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第11話 オーガその5

「あ〜…疲れた。そんで持ってまた強くなったな。」


 魔力は空っぽだ。身体中がボロボロ。筋肉のいたるところがちぎれている。骨も軋んでいる。満身創痍だ。痛みでかなり辛い。


 しかしそれ以上に高揚感、満足感と達成感がある。まさか勝てるとは。


「いや、勝って当たり前か。なんせわしは武神じゃからな。」


 自然と笑みがこぼれる。こんなギリギリの戦いは生まれて初めてだ。自分の命をかけた真剣勝負。これほど楽しいとは…思わず癖になりそうだ。


 さっきから死んだオーガの血が流れ出て服に染み込んでくる。血生臭くなってかなわないが、全く動けん。そういえばラシャドールの方はどうなったことやら。


 しばらくそのまま待っていると遠くから足音が聞こえてきた。しかも複数。気配を感じ取り、問題ないとそのまま待っているとラシャドール達がやってきた。


「お、ラシャドール。どうやらそっちも終わったか?」


「お、お嬢様!ご、ご無事なんですか!?」


 どうやら染み付いたオーガの血をわしの血だと思ったらしい。かなり取り乱しているようだ。しばらく待って落ち着かせてやる。


「それにしても…このオーガを倒してしまうとは…」


「そんなことはどうでもいい。向こうに子供が二人いる。保護して何か食わせてやれ。」


「大丈夫です。すでに護衛の誰かにやらせておりますから。それにしてもよくご無事で。」


「まあな。しかしおかげで体はボロボロだし、魔力は空っぽだ。」


「魔力が空っぽ?ならお嬢様が出てきてもおかしくないはず…」


 そう、戦原剛柔の存在は魔力によって出てきているもの。つまりその縛りとなっていた魔力が尽きた今、マリーが出てくる…はずなのだが。


「変わろうとしたが今は嫌らしい。」


「それはどうして?」


「こんなボロボロの体は嫌だとさ。」


「は、はぁ…」


 さっきから変わろうとしているが、頑なに変わろうとしない。仕方ないので体が治るまで我慢してやるか。


「夜明けまでまだ時間もある。野営の準備をしておけ。夜が明けたら弔いをせねばならん。」


「了解しました。」


「それと動ける程度に回復も頼めるか?そろそろアドレナリンも切れて痛みが増して来る頃だから。」


「アドレナリン…?よくわかりませんがすぐに治療を行います。」


 数人掛かりでの回復魔法を行うがなかなか治療が進まない。これが回復魔法の欠点の一つだ。人にできる回復魔法の一日の総量がおおよそ決まっている。その量を超えると途端に回復力が落ちる。


 回復魔法さえあれば、大抵の傷ではほぼ死なないという便利な魔法だが、過信しすぎると治せなくなり死んでしまう。今回もすでにオーガ戦で回復魔法の総量を超えている。だからこうして回復してもらっても少ししか回復できない。


 まあこんなのでも気休め程度にはなる。動く事も出来なかった体が、肩を借りればなんとか動けるまでに回復した。すぐに眠りたいところだが、こうして動けるのならば確認したいことがある。


 肩を借りて移動したのは急遽建てられたテントの中。そこにはわしが守った子供達がいた。


 毛布をかけられ、温かい食事を取っている。どうやら何も問題なかったらしい。入ってきたわしに気がつくと手を止め、何かを言おうとする。しかし恐怖で声も出せず、隠れていた日々が長かったためか、なかなか声が出せない。


 わしは椅子を用意させ、子供達の前に座る。じっと目を見ると緊張してしまったのか固まってしまった。正直こんな状況の中隠れていたのでやっと安堵し泣きじゃくるかと思ったがそうではないらしい。


 助けられた今もまだ安堵できない状態なのだ。いや、この状況をうまく受け止められていないのだろう。今の態度と目を見ればよくわかる。


 親を亡くし、故郷を失った。それがあっという間に起きてしまった。あまりの大事件が唐突に起きてしまったのだ。人生を変えるような出来事が。不安にもなる。これからどうしたらいいのか。この先どうなるのか。


「初めまして。私の名前はマリー。ここにいる彼らの主人です。助けが遅くなり申し訳ありませんでした。」


 だからわしはごく普通に自己紹介をして、謝罪をした。マリーの記憶の中では貴族が平民に頭を下げて謝ってはいけないとある。しかし謝って何が悪い。ここで踏ん反り返って助けに来てやった、感謝しろとでも言えば良いのか?それは違う。


 悪ければ謝る。それがごく普通のことだ。時には悪くても謝ってはいけないときはある。しかしそれは今ではない。


 子供達も謝られたことで混乱している。状況を飲み込めていないのだ。しかしそれでいい。一度混乱させ全て状況を整え、理解する。悪手のようだがうまくやれば最善の手になる。


「あなたたちの住んでいた村の周囲でモンスターが確認されたという情報を入手し、こうして助けに来ました。しかし間に合わずモンスターの襲撃の後に来ることになってしまいました。現在のところ生き残りはあなたたち2人だけです。」


 一度混乱した脳は現状を理解するために情報を求める。そしてそこに、ことの始まりから何が起きたかを正確に伝える。


 こんなことは伝えなくても、被害にあったこの子たちの方がよく知っているはずだ。しかし時には、被害を聴いた人間から、こうして聞くことによって理解することがある。


「襲撃したモンスターは全て排除され安全は戻りました。しかし村は完全に壊滅し、復興の目処は立ちそうにありません。」


「あ、ああ…」


 全て聞いたせいで全てを正しく理解した。先ほどまでのことは本当は夢のように感じていたかもしれない。一生何があったかなど知らない方が良かったのかもしれない。しかしそれではこの子たちは前に進むことはできない。今を、過去を受け止めなければ前には進めない。


 泣きじゃくる子供たちをただただ見つめる。笑ってもいけない、同じように泣いてもいけない、怒ってもいけない。ただ表情を変えず見ているだけだ。


 しばらく経つと泣き止んだが、女の子の方はそのまま眠ってしまった。男の子の方も眠たそうだが、一言だけ伝えておこう。


「君たちをこのままにはできない。とりあえず明日1日かけて埋葬を行う。その後街に連れていくが、その後の身の振り方は自分たちで考えなさい。」


「…はい」


 厳しいようだがこのままではダメだ。親がいなくなったこの瞬間、この子たちは子供ではいられなくなった。大人にならなければならない。そのためにはまず自分たちのことを考えられるようにならなくてはならない。



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