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プロローグ

久しぶりに投稿です。よろしくお願いします。

 ダンジョンバトルキング、通称DBK。


 おそらく世界で最も有名なRPGでもあり、タワーディフェンス型のゲームでもある。数年前にシリーズの一作目が出てからというもの、異例の速さで世界中に大ヒットしたDBK。今ではスマホゲーム化、アニメ化、映画化などもされている大作だ。


 DBKはRPGでもあり、タワーディフェンス型のストラテジーゲームでもある。RPGパートで増やした仲間と共にダンジョンを防衛するのが最大の醍醐味だ。もちろん、自分から敵プレイヤーのダンジョンに攻め込む事も出来る。


 キャラの数も覚えきれない程存在し、戦略なんてのは、それこそ無限にあるだろう。


 とある動画サイトや掲示板では、日夜新しい戦法が研究されているらしい。


 兎に角、大人気のゲームなのだ。ダンジョンバトルキングは。







「真紅に染まる吸血城フェス……ねえ?」


 スマホの画面にデカデカと大きく表示された文字を見て、オレこと、佐倉枢(さくらかなめ)は思わず呟いた。現在、オレが見ているのはスマホ版DBKの情報サイト。攻略情報から最新のイベント情報、更にはDBK関連の都市伝説なんて物まで乗ってある何でもありのサイトだ。


 そんなサイトの一番上部に、デカデカと大きく貼られたお城と蝙蝠の画像。そして『新イベント情報! 真紅に染まる吸血城フェス!』という真っ赤な文字。どうやら新しいイベントが始まるらしい。


「あれ? このイベント今日からじゃん」


 イベントの詳細ページには今日の日付が書いており、その真下には現在イベント中と真っ赤な文字が書かれている。この情報が正しいのなら、もうイベントは始まっているみたいだ。


「でも、こんなイベントあったかなぁ……」


 自慢じゃないがオレはDBK作品の大ファンだ。中学の時、DBKにはまって以来、情報は毎日欠かさずにチェックしている。だから、新しいイベントが始まるのなら知っている筈なのだが……告知を見落としていたのか? うーん。でも、友達も今日からイベントが始まるなんて言って無かったしなぁ……。


 思い出せないが、多分見落としていただけだろう。そこまで気にするべき事でもない。それよりイベントの詳細だ。イベント情報のリンクをタップする。


 出現するエネミーの情報や、ストーリーでの重要アイテム。お勧めのパーティ編成や装備品などの情報がズラッと並んでいる。それらを下にスクロールしながら読んでいく。出遅れた分、サクサクと攻略していきたい。


 情報をズラッと眺めた後、一番下のコメント欄が目に入った。ここにはユーザーが自由にコメントを打つ事が出来る。何の意味も無い記号の羅列から、耳寄りな情報。ガチャの爆死報告なんて物まである無法地帯だ。その為、普段は読み飛ばしているのだが……今回はそうならなかった。


『フレアちゃんかわいい』


『フレアちゃんが尊い』


『感動した』


『ガチャ回さないと』


『フレアちゃああああん(泣)』


『フレアちゃんprpr』


『フレアちゃんまじ吸血天使』


『早くガチャで当ててあげたい。またフレアちゃんに会いたい』


 勿論例外はあるが、コメントの多くはフレアというキャラクターについてのコメントだった。それも、その全てが好意的なコメントである。普通なら、少しのアンチぐらい湧きそうな物だが……それすらも見付からない。はっきりいって異常である。……成程、どうやら今回のイベントは所謂、神イベントなのだろう。好奇心が刺激される。

 

 スマホ版DBKにはガチャ制度がある。魔術結晶を一定数消費する事で、ガチャを引く事が可能だ。そして、ガチャで出たキャラクターや装備を自由に編成し、冒険に行くことが出来る。コメントを見る限り、どうやらフレアはガチャで出現するキャラクターらしい。おそらくはイベントの期間だけ出現する限定キャラクターなのだろう。


 取り敢えず、ある程度調べはついた。ホーム画面に戻り、DBKのアプリを起動する。アプリが立ち上がり、慣れ親しんだDBKの音楽が聞こえて来た。さあ、イベントを楽しもうか!












