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与え姫奇譚 ~または不術騎士アルフレッドの数奇なる立志英雄譚~  作者: 天流貞明
第三章 魔術師エルフィオーネのいる日常
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蒼の恐怖 その4

R-15は、この時の為に……!






 

 ハァ ハァ…… ハッ……



 喘ぐように苦しげな息遣いが、すさぶ風の音に流され、立ち昇る土煙の中へと呑まれていく。

 大魔術『エクスプロード』。拠点制圧用の強力な破壊魔術であり、宮廷魔術師でも限られた人物しか習得が許されていない、禁断の魔術だ。そんな代物が使用される機会があるとすれば、勿論それは言うまでもなく、非情の戦場に於いてのみ。

 クラウディア自身、正式な術式の構成を拝んだことは無いのだが、研究の末に自ら術式構成を導き出し習得した、試製段階ではあるが、切り札のひとつだった。

 それを、ただ一人の生身の人間に対し、ぶっ放したのだ。

 クラウディアは胸元を押さえながら、どかん、とえぐれた大地の中心で立ち尽くしていた。

 


 やった。

 やってしまった。

 ハハ。

 アハハハ。


 

 普段は眠たげな半開きの瞳を、かっと見開きながら、ゆがんだ笑みで、宙を仰ぐ。

 まさか、こんな奥の手を隠し持っていたなど、夢にも思わなかっただろう。術者であるクラウディアを爆心地に、燎原の火と燃え盛る草原諸共、粉微塵に粉砕してやった。

 人一人を、文字通り粉々に爆砕させてしまった。ちょっと挑発して焚き付け、ごく普通の魔術師同士の決闘で終わらせるところを―――脅迫に脅迫を重ね、ここまで追い込みをかけた、あの女が悪い。正当防衛みたいなものだ。私は悪くない。ざまあみろ。感傷は、混沌と渦巻く激情の中に呑み込まれていて、最早どこに在るのかすら分からない。

 だが、こうなった以上、このまま突っ立っている場合ではない。この大爆発を聞きつけて、じきに人が集まってくる。見つかったら面倒だ。即刻、この場を立ち去らねばならない。

 クラウディアは、まだ少し震えの残る膝を奮い立たせ、この場から離れるべく、一歩を踏み出した。

 その時だった。





「つかまえた」




 ぞわり、と。そして、どくん、と。

 思わず鳥肌がたつほど甘く、そして優しい囁きが、クラウディアの耳を撫でた。同時に、胸を強打されたかのような衝撃が、心臓を襲う。

 何が、そして誰がと考える暇もなく、クラウディアは、蒼光の抱擁を受け―――二本の腕でもって、その身体を拘束された。不気味なほどに柔らかく、そして愛おしむような抱擁に、クラウディアはただただ戦慄する。

「ようやく、つかまえたよ。お姫様」

 冷や汗と脂汗とが、どっと浮き出てくる。鼓動は狂ったように跳ね上がり、今にも心臓が体外に飛び出さんとする勢いだ。

「―――『エクスプロード』か。悪用を防ぐため、構成術式は国家より厳重に管理されていたはず。こんなものまで習得しているとは、さては自力か? もしそうだとするなら、末恐ろしい才覚だ」

 ここで消すには実に惜しい。そう付け加え、くつくつと笑う。

 何故だ。

 何故。どうやって逃げ延びた。

 何故。

 あまりのことに、声があがらない。頭が「何故」の自問で埋め尽くされている。

「何故無事でいられる、と聞きたそうだが、ごくごく単純な答えだよ。炸裂の瞬間、『防護』の魔術でもって耐え抜いた。それだけのことさ。一撃が到達する、最後の最後まで警戒を怠らないのは常識だ。たとえ相手が、『不動』スタイルの持ち主としては半人前であってもな」

 首と腹部に巻きつく腕に力が籠められる。凄まじい拘束力。それはまるで、大蛇が獲物を絞めるかのようだった。そして二人を包む蒼光が更に激しくなり、クラウディアの身体に、ごく緩やかにではあるが、文字通り電流が走り抜けていく。

