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拾玖

 がっしゃーん!!

「…………またこけた。最悪だ」

 せっかく自転車が直ったというのに、俺は相変わらず毎日派手にこけていた。しかも今日は小学生が投げてきた石を避けたら運悪く自転車がその小石を轢いてしまい、自転車がパンク、バランスを崩し転倒、と。

「あのクソガキ。どういう教育されてやがる」

 もう走り去った小学生への怨み言をぶつぶつ呟きながら登校する。パンクのため自転車がかたんかたんと定期的に揺れた。前輪かもしれない。直すの大変なんだぞ。しかも今朝だから、帰りはこれ引いてこの坂登るんだぞ。

 朝から帰りのことを考え憂鬱になりながら、学校へ入る。花壇にはいつものとおり、半澤がいた。

「よ、半澤」

「おはよう、海道くん……どうしたの? 顔、暗いけど」

「小学生に自転車パンクさせられた」

「あらら」

 半澤が苦笑いする。その首にデジカメがかかっていないのは何か違和感だった。けれど、また先輩方にああだこうだと言われても困るから、とあれ以来学校には持ってきていないらしい。少し残念ではあるが、先輩方が言っていたとおり、部活で使うものでもないのに学校に関係のないものを持ってくるのは校則違反だ。

 そう考えて見つめていたのをどう捉えたのか、半澤は「気分転換に、ついてきて」と俺の手を取った。

 ほんのり冷たい半澤の右手。それに導かれて歩いていくと、目的地はすぐだった。自転車置き場と歩道を挟んで向かい側、植木が並んでいる場所だ。その中に入ると、一本の木があった。

「これは」

 木にはちらほら白い四枚の花びらでなる花が咲いていた。

「ハナミズキ。ちょっと早いけど、咲き始めたみたいだから」

「可愛い花だな」

 ちょんちょんと白い花をつつくと、半澤がにこやかに指摘する。

「それは花じゃなくて総包弁だよ。花はその中にあるちっちゃいの」

「へぇ」

「紫陽花も似たような感じ。よく間違えられるけど」

 一つ賢くなった。

「本当、半澤って花好きなんだな」

「いや、それほどでもないよ」

 謙遜する半澤。微笑みながらもそれが少し寂しそうな気がするのは、やはりカメラが手元にないからだろうか。

 半澤も、花畑とか好きそうだよな。今度、チケット取れないか調べてみるか。

 そんなことを密かに考えながら、ケータイを取り出してハナミズキの花を写真に収める。

 保存をかけてカメラモードを閉じる。……何か、横から視線を感じる。見ると、物欲しそうにこちらの画面を覗いている半澤がいた。写真が気になるのだろう。

「……あとで現像してやろうか? 今の」

「いいの!?」

 目がきらきらしている。そんなのに見つめられて断れる鬼畜野郎がいたら、お会いしたい。ぶん殴るだろうけど。

「ああ。ついでに庭の白詰草の写真とか、好きなのあったらやるよ。そろそろ容量いっぱいだし」

「うん、ぜひ!」

 ってか、自分もケータイで撮ればいいじゃんか、と思うが、そこは半澤なりのこだわりかもしれない。

「じゃあ、今度何かお礼するよ。そういえば、海道くん、今度の連休の予定ってどうなってる?」

「連休?」

 はて、そんなものいつあっただろうか、とわりと真面目に首を傾げた。訊き返した俺に半澤がちょっと目を剥く。

「えっ、今度の土曜から五日間の大型連休だよ? まさか、忘れてた?」

 カレンダーを思い出す。そうだ。今は月末。月が変わると、毎年恒例の大型連休が待っている。

「うん、まじで気づいてなかった」

 ということは、今度の日曜のあれって、連休真っ只中ってわけか。

「日曜に予定入ってるけど、それ以外はフリーだ」

「意外だなぁ。海道くんって友達多そうだから、みんなと遊びに出たりするのかと思ってた」

 半澤の中の俺のイメージってどうなってんだろう。

「はは、まあ、結構色んな奴とは喋るけど、改まって友達ってのは、お前以外いねーかも」

 敢えて言うなら、と続けたところで、人が駆け寄ってくる気配がした。

「おーい、自転車放置してると盗まれるぞー、みーくん」

 その声に思わずぎくりとする。俺を"みーくん"なんて呼ぶ奴は一人しかいない。

「って、あれ。さわくんと一緒……?」

 やってきたのは、リンだった。




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