無人島での死闘ゲーム〜勝者には褒美として一人だけ生き返らせることができます〜
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無人島で行われている非合法の死闘ゲームが行われていた。
一万人近くいた挑戦者は、ほとんどいなくなった。
なぜそれほどの人数の挑戦者たちが集まったのか。
挑戦者たちの目的は勝者に与えられる褒美──誰でも一人だけ生き返させることができることだった。
無人島は四ブロックに分かれていた。
北ブロック。
東ブロック。
南ブロック。
西ブロック。
その各ブロックの生き残りの四人が最期の闘いを始めていた。
主催者である支配人は無人島の中央に建てられたセキュリティ万全の塔の最上階にいた。無人島各所に設置したモニターを見ている。
「北の海堂、東の吾妻、南の八重島、西の燗斎⋯⋯果たして誰が勝つのだろうか」
モニター越しには、すでに接触していた海堂と吾妻、八重島と燗斎の勝敗がつくところだった。
海堂の出した掌底打ちを鳩尾に受けた吾妻の口からは鮮血が溢れ出た。
地面に勢いよく血が跳ねる。
もごもごと口を動かす吾妻からもはや言葉は出ない。
足元の血溜まりに身体を沈めた。
「二メートル近い巨体が地面に沈んだか」
その隣のモニターでは、八重島と燗斎がお互いの攻撃を受けて、間合いを取っていた。
体格は互角。
その均衡を八重島が破る。
何度も攻撃を食らった八重島は燗斎の足を取ると地面に押し倒した。
地面から土煙が舞った。
背中を地面につけた燗斎はその瞬間に八重島の体に両足を回し離さない。
自分の足首同士を組み八重島から体が外れないようにすると自分の体重を利用して体を捻る。
八重島は絡みついてきた燗斎の足が体を捻ったことにより左側に体を振られて耐えきれなかった。
「く⋯⋯、ここで殺られるわけにはいかない。幼き自分を護ってくれた母を必ず生き返させるんだ!」
風邪を引いた時も怪我をした時もいつも隣にいてくれた母。
村を賊が襲った時に、自分を庇うようにして殺された母を生き返らせることが八重島の望みだった。
支配人の見ているモニターの隣の数字が跳ね上がっていく。
八重島の体が反転し燗斎が上から覆った。
ゴキンと硬い何かが勢いよく折れる音がした。
その音とともに八重島の手足は少し跳ねた後、燗斎の体の下でピクリとも動かなくなった。
少し間をおいて立ち上がった燗斎は合掌した。
モニターに映る彼は痛みを我慢するような苦しそうな横顔だった。
モニター横の数字はこの五分ほどの間で十倍に膨れ上がった。
「これで残るは海堂と燗斎か」
支配人は別々のモニターに映る二人の姿をただ眺めていた。
* * *
勝負の時がやってきた。
髭を生やした長髪の海堂と黒い短髪の燗斎。身長は二人とも平均的だった。
二人は距離があるもののお互いの姿を捉えて対峙した。
二人がモニターから消える。
いや、動きが素早すぎて見えなかったのだ。
一万人もの人間の頂点に立つ二人。
海堂の蹴りが燗斎の腹に直撃する。
燗斎はモニターの外へと飛ばされていった。
別のモニターには地面に手をついて体勢を整えている燗斎が見えた。
「なるほど。燗斎自ら後ろへ跳んで威力を半減させたか」
海堂は追撃するべく燗斎に向かって走っている。
燗斎も立ち上がり海堂との間合いに入る。
「それにしてもお互いのことは気が付かないんだな」
支配人だけが気がついているようだ。
海堂と燗斎は知り合いよりもずっと深い関係があった。
時には酒を注ぎ合い、頭を下げた。
何度も顔を合わせては色んな話をした。
この無人島に来てから三年の間に髪の短かった海堂は髪が伸び、無精髭が生えた。
代わりに茶髪の襟足に髪のかかっていた燗斎は黒い地毛が伸び切って、短く切った。
音を立てて当たった燗斎の回し蹴りに海堂は息が止まり、体を前に折った。
ふらつく足でなんとか地面を捉えると、燗斎はそのまま海堂の髪の毛を掴み、膝蹴りを顔にめり込ませた。
苦しそうなくぐもった声とともに地面が血で濡れる。
鼻血をそのままに海堂はアッパーを繰り出した。
海堂の拳が燗斎の顎先へ微かに当たると燗斎は大きく仰け反った。
だが、海堂は肩を大きく上下させながら苦しそうに呼吸している。
追撃できずに距離をとって、血が垂れている鼻を抑えて、体勢を整える。
「ぐ⋯⋯」と苦しそうな声を上げて燗斎は脇腹を押さえる。先ほどの八重島との戦いでできた怪我だろうか。
まだ二人はお互い誰であるか知らない。
