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20/54

廿

 リンがきょとんとしている。何度か半澤と俺を交互に見た後、首を傾げた。

「何してるの?」

 俺はハナミズキを指差す。

「花見てたんだよ」

「へぇ? ハナミズキ?」

「うん」

 リンが花を見て呟くのに半澤が頷く。リンは白い花を見ながら、綺麗ね、と口にした。

「いやしかし、学校に来てみれば、花壇にみーくんの自転車放置してあるし、しかも鍵ついたままだし、何事かと思ったわ」

 はい、鍵、とリンがじゃらんと手を出した。自転車置き場に運んどいたよ、とのこと。さんきゅ、と受け取る。

「そういえば、みーくんの自転車から変な音してたけど故障?」

 訊かれて、俺は言葉に詰まる。

「……パンクだよ」

 吐き捨てるように答えると、途端にリンは噴き出した。

「ってことはみーくんまた転んだの! くっはははっ!」

「わ・ら・う・な!」

「ご、ごめん……ぷくくっ」

 俺の主張を聞く気がないのかしばらくリンは笑いこける。

「ところで、何の話してたの?」

 しばらくして、ようやく笑いを収めたリンがそんなことを問いかけてきた。

「ん、ああ、大型連休の話? だったか」

「あ、今度の日曜の話、忘れてないでしょうね?」

「覚えてるよ。花畑だろ」

 俺がリンに答えると、半澤が得心したように頷く。

「さっき言ってた日曜の予定って、園崎さんとだったんだ」

「ああ。まあな」

「ふっふふー、デートなのよ、デート!」

 自慢げに胸を張るリンに半澤が困ったような笑みを浮かべる。俺は苦虫を噛み潰しながら告げた。

「俺にそんなつもりはないぞ」

「えー?」

「仲良いんだね」

 他意はないのだろうが、半澤がそんなことを言うと、リンがそうよー! と見せつけるようにすり寄ってくる。

 別に、俺にとってリンはただの幼なじみでそれ以上ではない。腐れ縁で若干鬱陶しい、というのは、リンの名誉のために言わないでおこう。

「って、何それ! 酷い」

「ん?」

「みーくん、心の声だだ漏れ」

 まじか。まあでも事実なので気にしないことにしよう。

「みーくん、酷い」

「園崎さんと海道くんみたいなのを"気の置けない仲"っていうんだね」

 半澤は妙に感心していた。

「羨ましいなあ」

「……羨ましい?」

 半澤の一言にリンが優しく問い返す。半澤は深く頷いた。

「僕にはそういう人、いないから」

 そう言った半澤は寂しそうに笑っていた。

 それにリンは悪戯っぽい笑みで返す。

「だからって、みーくんとっちゃだめよ?」

「うん、気をつける」

 おいおい、会話が成り立ってしまっているよ。

 リンも半澤の素直すぎる返答にきょとんとした。一拍置いて声を上げて笑い出す。

「さわくんって面白いのね。ねぇ、私とも友達になってよ」

「本当?」

 半澤が目を輝かせる。リンはにこやかに頷いた。手を差し出す。半澤はおずおずとその手を握った。若干顔に緊張が滲んでいるのがちょっと面白かった。




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