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「写真、どうすんの?」

 目的地のスーパーでカートを引きながら、俺は半澤に訊ねた。目線でその首から下げられているカメラを示す。

「花壇でも同じようなことやってたじゃん。あれ、何なの? 振り返ると俺、こけたとこばっか撮られて、結構恥ずかしいんだけど」

「あ、ごめん」

「いや、謝らなくてはいいんだけど」

 棚から塩の袋を取り、かごに放る。再びがらがらとカートを引きながら、俺は言葉を次ぐ。

「他人に見られんの、嫌だから、さ」

「ああ、そこは安心して。僕、あんまり現像しないんだ」

「え、なんで?」

 微笑んですんなり答えた半澤に、俺は虚を衝かれた。声が裏返る。

「写真、見られるの怖いんだ。好きで撮ってるからさ。褒められると嬉しいけど、もし貶されたらって思うと怖い」

「ん……そっか」

 わかる、と言おうとして、言葉に詰まった。俺はいくらか姉貴のおかげで貶され耐性がついているから、ちょっと感覚が違うかもしれない。そう思ったら、安易に頷けなかった。

 それに、ちら、と見やった半澤の横顔が陰を落としていた。それを見たら、同意も否定もできなくなった。

 そこからしばらく、無言が続いた。周りの客や店員の話し声や流れているBGMが通りすぎていく。その中でずっと近くで引っ付いてくるカートのがらがらという音がやけに耳についた。

 気まずい。「貶されたらって思うと怖い」その一言が脳裏で谺する。浮かぶのはあの信号の前で見せられたリストカット痕。爽やかな笑みを振り撒いていた学校からそこまでの半澤の様子と裏腹な陰とそれらに、因果を感じずにはいられなかった。考えると益々、かける言葉を失っていく。淡々と買い物を進めるくらいしか、気を紛らす術はなかった。右足の痛みも、もはやつつかれる程度の鈍痛でしかなく、気を留めるほどのものではなくなっていた。

 結局、それ以降、言葉を交わすことはなく、買い物を済ませて俺と半澤は外に出た。カートで荷物を自転車まで運び、積み込んだ。まとめ買いを頼まれたボックスティッシュをサドルの後ろの荷物置きに括りつけ、買い物袋を前のかごに置いた。

 そこでふと、半澤の姿がないのに気づく。半澤はすぐに戻ってきた。その顔には陰はなく、屈託のない笑みが浮かんでいた。

「カート戻してきたよ」

「ああ、ありがとう」

「足、大丈夫?」

 半澤がふと視線を落とす。その目はジーンズの裾から覗く右足首の包帯に注がれていた。

「ああ、そーいやもう全然痛みねぇな。忘れてたよ」

「それはよかった。でも一応うちで怪我の様子を診よう。念のため」

 言われて気づいたくらいだから、そこまでしなくても、とは思ったけれど、半澤の家というのも気になったので、行くことにした。

 気になる──それは単純な好奇心とかそういう明るい感情じゃなく、自らを自殺志願者みたいなものだと語ったこいつの領域を見てみたい、という、好奇心といえば好奇心だが、欲望めいた色のある感情だった。

 だから心の片隅で鳴り続いていた警鐘も無視してしまえた。




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