拝み倒してみます!
こんな会社で働いてみたいなぁ…。
私が働いている会社は貿易会社で、アジアを中心に輸出入をしている
けっこう大きな会社で、イケメンが多い事でも有名です。
そのせいか会社説明会は毎年大好評で女子大生わんさかやってきます。
でも、今年は男性社員しか採りませんでした。
私は運営課で主に受発注、通関書類作成やそれに伴う申請書を作成しています。
遅くなりましたが、私の名前は佐藤碧依。
メールと書類はほとんどが英文なので頭が痛いです。
でも私の隣の真田さんはイギリス留学経験がありとても心強い人材。
そんな私はこの部署唯一の中国語ができる人なので、たびたび部長から翻訳依頼がくる。
実は中国人で英語ができる人はあまり多くないのです。
でも、アジアでは最大のお得意様。
通関書類作成の傍ら、土方部長からのメールを処理し一息ついていたところにいつものように営業から戻った沖田さんがやって来た。
「碧依ちゃんって意外と器用なんだね」
「え?どういう意味ですか?」
「だって、書類は英文でしょ、さっきのメールは中国語じゃない」
「・・・そうですか?言葉が違うだけで大した仕事はしていませんよ?」
「それが器用っていうんだよ。ただのオトボケ天然さんじゃなかったんだ」
「なんですかそれ?」
いつものように息抜きでやってきては、ちょっかい出してきます。
彼がイケメンその一です。
「はい、運営課真田です。・・・えっ、どうしよう。困りましたね。どうしても無理ですか?うわぁ、一旦考えさせてください。また連絡します。すみません」
「どうしたの?真田さん。」
「碧依さん・・・m3オーバーで荷物がどうしても載らないって・・・永倉さんが」
「え?出港いつだっけ?」
*m3オーバー:積載可能な容積を越えてしまった状態=載せられない
「金曜日です。その荷物だけm3の登録が漏れてて気づかなかったんですよ」
「ありゃ、ちょっと待って。うちの便2日早く着くんだけど、まだ5m3は余裕あるね。載せる?」
「いいんですか!通関間に合いますかね?」
「明日の朝が締切だから大丈夫。それより現地に急ぎで変更知らせて?私は倉庫と通関に連絡するから。
データ、メールで送っといて。一応、倉庫の荷物を見てくる」
「すみません、お願いします!」
よくあることです。
こんなのトラブルのうちには入りません。
「藤堂くん?ごめん、明後日の便に3ケース追加になったの。後でデータ送るので横持ちお願いします」
「了解、後で新八さんに確認しとくから」
「うん、いつもありがとう」
因みに、永倉さんと藤堂くんもイケメンメンバーに含まれている。
あとは通関課に変更があるよーって事前連絡しなくちゃ。
斎藤課長に言った方がいいかな?
「佐藤です。急ぎですみません、明後日の便に追加ありです。後程修正書類を出しますので、処理お願い出来ますか?」
「ああ、分かった。できれば16時までにお願いしたい」
「了解です!」
そして斎藤さんもまたイケメンバー、一二を争うほどのお顔です。
あとは倉庫へ走るだけかっ。
あそこは気温0度設定なので上着は必須。
バタバタしているところに営業課の原田さんに遭遇しました。
「碧依、なに急いでんだ。」
「あっ、原田さん。ちょっと倉庫まで~」
「お前も忙しいな、俺も倉庫に行くところだから乗っけてやるよ」
倉庫はビルの敷地から離れているので連絡バスか歩くしかない。
ラッキーなことに原田さんに拾ってもらった!
