肆拾陸
なんだか久々の感覚だ。
「また勝手に人のこと撮って」
「あ、ごめん」
なんてことを言いつつも不快ではなかったので顔は笑んだままだ。
「なんか、うみくんが笑ってるのって珍しかったから」
「そうか?」
「うん。でも園崎さんに言われて気づいたんだけどね」
リンの名が出て、ぴくりと眉が跳ねる。とーるは続けた。
「さわくんはずるいって言われた」
「ずるい?」
「"さわくんばっかりみーくんの笑顔が見られてずるい"」
ちくり。言葉が胸に突き刺さる。とーるがリンの口調を再現したから尚更。
「"だから嫌いよ"──って、言われたんだ」
とーるの告白もまた俺の胸をじりじりと苛む。
「笑っちゃったよ。園崎さんには申し訳なかったけど。でもやっぱり、そういうところが可愛いなぁっていうか……僕が園崎さんを嫌いになることはないから、別にいいやって、意外とすんなり諦めた」
「そうか?」
俺から見てとーるはそう考えたようには見えない。少なくとも、吹っ切れたようには見えない。
とーるの笑顔が泣きそうだったから。
「とーる」
「うん?」
「一緒に撮ろうぜ」
「へ?」
俺はケータイを構えた。自撮りなんてしたことないが、カメラを自分の方に向け、とーるを空いた手でがっと引き寄せる。
「はい、チーズ」
芸のない合図が何故かウケたらしく、タイミングよくとーるが笑ってフラッシュが瞬く。
「よし、保存」
「あはは。人に撮ってもらったの、久しぶりかも」
「後でプリントアウトしてやるよ」
「え〜? なんか恥ずかしいな」
「よく覚えておけ。それがいつも撮られている俺の気持ちだ」
「肝に命じておきます」
そんな軽口を叩きながら、とーると俺は花畑最後の一日を満喫した。




