも山ほどあるがどうしても先に謝っておきたいのだろう。


 そこからは思い出話に花が咲いた。マリーは全く知らない地球の暮らしを聞いたり、剛柔はこの世界のことについて聞いたりした。


 しかし楽しい話ほど終わりも早いものだ。もうすぐ目覚めの時だ。


 マリーは目覚める前に少しだけ弱音を吐いた。


「魔力コントロールがね。難しいの。どんなにやってもうまくいかなくて。ずっと座っているのも嫌になってくる。」


「じゃあ座るのをやめたらいい。」


「座らないとできないよ。集中できない。」


「座らなくたって集中できる。それこそ体を動かした方が帰って集中できる可能性もある。試しにジョギングしてみるといい。わしが嬢ちゃんの体を鍛えておいたから問題なく走れるはずじゃから。」


「じゃあ…試しにやってみる。」


「いろいろ試しなさい。試してみることは良いことだ。まだ嬢ちゃんは若いしな。」


「うん。それと…また会える?」


「これからは毎晩会うことになるぞ?ほれ、嬢ちゃんを誰かが起こしに来た。」


「うん。それと嬢ちゃんじゃなくてマリーだよ。」


「そうか。ではわしも剛柔でもじいちゃんでも良いぞ?ではマリー、また今夜。」


「またね。おじいちゃん」





「マリー様?マリー様?朝ですよ。早く起きてください。」


「おはようロッテ。私より小さいのに今日も早いね。」


「お嬢様…剛柔様からもらった仕事ですから。ちゃんと毎朝起こしに来ますよ。」


 どこかいつもと違ういい朝だ。マリーはとりあえずまだメイド見習いだが、何も仕事がないというのもまずいということで朝起こしにくる係に任命されている。これは私、剛柔さんが直々に命令したことなのでロッテも張り切っている。


 着替えを済まし、身だしなみを整えてから広間に移動し朝食をとる。少し前まではお兄様たちもいたが今では私とお父様、お母様の3人だけである。


「おはようマリー。今日も早いね。」


「おはようございますお父様。しっかり者のロッテがいますから。バドラもおはよう。」


「おはようございますお嬢様。」


 バドラは執事の仕事を学ぶためにお父様の執事であるグランチェさんから指導を受けている。その熱意はすごいのだが、午後からはラシャドールさんから剣の稽古を受けている。体が持つのか不安だが本人はやる気に満ちているので私から何かいうことはない。


 それと最近なのだけれど、食べる量が増えている。お父様やお母様は成長期なのだというけれどそれでも食べすぎな気もする。それでも食べても食べてもお腹が空いてしまうのだ。これも剛柔さんのせいだろう。


 朝食を終えるとランドル先生がやって来て今日の稽古が始まる。だけど今日は私のやりたいようにやってみよう。剛柔さんも言っていた。いろいろ試してみなさいって。



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