「……! ちょっと……おい。なんで……フレアちゃん……」


 涙が止まらない。アプリを立ち上げて数時間後、オレは無事にイベントのストーリーをクリアした。ストーリーは吸血城のボスである伝説の吸血鬼、デューク・ヴラッドが復活し、それを倒すというシンプルな物だった。


 ストーリー上でプレイヤーはとある人物を仲間にする。その人物こそがフレアだ。フレアは吸血鬼と人間のハーフ。母親が人間で、吸血鬼に母親を殺されている。そして、母親を殺した吸血鬼こそがデューク・ヴラッド。彼女の母親の仇でもあり、そして父親でもある。


 フレアは吸血鬼を憎んでいた。吸血鬼を滅ぼす機会を伺っていた。そんな中、フレアの住む村に主人公が訪れる。


 フレアは主人公達にデューク・ヴラッドの討伐を依頼する。主人公達はそれを受諾し、フレアと共に吸血城へと赴く。様々な困難を乗り越え、フレアは徐々に主人公に心を開いていく。


 そして最後、デューク・ヴラッドが放った必殺の攻撃から主人公を庇い、命を落とすのだ。


 スマホ画面に表示されたイベントクリアの文字が虚しい。


 吸血鬼がいない世界を生きたい。わたしみたいな、吸血鬼に人生を狂わされた人をもう出したく無いって言っていたじゃないか。ヴラッドを倒したら、世界を回るのも楽しそうって言っていたじゃないか。何で、君まで死ぬんだよ。


 イベントのエピローグが流れ終わり、いつもの画面へと戻っている。イベントのアイコンにはclearという文字が被さっていて、タッチしても再度始める事は出来ない。どうやら、一度だけしか参加出来ないイベントの様だ。


 …………。


 下部のアイコン欄からガチャのアイコンをタップする。画面が移り変わり、ガチャのページが表示された。


『真紅に染まる吸血城フェス! 限定SSR、フレアを当てよう!』


「やっぱ、SSRかぁ……」


 呟く。ガチャにはレアリティが設定されている。コモン、アンコモン、レアと言った風にだ。そしてSSRはその中でも最高のレアリティを誇る。出現率は脅威の0.5%だ。まず当たらない。


 フレアは魔術師タイプのキャラクター。オレは無課金だが、既にSSRで魔術師タイプのキャラクターを一人だけ持っている。だから当てる必要は無いと言えば無いのだが……。


 ……取り敢えず、溜まっている魔力結晶で一回は引けるな。うん。


 そのままガチャのボタンをタップ。豪華な演出が展開される。


「ですよねー」


 出現したのはレアキャラクター。やはり単発ではSSRは出ないか。いや、これどうしよう。フレア欲しいんだけど。性能とかじゃなくて、普通に欲しい。それに、限定だしなぁ。


 DBKの限定ガチャが復刻しないのは有名な話だ。つまり、この機会を逃せば二度とフレアには会えないという事になる。


「課金……するか?」


 オレは今まで無課金でDBKをプレイしてきた。だが、とうとう無課金の誓いを破る時が来たのかもしれない。オレは高校生だが、使っていないお年玉ならまだまだある。軍資金的には十分な筈だ。


 だがしかし、ここでお金を使って後悔しないだろうか。所詮はデータ。自己満足以外に得られる物は無いだろう。


「……フレアちゃん」


 いや、それでも欲しい。回そう。ガチャを回そう。彼女を当てなければ、きっとオレは後悔する。


 コンビニへダッシュして、プリペイドカードを購入する。家まで待てない。近くの公園のベンチに座り、オレはガチャを開始した。狙うのは勿論、限定SSRフレアだ。十連のボタンをタップする。心なしか演出がいつもより豪華な気がする。これは一発で出たかもしれない。来い! 来いっ!


「SRか……」


 しかし、出てきたのはSR。上から二番目のレアリティだ。普段ならこれでも大勝利と言えるのだが……今回オレが狙っているのはSSR。フレアが出るまでガチャを止めるつもりも無い。さあ、もう一度だ……! 大丈夫、次はきっと当たる――!


「……畜生」


 出ない。出ない出ない出ない出ない――!


 確率絞りすぎじゃない? 本当にSSRなんてガチャに入ってるの?


 ガチャの画面に表示された魔力結晶も気付けば、十連一回分しか残っていない。マジか。


 引くのをここで止めれば――いや、でも。後退は無い……よな。オレはフレアが欲しい。当てたい。だから引くしかない。そんなのは分かりきった事だ。


 震える手で、再度十連のボタンをタップ。既に見慣れてしまった演出が……!?


