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もう、お兄ちゃんしか見えない……【プレ版】  作者: 7×3=お前なんか見てねぇよ、ちょっと自慰識過剰なんじゃねぇの。 と読まれる事もある
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第4盲目 少女の見えない姿

 右腕、左足首、肋。

 骨折までいったのはこの3点。


 左手首、左脚、右脚はヒビ。


 その他、掌を擦り付けたり、軽傷諸々。


 頭も打ちつけたが、幸い脳へのダメージは少なかった。

 しかし、当たりどころが悪かったら……

 危なかったという。

 しめて全治2ヶ月。


 青年は記憶をたどる。

 左にハンドル切って、車道に飛び出してしまった彼は、

 ワゴン車を前に時間がゆっくりと滞留し始め。

 もう右に切っても間に合わないと瞬時に理解し――

 かといってそのまま諦められるほど人生に満足してはいなかった。

 そんな人間はどうするかというと、

 そのまま更に左へと舵を取る。

 しかし、そんなに人生は甘くなく。


 案の定、ワゴン車が真横から衝突。

 ハンドルに添えていた右腕ごと右脇を押し出され――激痛、

 自転車と共に投げ出され、

 左足から着地――激痛、

 衝撃を受け止めきれずに前倒れ、

 左手を付いて――激痛、

 何故こんなにも、ゆっくりと感じるのか?

 いっその事早く殺してくれれば楽なのに……

 例えゆっくり動いていても、

 自分もゆっくりでは何の意味もないではないか。


 少し遅れて、右手も付いたが既に

 そいつはもう使い物になる代物ではなく――ただただ……激痛、

 同時に右脚も打ち付け――激痛、

 そんなので衝撃を受け止めきれるはずもなく。

 自然と肘が地面に付き激痛。

 更に前頭部をコンクリートに打ち付け――激痛、

 勢いを殺し切れずにバウンド。

 もう一度打ち付け激痛。

 後はもう激痛に激痛で激痛しか覚えていなかった……


 激痛激痛うるさいって?

 痛みなんてのは訴えれば訴えるほど嘘くさくなり、

 どう形容しようが、言葉で伝えられない痛みがそこにはある。

 言わずと知れた、鼻からスイカが悪い例である。

 常軌を逸し過ぎて全く痛さが伝わってこない。

 つまるところ、体験した者にしか分からないというモノなのだろう。

 かといって体験するなんて絶対にごめんであろう?

 まぁスイカを産むのは性別的問題があるが。

 若い頃にしか骨折なんてのは武勇伝になりえないし、大人になってからでは下手したら首折られかねない。

 お母さんだって言っていたではないか――人の痛みの分かる大人になりなさいと。


 のちにやってきた警察官には、

 始めは事実をありのままに語る面持ちだったのだが、

 明らかに青年の目は途中から空中を泳ぎ回り、

 結果として8割型の事実を語り、

 後は何を言ったのか定かではなかった。

 問い詰められると人間ってのは、パニクったり隠したり

 相手にその意志があろうがなかろうが、

 そういう状況がそうさせてしまう。

 どれだけ言い逃れようとも、

 こちらから飛び出したのは誤魔化しようが効かなくとも、

 隠せる物は隠してしまおうとする生き物なのである。

 その人間に隠せるだけの技能があるかは別問題だが……

 であるから男が、浮気を隠すのもバレるのも自然の摂理と言えるのかもしれない。



 約1ヶ月半の入院生活が始まった。

 最初は寝たっきりで何も出来ない生活が続く。


 手も足も、ろくに使えないのでやる事などあまりなく。


 母親は、気を使っているのか。

 事故の事には一切触れる事なく。

 腫れ物に触るように接してきた。

 彼は、こっちが悪いのだからいっその事、責めてくれれば楽なのにと思ったが、

 そんな事を要求する事自体がおこがましいと、

 適当に合わせる日々だった。


 それから経過を見つつ、医師の許可の元、松葉杖でのリハビリが始まり。


 入院中。

 担任教師に、親しい人間数名は見舞いに来たが……


 そして、退院の日である今日。

 少女は結局最後まで見舞いにくる事はなかった。



 最初は何度か母に少女の様子聞いたりもしたが、

 あまり聞くのも、おかしく思われるのではと

 最後に見たのがあんな顔だけに頭から離れず、

 ふと、ぼーとすると……

 気になってはいたものの、その内聞く事も止めてしまった。


 こちらが聞かなくとも他愛のない。

 妹の部活や学校のあれこれやらを聞く限りは変わりないようではあった。


 見舞いに来ない理由を、

 俺の為なんかで泣いたという事実からの気恥ずかしさからかと、

 そう彼は勝手に解釈していた。


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