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肆拾参

 リンが部屋を出てから十分ほど経つと、美術部の先輩が来た。たまに会う人だったので、俺のことがわかったらしく、リンがどうしたのかと訊かれた。具合が悪くて今日は休むと言い訳をしておく。それを聞いた先輩は酷く痛ましげな顔をしていた。リンがスランプなのを知っているからかもしれない。

 俺は適当に挨拶をして美術室を後にする。もうリンは帰っているだろう。鉢合わせることもあるまい。

 外に出れば、青葉の瑞々しい木々を撮って歩いているとーるがいた。ぱしゃりぱしゃり。楽しそうだ。

「あ、うみくん」

「よ」

 とーるの方が先に声をかけてくる。とーるはカメラの電源を切り、こちらに歩み寄ってきた。

「そういえばさっき、園崎さんが帰って行ったよ。会った?」

 どきりとした。うーん、まあ、と曖昧に答える。

「最近は見かけるといつも暗い雰囲気なんだけど、何かあったのかな? うみくん、心当たりない?」

 心当たりはありすぎる。少なくとも、今日暗かったのは俺のせいだ。

 しかし、その心当たりを打ち明けられずにいると、とーるがぽつりと呟く。

「やっぱり、あれのせいかな」

「ん?」

 とーるはとーるで心当たりがあるらしい。そのことに驚く。

 視線を向けると、とーるはほろ苦くはにかんで答えた。

「実は僕、誕生日のときに告白したんだ」

「こく……はく?」

 事実が飲み込みきれず、おうむ返しに訊く。

「好きですって、言ったの。園崎さんのこと」

 何を言ったらいいのかわからなかった。

 全く気づかなかった。とーるがリンを好きだなんて、想像したこともなかった。

 けれど、合点がいく部分もあった。いつもリンの話をするときに悲しげな顔をしていたのは、複雑な表情をしていたのは、そうだったからなのだ、と思い至る。

「やっぱり、困らせちゃったかなぁ。でもね、なんとなく答えはわかっていたんだ。でも、自分の中だけで片付けてしまったら、この思いは完全になかったことになるような気がして、それが嫌でちゃんと伝えておこうと思った。案の定、きっぱり断られたよ」

 そう言ってとーるは俺を上から下まで眺め、小さく口を動かした。声はなかったが、おそらくこう紡いだのだろう。


「敵わないなぁ」


 リンがどのように断ったのか、なんて訊く気にはならなかった。そこまでデリカシーを欠いてはいない。

 けれどこの事実は俺の胸には痛かった。リンの告白が真実であることを示していたから。こんな裏付けなど、望んではいない。だが、俺の望む望まないなど関係ないのだろう。

「とーる」

 名を呼んだ俺の声は予想外に掠れていた。それでもとーるの耳にはきちんと届いたらしく、とーるが何? と応じる。

「俺は」

 告げなくてもいい事実かもしれない。そう思いながらも、俺は言葉を次いだ。

「俺はリンから告白された」




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