「SSR確定演出!?」


 思わず立ち上がり、叫ぶ。虹色の魔法陣が弾ける演出はSSR確定時の演出だ。つまり、この十連の中にSSRが入っているという事。使った金額を思えば手放しには喜べないのだが、まあいいだろう。最後の最後に出るというのも、何と言うか運命的だ。諦めなくてよかった。諦めなければ夢は叶う。オレは今完全にそれを理解した。


 演出が終わり、対面の時間だ。この時を待ちわびたぜ。


『ルルシー。……よろしく』


 画面に出現したのはフードを被った青い髪の無口ロリだった。違う、お前じゃない。お前じゃないんだよぉ……。


「……はい」


 ベンチに座りなおし、空を仰ぐ。涙は零れなかった。嬉しくない訳では無い。いや、普通に嬉しいよ? ルルシーは人気投票でも上位にランクインするキャラだし、オレも好きだよ? それにルルシーは近接タイプ。性能的にもありがたい存在ではある。でもなんだろう、この気持ち。なんか、素直に喜べない。


 フレアは欲しい……が、流石にこれ以上課金する気にはなれない。縁が無かったと諦めるしか無いのか……。


 オレは未練がましくスマホの画面を眺めた。あれ? 後単発一回分だけなら魔力結晶残ってるな。


 いや、でも十連で出ないのに単発で出る訳が無い。いやいや、まさか、ねえ? これは次のイベントに備えて貯めておくべきでしょう。それが賢い選択ですよ。そんなことは分かりきってる。


 ……でも、ここで諦められるくらいならそもそも課金なんてしてねえんだよなぁ!


 単発ガチャのボタンをタップ。ここまで来たら意地だ。


 確率の壁を突破しろ。物欲センサーを全力で誤魔化せ。ガチャってのは単純だ。当てられた者が勝者で、外した者は負け犬。成功者をただ眺めているだけの存在だ。オレは敗者じゃねえ! まだオレは負けてねえんだ。


 いや、違うな。オレは勝者になるんだ。


 スマホ画面に表示されるガチャ演出。出現したのは青色の魔法陣。この演出は……普通のレアキャラ演出だ。つまりは、ハズレ。

 

「畜生……!」


 そりゃそうさ、当たる訳が無い。今まで出ていないのに、ここで当たるなんて都合の良い話がある訳がない。限りなくゼロに近い確率に挑戦して、順当に賭けに負けた。たった、それだけの話さ。


 もう今日はDBKをやる気分じゃ無くなってしまったな。オレはアプリを終了されるため、再度スマホ画面に目を向けた。


「えっ……」


 青色の魔法陣が弾け飛び、中から真紅に染まった魔法陣が表れた。これは……レアかと思わせて実は当たりだった騙し演出!?


 騙し演出はSSR確定だと聞いた事がある。まさか、本当に!?


 オレは再びベンチから立ち上がり、祈るような気持ちでスマホを凝視した。


「来いっ! 来いぃぃぃっ!」


 赤色の魔法陣が輝き、キャラクターが表示される。


『……何よ、ジロジロ見て。変な顔してるわよ、大丈夫? 折角わたしが仲間になってあげたんだから、もっとしゃんとしなさいよねっ』


 ――吸血鬼特有の真っ赤な瞳に、口から小さく覗かせる牙。魔法使いのような真っ黒なマントにとんがり帽子。そして瞳と同色の長い髪。


 フレアだ。


「っ……! 来たああああっ!」


 オレは周囲の迷惑も考えずに大声で叫んだ。大勝利である。DBKを好きでよかった。今なら心からそう言える。すぐにでもレベル上げをしたい所だが、スマホの電池残量が残り少ない。一旦家に帰って、充電しながらフレアを育成しよう。


 オレは公園を後にし、うきうき気分で帰路についた。……思えば、これが原因だったのだろう。


 家でガチャをしていれば、もっと周囲を確認していれば。そもそも、課金をしなければ。


 可能性の話ならばそれこそ無数にある。たまたま、そう、本当にたまたま、オレはこの結果を引き当ててしまったというだけ。


「へ?」


 ただ、結果だけを述べるならば。帰宅中、オレはトラックに跳ねられた。原因は分からない。まあ居眠り運転だとか、そんな下らない理由だろうなとは思ってる。


 オレの地球での最後の記憶は、身体中に走る激痛と、どこか遠く聞こえる人の声。


 あぁ、オレはこれから死ぬんだなぁ。なんて、のんきにも考えたものだ。

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