「くぅっ……!!」

「これでは魔術式の展開もままなるまい。これにてチェックだ。―――さあて、どうしようか。お姫様。うん? どうしてほしい?」

 耳もとに、囁くようにして問いかけてくる。

 苦痛に顔を歪ませつづけるクラウディア。

 辛うじて、一言を吐き捨てる。

「ころ……せ。はや、く……」

 俯いた顔。その瞳から涙が零れた。

「殺せ? ふふ、何を言っている」

 左腕、腹部の拘束が止んだ。だが次の瞬間には、その長い指先が、ツツ……とクラウディアの腹部を、ゆっくりと駆け上がっていく。まるで舌を這わすように、淫猥に。

「私は、まだなぁんにも愉しんではいないのに……」

 耳に優しく甘噛みするかのように、吹きかける囁き。吐息。それに対して、身体に加えられる電撃は、ますます強まっていく。

「囚われの姫を、何もすることなくただ殺める。そんな馬鹿な話は在り得ない。虜囚の身となった姫君の末路は決まっている。大の男が数人がかりで貴様を甚振り、舐り、嬲り、穴という穴全てが犯し尽くされ、破壊され、息も絶え絶えになろうが責め続けられ―――死してなお骸は玩具にされる。私が女だからとて、楽に終われると思うなよ」

「ア……ぐ……」

 這い上がってきた指は、ついにはクラウディアの胸部をとらえた。そして、掌の容積に少し余る、小ぶりだが美しく整った膨らみを、ぐっと鷲掴みにまさぐる。

「できれば美男子が良いが、女が相手でも愉しみかたは心得ている。―――女相手に、女として生まれてきたことを心底後悔するほど責めぬかれるというのも、中々に面白いと思わぬか? 次に主にそういう仕事が回ってきた際には、ネタとして提供してやれるし、一石二鳥だな」

 最早拘束の意味もないと悟ったか、首に回した腕も解かれた。その代わりに、今度はその手が、クラウディアのスカートから露出した太腿に宛がわれた。ツツ……と指先が柔肌をなぞりながらせり上がってくる―――。

 だが、スカートの中に侵入する、そのすんでの所で、ピタリと止まる。

「……怖いか?」

 耳元に問いかけられる。

「……―――い」

 クラウディアは泣きじゃくり、完全に戦意を喪失している。電撃は、とっくに止んでいた。

「こわ……い」

「そうだろうなぁ……お召し物までこんなに濡らして……」

「ゆるして……。たすけ……て」

 俯き、涙声で、しゃくり上げながら、ひたすら許しを請う。

 その心には、「恐怖」の烙印が、生々しく刻印されていた。

「ふふ。―――そうか」

 そう、溜息交じりに言った瞬間。

 クラウディアは、後ろを振り向かされ、再び、抱擁を受けた。

 ただし、その両腕は彼女の背中に回され―――顔は、はちきれんばかりに隆起した、柔らかな胸へと押し当てられている。

「怖かった。そう。怖かったな―――」

 ぽん、ぽん、と背中を叩かれるたび、クラウディアは、まるで悪夢を見た朝の幼子のようにひっく、ひっくとしゃくり上げ、我を忘れて嗚咽を上げる。

「でも、もう怖い夢は、これでおしまい。朝になれば、全てが消えるから」

 猫なで声で、頭を優しく撫でられた。




「―――恐怖だけを残して、な」




 閉じられた瞼の中に、今度は、白い光が満ちていく。

 先の蒼光とは違う。暖かな光だった。心が、驚くほどに安らいでいく。意識がまどろむ。

 薄れゆく意識の中で―――。

 クラウディアは「声」を聴いた。


「―――『賢者は危うきに近づかず』という」


「あなたも、私の馬鹿弟子に負けず劣らずの無鉄砲ゆえ、見捨ててはおれなんだ―――。何しろ奴は、魔術への探求心からの勇み足で、私の想像を絶する面倒事に巻き込まれたやもしれぬのだからな」


「―――まあ、何が言いたいかというとだ」

 

「火遊びもほどほどに、ということさ。それじゃあ―――お休み。おひめさま……―――」



 そしてクラウディアの意識は、白の光の中に埋没していった。




くっころ達成。

シロニソマルマデー。


時間をかけた分、中々有意義なものが書けたと思います。


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