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第7話『リフレイン』

 ――いつまでも待ってるよ。

 ――折笠さんのことを信じてるわ。


 朝倉先輩も生駒会長も私のことを買いかぶりすぎている。私のことを知らないくせに信頼するとか言って。知らないから信じるべきだとか言って。そんな綺麗事、信じられるわけがないでしょ。


「信頼の押し売りだよ、あんなの」

「……へっ?」

「ご、ごめん……」


 教室に戻ってきて、残りのお弁当を食べようかと思ったけど、なかなか箸が進まない。2人の先輩方の顔や声ばかりが頭の中でリフレインする。


「生徒会長に何を言われたの? 例のこと?」

「……うん。生駒会長からも風紀委員になるように勧められて。強制じゃないんだけれどね」

「そうなんだ。生徒会長さんからも勧められるなんて、ことみんには何か光るものがあるのかもね」


 理沙ちゃんはにこりと笑ってそう言ってくれる。

 生駒会長の真意はどうか分からないけれど、朝倉先輩は絶対にパンツ絡みだと思う。そうじゃなきゃ風紀委員になろうと誘ってなんかこない。


「……ことみん、嫌々そうに言ってはいるけれど、あたしには迷って見えるな」

「……理沙ちゃんには心が見透かされちゃっているなぁ」


 何でだろう。顔に出ちゃっているのかな。

 朝倉先輩と生駒会長には否定的なことを言ったけれど、実は迷っていて。おっちょこちょいでドジな私のことを信頼してくれていて。それが嬉しくもあって、申し訳なくもあって。

 それに、今、風紀委員になったら、それは朝倉先輩の側にいたいだけな気がして嫌なんだ。風紀委員はそんな柔な気持ちでなっちゃいけないと思うから。


「まあ、どんな決断をしても、あたしはことみんの味方だからさ。じっくり悩めばいいんじゃないかな。あたしで良ければ相談に乗るし」

「……ありがとう」


 理沙ちゃんが友達で良かったな。

 ちょっと心が軽くなったけど、やっぱり今すぐには答えは見つからなくて。午後の授業はあまり集中できなかった。



 今日もあっという間に1日が終わり、放課後に。


「じゃあ、あたし、テニス部の見学に行ってくるね」


「ごめんね。一緒に行けなくて」


 風紀委員のことばかり考えていたら、テニス部の見学に行く余裕がなくなちゃった。一緒に行ってみようって約束していたのに。


「別に気にしないでいいよ。あんなことがあったんだし。今日はもういっその事、好きなことをして明日から考えればいいと思うよ」

「……うん」

「じゃあ、また明日ね!」


 理沙ちゃんは1人でテニスコートの方へ向かった。前にテニスが好きだって話していたし、もしかしたらテニス部に入部するかも。


「……あっ」


 朝倉先輩の姿が見えた。制服の左袖に『風紀委員』って書かれているワッペンを付けている。真面目な感じで歩いていると、本当にかっこいい先輩なんだけれど。あれでパンツド変態なんだから人は見かけによらない。

 朝倉先輩に見つからないように、下駄箱の影に隠れる。


「……あんな先輩でも、ちゃんと仕事してるんだ……」


 彼女の横で仕事をする姿……想像できないな。


「……私に務まるわけない」


 学校内だけではなく、時には昨日のように校外で生徒を守らなければいけなくなる。きっと、風紀委員になっても朝倉先輩の足手まといになるだけで、彼女に迷惑をかけるだけだと思う。だから、ならなくていいんだ。

 朝倉先輩の姿が見えなくなったところで、私は校舎を後にする。


「よぉ」

「……えっ?」


 校門を出て少し歩いたところで、見知らぬ男達に声をかけられる。

 私以外の人に声をかけたかと思ったけど、周りには誰もいない。


「昨日は随分と俺のダチと遊んでくれたらしいじゃねえか」

「えっと、そ、それは……」


 この人達、昨日……私を追いかけた男達の知り合いなの?


「ちょっとこれから俺達と遊ばない? ダチが遊べなかった昨日の分もさ……」


 1人の男の手が肩に触れる。

 に、逃げないと。でも、脚が震えて……逃げることができない。どうして、昨日はすぐに走れたのに、今日はできないの?

 ――ドンッ!

 民家の外壁に追い詰められてしまう。


「あいつらの分まで楽しませろよ」

「う、ううっ……」


 私、これからどんなことをされちゃうの? もう、絶望と恐怖以外の感情が抱けない。

 怖いよ。誰か助けて。

 そんなときに私の頭によぎった顔は――。


「パンツ・フォー!」


 昨日と同じだった。

 その一言で、襲われかけていた私のことを助けてくれる。その人の名前は――。


「朝倉先輩……」

「……もう大丈夫だよ」


 そう言うと、朝倉先輩は私を襲おうとした男達を次々と倒す。昨日と同じように男達を素早く気絶させて。そのときの朝倉先輩はとても凜々しくてかっこよかった。


「まったく、女性を襲おうとする男は最低だね」


 すると、朝倉先輩は私の方を見て、


「大丈夫? 何かこいつらに変なことをされなかった?」


 爽やかな笑みを浮かべて私に優しく声をかけてきてくれた。


「……えっ」


 気付いたときには、両目から涙が流れていた。


「もしかして、あの男達に何かされた?」

「いえ、何でもありません。でも……」


 今、ようやく分かったんだ。

 朝倉先輩や生駒会長の言っている「信頼する」という言葉が。

 パンツの件で、朝倉先輩のことが嫌になった部分もあった。

 でも、好きな気持ちは全く消えなくて。いつも気になっちゃって。男達に襲われそうになったときに真っ先に思い浮んだ顔が、今のような朝倉先輩の優しい笑顔で。

 私は……朝倉先輩のことを信じているんだ。朝倉先輩なら、昨日の時のように助けてくれるって。

 それなのに、私は朝倉先輩にひどいことを言って、生駒会長にはもやもやとした感情を当たり散らして。


「私、最低だ……」


 朝倉先輩や生駒会長の優しさは嬉しいけれど、こんな私に風紀委員なんて務まるのかよく分からないよ。自分勝手な私なんかに。


「琴実ちゃん」


 すると、朝倉先輩はポンッ、私の頭を軽く叩いて、


「風紀委員は生徒を守るためにもいるんだよ。そして、私は琴実ちゃんを守るためにここにいる。何があっても、私は琴実ちゃんのことをいつも見ているし、守るよ。それだけは忘れないで」


 朝倉先輩のそんな言葉にさらに涙を流してしまう。

 そんな私のことを朝倉先輩はそっと抱きしめてくれた。私はそんな先輩の背中に自然と両手を回していたのであった。

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