彼もまたイケメンバー、その中でも歩くR18だなんて言われています。
何もしてないのにフェロモンが出ているらしいです。
彼等と仕事していたら、免疫ついちゃってドキドキ・キュンキュンがなくなりました。
「永倉さ~ん、商品はどれですか?」
「おっ、悪いなわざわざ。これだ、頑張ってみたんだがどうやっても入らねえんだ。潰すわけにもいかねえしな」
「ですね。・・・・ん?げっ!」
「どうした」
「これ、動検対象商品なんじゃ・・・」
「あ?本当だな。間に合わないのか?」
「出港、明後日です。今日検査終了してないと、アウトですね。」
「まじかっ、連絡来てなかったぜ?」
「たぶん、誰も気づいてなかったんじゃないですか?あ、でもこれ商品の2%しか肉片入ってないんだ」
「見なかった事、にしちまうか」
「ですね。外からじゃパッと見分からないし、英文のタイトルちょっと変えれば」
「だな」
「でもよ、通関通すのって斎藤じゃねえか。あいつの目は誤魔化せねえだろ。こっちのがあっちに移動したのすぐバレるぜ?」
「しまったぁ。斎藤さんに追加ありって言ってしまったんだった」
「あいつ融通きかねえだろ。どうすっか・・・」
「うーん。ま、やるだけやってみましょう!永倉さんこれ第2倉庫の藤堂くんに送ってください。明日朝一でバンニングなんで」
「お、おう。」
「出た、碧依お得意の強行突破か。斎藤に通用するのか?」
「分かりませんけど、やってみます。」
*バンニング:船積用のコンテナに積み込む作業の事
会社に戻り書類の修正にかかると、受け入れ側は早く着く分には問題ないらしい。
遅れと欠品はNO!だって、うわぁ・・・もう引けないな。
メールで通関課へ最終版送信っ!
いざ出陣!!
事情を知っている原田さんと隣の沖田さんはニヤニヤ笑いながら、私を見送ってくれた。
通関課だけはパーテーションで遮られている。なんか、緊張する。
「失礼します!斎藤課長?先ほどお送りました書類の件でちょっといいですか?」
「なんだ、わざわざ。嫌な予感しかせんが」
「そんな事言わないでくださいよ。斎藤課長は普通にいつも通り通関切ってくださればいいんですよ」
「なっ、それは通常通関でないものがある、と言うことではないのか」
「いやその、検査官のお手間を取らせるほどの代物ではなかった。ただそれだけですっ!」
「・・・」
私は神様を拝むように手を合わせ、お願いします。神様仏様はじめ様ぁぁと祈った。
だめ?だめかな、彼には通用しないのだろうかお情けが。
「あの、一さん?」
「っ、///」
しまったぁ!やってしまった!
いつも心の中で言っていたせいか、つい、つい下の名前で呼んでしまった・・・
「す、すみませんっ!」
もう頭を下げるしかなかった。
暫くの沈黙の後、斎藤さんは咳払いを一つしてこう言った。
「書類上とくに気になるものは見当たらなかった故、このまま通しておく」
「えっ!あっ、ありがとうございます!」
玉砕覚悟だったけど、よかった・・・本当によかったぁ。
実は密かに斎藤さんのことが好きなのです。
だからいつも心の中で唱えていた彼の下の名前をまさか本当に口に出してしまうなんて。
終わった、本当に終わった。
通関成功と共に失った淡い恋、さようならぁ・・・
とぼとぼと席に戻り、椅子に座ると内線が鳴った。
「はい」
「おい、だめだったのか?」
「原田さん?いえ、通していただけるそうです」
「まじか!やったな。お前すげえよ、あの斎藤を丸め込んだなんてよ」
「はぁ」
「なんで元気がねえんだ。あれか説教されたか?」
「いいえ」
「じゃあなんだよ」
「そ、それはここでは言えません。では仕事があるのでまた」
「ん?おいっ」
隣で様子を伺っていた沖田はとても気になっていた。
「碧依ちゃんなんて?」
「通関通してもらえるってよ」
「嘘!すごいじゃない。」
「けど、あいつ浮かない感じだったぜ」
「え?でも顔赤くして出てきてた気がしたけど」
原田と沖田は思った、碧依ってもしかして・・・
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あぁ、今日は後半とっても疲れた。
ああ、私としたことが大失態。早く帰って寝よう、そして忘れよう。
「お疲れ様でした」
ロビーにてぼんやりエレベーターを待っていた。
「帰るのか?」
「はい、お疲れさまっ・・・て、斎藤さん!」
「っ、お疲れ様」
「す、すみません。声が大きくて」
「いや、それより今日は早いな。何か用事でもあるのか」
「何も。たまには早く帰ろうかと思って」
「そうか、では、その、嫌でなければ食事でもどうだ」
「へっ!」
「いや、その無理にとは言わない」
「嫌でも無理でもありません!その、いいんですか?私で」
「ああ」
「ありがとうございます」
斎藤さんは目元を赤く染めている。え?照れてるの?何で?
びっくりな展開ですが、これから斎藤さんとお食事に行ってきます。
後半へつづく。