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第2話『信頼するということ』

 ――風紀委員になって、私の相棒になってよ。


 朝倉先輩の言うとおり、真面目なお願いだけれど、


「どうして、私を風紀委員にしようと思うんですか? 私はその……朝倉先輩に助けられた立場です。そんな私に風紀委員が務まるかどうか……」


 それに、風紀委員となると……白布女学院(しらぬのじょがくいん)の生徒の見本となるような学校生活を送っていかなければならない。朝倉先輩のような変態さんじゃないけれど、昔からドジっ子とかよく言われるし。真面目だって言われたこともそんなにないし。


「務まるよ、琴実ちゃんなら」


 爽やかな笑顔でそう言われると、キュンとしちゃうな。ううっ、あんなに恥ずかしいことをされたのに好きな気持ちが湧いてきちゃうなんて。ちょっと悔しい。


「……あの、朝倉先輩。そういえば、どうして先輩のようなパンツ好きが風紀委員になることができるんですか?」


 物凄く失礼なことを訊いてしまった気がするれど……いいよね。既に先輩から変なことをしたんだから。


「……頼まれたんだよ、親友にね。元々興味はなかったんだけど」

「朝倉先輩のような方に頼む親友がいるんですね。先輩、学校ではガルパン好きなことを隠しているんでしょうね」


 女の子のパンツを見る、触る、嗅ぐようなことをしている生徒に、普通は風紀委員にしないもんね。むしろ、風紀委員会で取り締まるべき生徒だもん。


「ははっ、琴実ちゃん……温厚そうだけど、言うときは結構言うんだね」

「言いたくなりますよ。だって、あんなことをされたら――」

「琴実ちゃん」


 私の言葉を断ち切るように、朝倉先輩は私の名前を口にした。その時の彼女の表情は真剣そのもの。不覚にも格好いいと思ってしまう自分が、また悔しかった。


「お願いされるってことはね、頼んでくれる人が自分のことを信頼してくれているってことなんだよ」

「……どうなんですかね。朝倉先輩、とても運動神経が良さそうじゃないですか。そこを買われただけかもしれませんよ。さっきみたいに、男相手でも撃退できそうだって」

「……そうかもしれないね」

「そうですよ。信頼なんて、そこに……あるわけないじゃないですか。あんなことをする朝倉先輩、なんかに……」


 本当に私は酷いことを言っている。

 沙耶先輩は私を襲おうとした男達から助けてくれて。でも、パンツを見せたり、触ったり、嗅いだりと私の嫌がることを楽しんで。


「琴実ちゃん……」


 そう、私は朝倉先輩から裏切られたような気がしたんだ。助けてくれたことで生まれた信頼を、パンツの一件で失ってしまったと。

 何時しか、朝倉先輩の顔が揺らめいて見えていた。


「……確かに、彼女が私を信頼しているとは言いきれないかも。でも、私は彼女を信じているんだよ。こんな自分に風紀委員を薦めてくれたのは、どんな理由であれ私に風紀委員になってほしい気持ちと、私なら大丈夫だっていう信頼があるんだって」

「朝倉先輩……」

「私の欲求を満たすためだけにあんなことをしたら……君が抱く私への信頼感がなくなっても仕方ないと思ってる。それでもね、私は琴実ちゃんが風紀委員になって、私の相棒になってほしいと思っているし、琴実ちゃんとなら大丈夫だっていう信頼がある。それだけは覚えておいてくれるかな」

「……私のこと、ほとんど知らないのに。よく信頼しているなんて言えますね」


 朝倉先輩の言っていることは正しいと思う。

 けれど、出会ったその日に、あんなことをされたのに、信頼しているなんて言われても私に朝倉先輩を信頼できる自信はない。むしろ、今の言葉でムカついた。


「朝倉先輩が知っている私のことなんて、私が今穿いているローライズのパンツぐらいじゃないですか! それなのに、信頼しているなんて言わないでください!」


 荒ぶった口調で、声を大にして、イライラとした気持ちを朝倉先輩にぶつける。今のせいで喉がジンジンしてしまう。

 朝倉先輩は静かに微笑んでいた。どこか、寂しそうに。


「……知らないからこそ、信じるべきだと思うんだけどな……」


 独り言のように朝倉先輩は呟く。


「……でも、私がどう思っていても、琴実ちゃんが私を信じることができない限りは相棒にすることはできない、か」

「そ、そうです。朝倉先輩のこと信じられませんし。ですから、私は風紀委員にもなりませんし、朝倉先輩の相棒にもなりません。もう、私とお話しすることはないでしょう。時間も遅いですから、早くお家に帰ってください」


 私は扉を開け、朝倉先輩のバッグを廊下に放り出す。朝倉先輩の腕を掴んで、半ば強引に廊下へと連れ出した。


「琴実ちゃん、さっきは……ごめんね」

「謝るくらいなら最初からしないでください」

「……あと、私は待ってるよ。琴実ちゃんが風紀委員になって、私の相棒になること。ずっと待っ――」

「もう、帰ってください!」


 これ以上、朝倉先輩と話すことが辛かった。話したくなかった。

 勢いよく扉を閉めて、朝倉先輩に開けられないようにドアノブを強く掴む。

 けれど、私の部屋を開けられそうになることはなかった。階段を降りていく音、お母さんと話す声、玄関の扉が開く音が聞こえ……朝倉先輩は帰っていったと分かった。


「……いきなり言われても、困るよ」


 朝倉先輩が私を信頼してくれて、彼女の隣にいられるならそれは嬉しい。助けてくれたことだって、嬉しかった。

 けれど、私の部屋で朝倉先輩にされたことは、私にとってはとても嫌なことなんだ。そんなことを無理矢理にでもしてきた先輩のことなんて、信頼したくない。


 それなのに、どうして嬉しい気持ちや好きな気持ちは一切消えないんだろう。


 風紀委員にならない。

 相棒にもならない。

 朝倉先輩にはそう言ったのに。それが私の答えだったはずなのに。

 どうして困っちゃうんだろう。迷っちゃうんだろう。それがとても辛くて、苦しくなってしまう。


「う、ううっ……」


 朝倉先輩の前では流さなかった涙が、今になって溢れ出す。止めようと思っても止められなかった。

 疲れが襲ってきたから、夕ご飯を食べたら、お風呂に入ってすぐに寝るつもりだった。でも、夕ご飯もろくに食べることができなくて。お風呂に入っているときが一番眠くて。ただ、そのときが眠気のピークだったようで、自分の部屋に戻って寝ようとしても、あまり眠ることができなかったのであった。

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