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もう、お兄ちゃんしか見えない……【プレ版】  作者: 7×3=お前なんか見てねぇよ、ちょっと自慰識過剰なんじゃねぇの。 と読まれる事もある
3/7

第2盲目 そいつは突然に……

 行ってきます――

 そして、母はいつも通りの決まり文句。

 車に気をつけてねとつまらない定型文句。

 青年は母親というのは、

 もう言わなくても分かっている事を繰り返し言ってくる。

 つまらない生き物だと思っていた。


 土曜の夜自転車に乗り、ちょっとコンビニへ行くところだった。

 車なんてそれほど気をつけるほどの距離ではなかった。


 しかし彼は、自転車を前に何故か立ち止まっていた。

 鍵すらも外していない…………


 ようやく俺は何をしてるんだ?

 と、彼は取り敢えず鍵を外そうと手を伸ばそうと


 ――その時、彼は左手に温かいものを感じる。

 誰だ? と振り向くと

 それは、彼の妹であった。


「…………」

 最近は、思春期か?

 何をしたわけでもないのに、滅法嫌われていた。

 父親に留まらず、青年の洗濯物とも一緒に洗いたくないやら

 彼らの入った後の浴槽のお湯を共有したくないやら

 文字通り汚れ物に触るみたいな扱いだった。

 イメージとしては、彼らをゴム手袋をした上で2本の指の先で摘んで、尚且つ終わったら使い捨てるような有様だ……

 だから、こんな事は夢の中でもあり得ない事だった。

 妹が青年に触れてくるのは、実に2年半ぶりぐらいだったろか?


「……あ? どうした?」

 青年は戸惑いながら、彼女の顔と繋がれた手を交互に見て

 ようやくそう聞いた。

 少女はその間もずっと青年を見つめたままだった。

 その表情はいつもの様に嫌悪をまとっている。

 彼は何がしたいんだ、こいつは? と

 ――次第に強まる少女の力。


「いてぇバカ、なにすんだ。離せ気持ち悪い」

 彼は、今までの扱いからの復讐心で

 これぐらいは言っても許されるはずだと、事実現在も被害者なのだから――


「離せ、この!」

 青年も力を込める。

 妹との力比べだ! 勝利は絶対的だった。

 手加減したとはいえ、万にも負けるはずがない。

 しかし何故か少女の力は、その華奢な腕から出力されたとは思えないほどの握力。

 青年の手に激痛を与えてくる。


 彼は何故か、対抗しえる力を持ちあわせていなかった。

 なので掴まれた手を白旗に見立てて振るしかない。

「やめろ降参、降参だ……この馬鹿力女……」

 すると、怒ったのか

「――ッ!?」

 少女の右拳は彼の胸を抉っていた――あばらがイッたのではないかというほどの衝撃。

「……いッてぇ――」


 そしてその間も妹の頑ななまでの握手は続く。

 少女は自分の手を破壊するつもりではないのかとすら思えた。

 彼の頭に林檎が砕け散るイメージが浮かぶ。


 続けざまに少女は右の連撃。

 彼は言葉を発する余裕もなく、膝を折った――あいていた右腕で身を支える。


 すると今度は、それをぎ払うように少女の右脚が炸裂する。


 彼の腕は勢い良く右に流れ、前のめりに倒れ始める……

 このまま順当に倒れると彼女の脚に接触しようかという瞬間――少女は後ろに身を引く。


 青年は顔面から固い固いそれは固い布団へ俯せに。


 それから少女は足元に転がる――その頭部に足を置くと、ゆっくりと力を込めていく。

 そして、グリグリ……グリグリ……と繰り返し。

 グリグリグリグリグリグリ――――――――――――


 傍から見たら、とてつもなく異様な光景だったに違いない。

 一軒家の前でコンクリートに顔を埋める青年。

 その手だけは少女に握られていて。

 青年のその頭を踏みつける少女。


 一体何があったらこんな目に合うのだろうか?

 痴話喧嘩だろうか?

 それにしても男のくせに、

 この醜態は情けなさすぎるのではないか?


 青年は、死人に鞭を打つとはこの事だと思った。

 俺はここまで妹に嫌われていたのか?

 俺がいったい何をしたというのだろうと。

 彼は、薄れる意識の中――

 見えないはずの少女の口は何かを言っているようだった……


ーー次回、喪おに


 何で泣いてんだよ?

 全身を包む痛みは続いていた――

 しかし左手の温もりだけは異質だった……


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