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弐拾参

 売店の喫茶スペース。苺のソフトクリームをゆったりと食べるリンの傍らで、俺は半ば自棄気味にパフェをかっこんでいた。

「みーくん、甘いの好きだったっけ?」

 ソフトクリームを舐めながら、リンが心配そうに問いかけてくる。

「そこそこ好きだよ」

「無理してない?」

「別に」

「……何があったの?」

 訊かれて、黙り込む。

 先輩方を置き去りに逃げてきた俺はリンを見つけるなり売店に入った。人混みに紛れるように喫茶スペースの中に席をとり、パフェをかっ食らっている。

「悪い。どう話していいかわかんねぇんだ。プライベートなことだし、勝手に話していいのかも」

「そ。でも、いつにもまして仏頂面ね。もう少しどうにかならないの?」

「ごめん」

「許さん」

 おどけた調子で言うと、リンはレジで何かを頼んでくる。どうやらドリンクのようだ。何故かストローを二本もらい、戻ってくる。

「はい。では、これを私と一緒に飲んでくれたら許します」

「ごほっ」

 細長いグラスにストローを二本さし、そんなことを言うリン。思わずむせた。

「いやいや、待て。さすがにそれはない。顔近すぎんだろ」

「それが目的です」

 さらっととんでもないことを言う。細長いグラスにストローを二本立て、二人で向き合って飲めば、鼻先がつくくらいの至近距離。色々と問題のある絵面の完成なのだが。

 見ると言い出したリンはむくれている。

「さわくんと話すようになってから、みーくん変。なんか妙なところでぴりぴりしてるし、私にはわかんない世界に入ってるし、ちゃんと話してもくれない。まるで私を蔑ろにしてるみたい」

「そんなつもりは」

「ないのはわかってる。みーくんは優しいもの。これは私の気持ちの問題。だから、ちょっとだけ付き合ってよ」

 リンの目は柔らかく笑んでいた。滅多に見せない嫌味のない笑み。それを見たら拒否する気は起きず、そっとグラスに手を添え、ストローに口をつける。

 俺が動いたのを確認し、リンももう一つのストローに口を寄せる。口元のほくろがやたら近く感じた。

 何のジュースか知らないが、甘ったるい。けれど二人で飲んでいるからか、思った以上の速さで中身が減っていく。

 あっという間に飲み終え、ストローから口を離し、遠くを見た。外では菜の花がゆらゆら風に揺らいでいる。

「花、見に行くか」

 立ち上がり、手を差し出すと、リンはとても嬉しそうに頷いた。


 家に帰り、ケータイのデータフォルダを確認する。容量ぎりぎりまでかなりの枚数を撮った。

 今日の日付で入っている写真データはほとんどが花と、リンの写っている写真。連休のうちにコンビニにでも行って現像するつもりだ。

 ふと、先輩方のことを思い出す。自分でどうにかしろ、とか言ってしまったが、よかったんだろうか──そんな疑問が頭をよぎった。

 鬱々と考え込みそうになり、頭を振る。俺が考えても仕方ないのだ。あれは先輩方と半澤との間の問題であって、そちらの当事者たちで直接やりとりした方がいい。自分でそう判断したんじゃないか。

 けれど、不安が消えない。

 脳裏から、半澤の左手首の包帯が離れてくれない。

「半澤……」

 どうにもならないのに、その呟きが部屋に落ちた。







 春、終了──





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