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与え姫奇譚 ~または不術騎士アルフレッドの数奇なる立志英雄譚~  作者: 天流貞明
第三章 魔術師エルフィオーネのいる日常
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蒼の恐怖 その5


 

 



「……ア。……ディア」



 白。見渡す限りの―――白。

 眼を瞑っていてもなお眩みそうになるほどの一面の白。いま一度目を開けば、眩さのあまり、目が潰れてしまうのではないか。 

 そんな、どうしようもなく白く眩い闇の中かすかに、名を呼ぶ声がする。




「……ディア……クラウディア……!」




 仄かに香る陽の柔らかな香り。少し聞かなかっただけなのに、ひどく懐かしく聞こえる、親友の声。

 それに導かれるように。差し伸べられた手を掴むように。

 ―――その瞳を持ち上げていく。ゆっくりと。ゆっくりと。

  

 


     ◆◇◆◇◆




「クラウディア!! ちょっと!! クラウディア!!」

「ん……」

 吐息が漏れ出すように発された声。隙間程度に開いた瞳。肩を掴んで揺さぶる中、ほんの僅かに見せた親友の反応。それを見るや否や、金髪二本角の伯爵令嬢・クレアリーゼは、安堵を顔いっぱいに浮かべた。

「クラウディア!! ああ……目を覚ましましたのね。もう、驚かさないで下さいませ」

「ぅ……ん……リ……ズ?」

 まさに寝ぼけ声、と言った風に、実に呑気なものだった。対してクレアリーゼは胸を撫で下ろしながら、「ほっ」という言葉では足らないほど大きいため息を吐き、脱力する。

「ここ……どこ? 知らない、部屋」

「はあ……本格的に寝ぼけてますのね。エーリック将軍の別邸に決まっているでしょう?」  

「……そう、だっけ」

 ぐぐ、と気だるげに体を持ち上げるクラウディア。常日頃半開きの目は寝ぼけ眼のせいで、更に細くなっている。背や額には、異常なほどの寝汗が噴き出している。

「私、どうして、ここに来たん……だっけ?」

「ええ……? あなたが、行きたいと言い出したからでしょうに。お忘れになって?」

「……?」

 首を傾げながら、クラウディアは「なんのために?」と純粋に疑問を漏らした。

「リズ。何だか、あたま、ぼーっとする」

 クラウディアはくしゃりと、猫毛気味の赤髪をかき上げ俯いた。

「……あなた、間違えてお酒でも呑んだんじゃなくって?」

 昨年の事だ。クラウディアの実家で、晩餐会が催された。そこにはクレアリーゼも招待されており、互いに、公の場での飲酒が認められる年齢に達していたので、乾杯の音頭にあわせて、二人も一緒にグラスを呷った。その結果―――悲劇は起こった。大して強い酒では無かったにも関わらず、数分後にクラウディアは、テーブルの上に突っ伏し、顔ごと料理にダイブするという醜態を晒す羽目となった。下戸であると、自他ともに認知された瞬間だった。

 その介抱をして目覚めた朝が、ちょうどこんな感じだった。寝ぼけ眼で、前日の事は何も覚えていない。

 その時のことを思い出しての発言だった。

「……そう、なのかな」

 ……じゃああれは、やっぱり夢。夢……なの。クラウディアは至極怪訝な表情で、しきりに何かを呟いている。そして、額にぐっしょりと付いた寝汗を拭う。

「はぁ……やれやれ、ですわ。どれだけ呼んでも起きないものだから、先王の例もあって、本気で心配していたというのに。呑気なものですわね、まったく。―――あ、寝癖がついてますわよ。今から直してあげますから、ベッドから出てきてくださいませ」

 尚も首を傾げながら、クラウディアは言われた通り、のそりとベッドから出ると、手探りで眼鏡の在り処を探し始めた。




 

「本当に、何も覚えてないんですの?」

 術式刻印が成されたヘアブラシでクラウディアの赤髪の寝癖をやっつけながら、クレアリーゼが問う。クラウディアはネグリジェのリボンをいじりながら「……夕食のところまで、なんとなく、思い出した」と普段に増して眠たげに答える。

「と、言ってもわたくし達も、夕食のあと、あなたが何をしていたのかは知らなくってよ。あなたは、先に寝ると言って、真っ先に部屋に戻ったのですから。もちろん、安眠の邪魔をするわけにもいきません。誰も、近寄りすらしていないはずですわ」

「……リズは?」

「わたくし? ずっと広間で、アリシアさん達と一緒に、ひたすらカード・ゲームですわ」

 少し顔が忌々しげに歪む。ムキになって大負けしたことが容易に想像できる。

「わたくしと、アリシアさんと、シャーロットさんと、サーノス王子。この4人でしたわ。この面子で来たこともお忘れ?」

「それは、おぼえてる。……あと何人か、居たはず。白雪アルフレッド教官と、エーリック将軍、あと……」

 指を折りながらだったが、それがピタリと止まる。最後の指が、曲がりきらない。

「あと……誰か、いたっけ」

「それだけ覚えていて、残りの、その『お一人』を覚えていないというのも、不思議な話ですわね」

 クラウディアは思わず振り向く。

「どういうこと? 名前も顔も出てこないのに」

「寧ろ『この方』こそ、あなたがここに来た最大の理由でしょうに。ご自分で仰っていましたわ。忘れたというなら、仕方がありませんが」

 右頭部の髪を結い、リボンを留める。

「……名前は? どんな人?」

 クレアリーゼは左頭部の髪を結いあげながら首を振る。

「それはまだ伺ってませんわ。一度も紹介がありませんでしたもの。見たところ、アルフレッド教官の雇われメイドのようですわね。ちょうど今、朝食の支度をしているはずですわ」

「メイド? ……ただのメイドに。私、なんで……」

 再三、クラウディアは首を傾げ、眉根を捩らせる。

「その調子だと、昨日の、謎の大爆発のことも、知らない、覚えていないのでしょうね」

 ぴくり。クラウディアの重たげな瞼が少しだけ開く。何か、心当たりがある様な、そんな素振りだった。

「……それ、詳しく教えて」

 ええ、と相槌をうつクレアリーゼ。

「ちょうどカード・ゲームをしている最中でしたわ。ここから2キラとちょっと先で、謎の大爆発が起きましたのよ。折から雷鳴が轟いていましたが、明らかに異常なほどの大轟音と、窓硝子を砕かんほどの地響き、そして眩い閃光で―――アリシアさんが『領主代理として、放ってはおけない。状況を確認しに行かなきゃ!』とか何とか、義務感からか野次馬根性からか怪しいことを言い出して飛び出すものですから、わたくし達も一緒について行ったのですわ」

 リボンで髪を留める。

「―――正直、呆然としましたわ。爆発で地面が深々と広大にえぐれ、草地だった場所は、まさに焼野原と呼ぶに相応しい焦土と化していましたもの。あの出鱈目な威力、もし正体が魔術だったとすれば、並大抵のものではありませんわ。宮廷魔術師でも上位の人間にしか習得が許されていないとかいう、いわゆる『禁術』の一種である可能性も……ってどうしましたの? クラウディア。そんな険しい顔をして……」

「……何でも、ない」

 言い終わった直後、髪結が完成した。クレアリーゼはぽん、とクラウディアの両肩を軽く叩き、立ち上がる。

「はい、できあがり。ダイニングに向かいましょうか」

 クラウディアは眉根を寄せ、強張った表情のまま、無言で立ち上がった。



 

お久しぶりです。更新滞って申し訳ありません。

あと、クレアリーゼちゃんお久しぶりね。

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