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肆拾肆

 沈黙が流れる。

 蝉の合唱がずっと垂れ流されているが、それが遠いBGMに聞こえるほど、俺ととーるの間の空気は緊張していた。

 とーるは目を見開いてまじまじと俺を見つめる。何を感じているかはわからない。とーるの今の表情は"驚き"以外のことは表していない。

 生温い風が抜けていく。そこでようやく、とーるが沈黙を破った。

「やっぱり、そうだったんだ」

 そう言ったとーるの表情は何故か満足げだった。

「うみくんはなんて答えたの?」

「嫌いじゃないよ、人として……と」

「優しいね」

 そんなことを言われたのは初めてだった。リンのことに関しては詰る奴は山ほどいたが、本気で優しいと言う奴なんか。

「悔しいとかは思わないのか?」

「言ったでしょ? 最初から園崎さんの答えはわかってたって。僕は告白できただけで満足だよ。園崎さんがうみくんを選ぶのは最初から」

 笑うとーるを見て、とーるの渾名が"さわくん"であることを思い出す。

 その名に違わぬ爽やかな微笑みを浮かべていた。


 その後、とーるが俺の家に行きたいと言い出して、一緒に帰ることになった。新田さんたちに説明をして、泊まって行く、と。

 とーるを家に連れていくと、姉貴は大喜びだった。とーるを前にデレデレする姉貴に「彼氏はどうしたんだよ?」とからかってやると「別れた!」とあっさり言われた。随分と短い付き合いだったな。

 彼氏と別れた割には元気な姉貴ととーるに昼飯を作る。他愛のない話をしながら素麺をすすり、ふと思う。

 今日はこけなかったな、と。




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