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与え姫奇譚 ~または不術騎士アルフレッドの数奇なる立志英雄譚~  作者: 天流貞明
第三章 魔術師エルフィオーネのいる日常
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夜更けの酒場にて その1




 呑みに行こうとエルフィオーネに誘われた。皆が寝静まり、少し経ったときの事だった。

 今日は休肝日だろとアルフレッドが咎めると、掛け時計を指差された。既に午前0時。アリシアの言う「今日」はもう終わった。だから問題はない。そう言いたかったらしい。相変わらず、良い性格をしている。

 本日は休日。予定は、原稿を進める以外、特には無い。

 されば、とアルフレッドは腰を上げた。こちらとしても、夜の一杯が無いのは、少し物寂しいと思っていたところだった。



 灯りの無い、丘を下る道は、魔術師の一張羅を纏ったエルフィオーネが発光宝珠を頭上からフワフワと浮かべ、夜道を照らす。そこを通過し終えると、術式機構で発光する街灯が立ち並ぶ大通りへと出る。イザキの町の目抜き通りである。夜も更け、日中は商人や住民たちでごった返す目抜き通りも、今はしんと静まり返っている。

 非番オフではあるが、いち警備員として怪しい者は見逃すまいと、アルフレッドは周囲に目配せをしながら歩く。とはいえ人通りは、千鳥足の酔っ払いか、これから熱い夜を愉しまんと体を寄せ合う男女かと言った具合に、ごくごく僅かなものだった。

 そんな中、エルフィオーネは、なぜかアルフレッドの少し後ろ。距離にして歩数三歩ぶんくらい後ろの距離を、つかず離れず歩いてくる。

 知らないうちに、避けられるような事をしてしまったのか、それとも体臭か。心配になってアルフレッドがさりげなく聞いてみたところ。

「主人と同伴した際は、淑女は主の三歩後ろを黙って歩いていく。これが、ナ国式だという。アンズ殿に教わったのだが、どうだ。奥ゆかしく且つエキゾチックで、良い感じだろう?」

 との回答を得た。

 意味が解らず、返答にぐずっていると。

「なんだ? それとも、傍にいてくれなきゃ嫌? まったく、寂しん坊だなぁ、主は」

 くすくすと、子供のようにからかわれた。

 さすがに癪に障ったので「お好きに」と、ため息を吐きながらぶっきらぼうに返してやると結局、目的地まで、エルフィオーネはアルフレッドの三歩後ろをにこにこと微笑を絶やさず、黙ってついてきた。



 酒場パブ・ヤシオリ。イザキの街の目抜き通りの中にある、ごくごく庶民的な呑み処である。先代の店主がナ国人であり、店名はナ国の酒に関するエピソードに因むという。現在の店主は生粋のアルマー王国人で、内装等は一部大陸風に作り変えられはしたが、その店名を見てナ国人が祖国の酒を求めて嫌でも来店するので、タタミに座すナ国風の客席のレイアウトは大部分が残ったままだ。もちろん、若干高価ではあるが、輸入物のナ国の酒のラインナップも豊富だ。アルフレッドが何の気なしに入口を通り過ぎた後に、三歩後ろのエルフィオーネが徐に立ち止まり「ここが」と言うので、面食らいながらも、アルフレッドはそのリクエストに応えた。

 ガヤガヤと騒がしいのは嫌いではないと過去に言ってはいたが―――彼女のような妖艶かつ神秘的な雰囲気を纏う美女が、このような大衆的な酒場で安酒を呷っている姿は、やはり想像し難かった。

 暖簾ノレンと呼ばれるカーテンをくぐり、木製の引き戸に手をかけようとした。その時だった。

 内側から無造作に、引き戸がビシャンと叩き開かれた。そこから、疵顔の男がのそりと出てきて、脇に寄ったアルフレッドの顔を睨む。粋がったチンピラか何かと思いきや、よくよく見てみれば、同じ警備ギルド「アイギス」のギルド員だった。この店の用心棒ケツモチなのだろう。

「やあ、夜も遅くに、お疲れさん」

 軽く会釈をくれてやるが、当然のように無視される。

 疵顔の用心棒は一瞥ののちに、店内に向けて、無言で顎をくいと突き上げた。すると、手酷く打ちのめされたらしいガラの悪そうな男達が三人、もう数人の用心棒に連行され、ぐったりとした様子でゾロゾロと雁首揃えて出てくる。

「なに? そいつら」

「―――みかじめを払うよう、裏で店主を脅していた。正式にギルドを通してケツ持ってる俺らとの契約を解約させてな」

 はー、とアルフレッドは呆れる。

「……まだそんなアホなことをする奴らが居るのか。さては余所者ヨソモンか」

「フン。余所者といっても、半ばお馴染みの連中だがな」

「半ばお馴染み……ってことはタオロ国のならず者共か」

 アルフレッドは更に深いため息と、「懲りないねぇ」と一声添え、白髪頭を掻いた。

「最近の領内の事件の連続で、官憲どもも、騎士団の連中も、東に西にと引っ張りだこだ。人員が分散している。そこに、連中が海を渡り、懲りずに付け込んできた。ここ一週間の間の出来事だ。てめぇが騎士学校だか何だかに、先公として出向いてる間に、世間は面倒なことになってんだよ」

 疵顔の用心棒は吐き捨てる。

「悪い、初耳だわ。だって、タオロ国の連中って言ったら、もっとこう……」

「そう、表立った無軌道な行動で、動向を補足することも楽だった。だが、ボスが変わったのか、今回の連中はネズミみてぇに陰でコソコソと、目立たねぇように動くことをおぼえたみてぇだ。ここをはじめとした港湾地区を、性懲りもなく荒らしまわっているらしい」

「なるほど。……で、今回は逆に裏で張ってて、ふん縛ることに成功したと」

 と、あらば。この後彼らに待つのは、どぎつい尋問という名の拷問か。自業自得とはいえ御愁傷様と言う他ない。

「てめぇも、呑気に先公やってる暇があったら―――いや、てめぇに俺達の縄張にずかずかと上がられるのも、それはそれで面倒か。―――フン。おい、行くぞ。さっさと連れて行け」

 最後まで悪態を貫き、疵顔の用心棒は、部下たちと悪漢たちを連れ、夜の闇の中に消えていった。

 言葉の通り、面倒なことになっているようだ。

 無視はできないが、こちらとしても、後進の育成という仕事を請け負った以上、それをやり遂げる義務がある。何より酒場等の用心棒の仕事は、ボンズを幹部とする、イザキのギャング集団の警備員達の縄張シマだ。唯でさえ煙たがられている立場上、介入は容易いものではない。

 そして、それとは別に、嫌な予感がする。タオロ国ギャングといえば、三年前に奴らを殺戮して回った、あの辻斬りの存在が、否応なしに脳裏をよぎる。そう、奴が、また出没することも十分に考え得るのだ。アルフレッドは、過去の古傷を―――ヒビを入れられたあばら骨を無意識にさすった。

 様々な懸念はあれど、仕事の話は一先ず置いておき、気を取り直すべく入店する。

「おおっ!!」

 この声。

 ナ国にゆかりのある酒場ということで、入店前からあのヨッパライの顔がチラついていた。一言で言うと、嫌な予感がしていた。さっきから、嫌な予感だらけだ。

 そしてそれは、入店と同時に、現実のものとなった。

「おお、なんじゃ、アルフレッド殿に、エルヒオーネの姉ちゃんも一緒か!」

 呑兵衛剣客ウシオマルが酒壺片手に、店員に先達て、アルフレッドたちを出迎えた。

 



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