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弐拾壱

 さて、日曜。

「おー、よし。今日がリンちゃんとのデートの日だったか」

「デートじゃない」

 五月蝿いぞ、姉貴。

 この数日、俺とリンが花畑に出かけるという話がクラス内でも何故か広まって、誰も彼もがデートだデートだと囃し立ててきた。全部追い払うのに普段より余計に体力を使った。

「年頃の男女が二人で出かけるんだから、デートでしょ〜?」

 姉貴はこう言うが。

「俺、リンのことそういう対象として見たことねーし」

「うわ、酷っ」

 恋愛とか、全くわからんが、少女漫画じゃあるまいし、幼なじみの女の子にずっと惚れている男子なんて、柄じゃない。

「それさぁ、リンちゃんの一番近くにいる男子としてどうかと思うよ? 姉は弟が将来ちゃんとお嫁さんをもらえるかとても心配」

「余計なお世話だ」

 ケータイと財布を入れたウエストポーチを持ち、姉貴を振り切ってさくさく玄関に行く。

 靴を履いていると今度は母がぱたぱたといつもの忙しない足音を立ててやってくる。

「美好、忘れものはない? 一人で大丈夫?」

「なんだよ。子供じゃあるまいし。それより、母さん、昼と晩のおかずは冷蔵庫にある残り物から消費してよ」

「それはいいけどね、花隣ちゃんに迷惑かけちゃだめよ」

「母さんの中で俺は一体何歳なんだよ。大丈夫、わかってるって。いってきます」

 かちゃりと玄関に鍵をかける。玄関の戸を閉めるぎりぎりまで母さんの不安そうな顔が覗いていた。どんだけ心配性なんだ。

「いってくるな」

 外にある自転車に声をかける。今日はこいつは留守番だ。リンとは彼女の家で待ち合わせている。坂向こうのリンの家までは徒歩で行ける。

 自転車に声かけるとか端から見たら結構痛い人なんじゃ……という思考から目をそらしつつ、俺は坂を駆け上がる。


 花畑は文字通り花に溢れた場所でなんたらパークという別称があるはずだが、よく覚えていない。

 チューリップやヒヤシンス、菜の花など色とりどりの花がそこかしこで咲いている。大型連休のためか、来場者が多い。

「わあ、みーくん、あそこの芝桜綺麗だね」

「ああ。学校の花壇とかもいいけど、こうやって密集して咲かせているのも乙というか」

「なんか言い方が素直じゃないなぁ。みーくんちょっとひねてない?」

「そうか?」

 リンがああだこうだと言うのをスルーして、ケータイを開き、カメラモードを起動する。ぱしゃりぱしゃりとシャッターを切る。風景が切り取られたように画面の中に収まった。

 リンがそれを見てむっとする。

「みーくんカメラで楽しんじゃってずるーい。私も撮れー」

「はいはい」

 レンズを向けると不機嫌顔はころっと一転、満面笑顔にピースサイン。切り替えの早い奴、とやや呆れつつシャッターを切る。

 ぱしゃり。

「……ん?」

「どう? みーくん。上手く撮れた?」

 写真の出来を気にするより先、頭に引っ掛かったものを探し、きょろきょろと辺りを見回す。今、俺の他にシャッター音がしたような。

「ちょっとみーくん、無視しないでよ」

「んあ、わりぃ」

「今日はなんか扱い酷くない? こう見えて私、怒ってるんだけど」

「だからごめん。……なあ、近くでシャッター音、しなかったか?」

「そんなの、こんなに綺麗な景色なんだから、写真撮る人の一人や二人、他にもいるでしょう」

 問うと、呆れ混じりでリンが言う。ごもっともだ。

「それより、怒ったから後でソフトクリーム奢ってよ」

「なんでそうなるんだよ? ま、いいけど」

 売店に向かって歩きかけ、目に入った人物にぎょっとする。

「ちょっと、今度はどうしたの?」

「あの」

 俺は隣にいた人たちに声をかける。気づいて振り向いたその人たちも俺に驚いていた。

 一人、状況を飲み込めないリンが誰? と俺に問う。

「この前揉めた先輩」

 端的に説明した。

 そう、その人たちは先日、半澤のことで校舎裏で揉めた、半澤の中学時代からの先輩方だった。




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