「かつて、海堂は燗斎の名前で名を呼び、燗斎は海堂のことをお義兄さんと呼んだ。
彼らの望みは同じはずだ」
支配人は二人の調査ファイルを見比べている。
* * *
海堂には五歳年下の妹がいた。
年の離れた妹を海堂はよく世話をした。幼い頃は喧嘩もしたが、二人が大きくなると上手に距離をつかめるようになり、仲良くなった。海堂は妹を可愛がり、妹も海堂に懐いていた。
大学になると妹が紹介したい人がいると連れてきたのが燗斎淳史だった。
海堂ははじめこそ警戒心を前面に出し、威嚇していたが、妹に怒られて反省した。
根が真面目で素直な青年に海堂は心を開いたのである。
海堂はたまたま妹と別れて帰る淳史を見つけると、半強制的に居酒屋へ連行した。
頑固親父さながらの不器用さで『妹のことをどれだけ思っているんだ』『どれだけの覚悟があるんだ』と問い詰めたところ、『大好きです』『一生、一緒にいたいです』と直球が返ってきた。
居酒屋の店員は妹のことを話しているのを知らずに変な目で見てきたが、海堂は淳史の言葉を信頼に値すると心の中で強く思っていた。
その夜、妹は倒れた。
よくある話だが癌だった。
見つかった時には癌は幾つかの臓器へ転移していて、ステージⅣだった。
若者の癌は進行が早かった。
妹の癌も進行がとても早く手の打ちようがなかった。そのため、三年後に他界した。
妹の最期まで淳史は辛抱強く病院に通ってくれた。
病院では海堂もよく会うことが多く、淳史と話すことも多かった。
その淳史には感謝しても感謝しきれなかった。
妹を好きになってくれた人が淳史でよかったと海堂は思うようになった。
* * *
海堂は脇を押さえる燗斎を見て勝てると思った。燗斎を地面に倒してしまえば、今、手で押さえている腹部の怪我へ追い打ちをかけることもできる。
そう考えている頭の片隅に違和感を覚えていた。
「あの瞳⋯⋯どこかで見たことがある」
燗斎は深呼吸をすると、海堂の間合いに入ってきた。手刀で一気に終わらせようとしているみたいだった。
海堂の手が燗斎の顔に触れるほどの距離になり、海堂がカウンターパンチの準備をした。
海堂は右手の拳を引く。
燗斎の瞳を覗いた時に違和感は既視感に変わった。心臓が大きく脈打った。
燗斎淳史の手刀が海堂に伸びる。
そのタイミングを利用して、海堂の拳が淳史に伸びるのが少し遅かった。
いや、海堂は遅めたのだ。
淳史の瞳が大きくなる。
だが、手刀はそのまま当たると、海堂の体は地面へと倒れていった。
鈍い何かが潰れる音がする。
海堂はあまりの痛さに悶絶した顔になった。
「なぜカウンターを遅めたんだ!?」
淳史は詰問する。
海堂の腹部には木の枝が背中から刺さっていた。
運悪く倒れた時に地面に転がる枝に刺さったのだろう。
「淳史くん、秋姫を頼む」
その一言に淳史は顔色をがらりと変えた。
血の気がすっと引く。
「まさか、お義兄さん!? ⋯⋯駄目です。お義兄さんは生きてください」
痛みに神経が振り切れそうになりながら、必死で息を吸う海堂。
それでも息苦しくなってきた。
「秋姫とずっと一緒にいると約束してくれたじゃないか。兄にはできないことだ」
海堂の焦点が合わなくなってくる。
淳史の顔がぼやけてくる。
「頼む」
淳史が何かを叫んでいる。
海堂の心は温かいもので満たされていく。
「あぁ、これは安心感⋯⋯か」
声が出ているのかも分からない。
海堂の意識は途切れた。
支配人は立ち上がった。
モニター越しに勝敗を見届けていた。
「燗斎淳史、勝者。望みは何かな?」
海堂の死を悔やんでいるのか下を向いて震えている。嗚咽ともとらえられる声が淳史から漏れる。
しばらくして淳史は落ち着き始めると、静かに告げた。
「海堂秋姫を生き返らせてください」
モニター横には、死闘ゲームの観覧者から送られてくる金額が表示されている。
海堂が死んだと分かったときから数字が上がり続けていた。
今も物凄い勢いで数字が増えている。
すると、支配人のもとに一本の電話がかかってきた。
「いつもお世話になっております⋯⋯はい⋯⋯あ、今回は非常に満足されたとのこと、こちらも嬉しい限りです。⋯⋯はい⋯⋯え? ⋯⋯いえ、承知いたしました⋯⋯いえ、他の観覧者の方々も喜ばれると思います。えぇ、はい。誠にありがとうございます。それでは⋯⋯」
電話を置いて、支配人は一息ついた。
そして支配人は大きく顔を綻ばせたが、手で顔を隠した。
「まさか、海堂元気も生き返らせろだなんて、お金持ちの方の考えることは分かりませんね」
支配人はマイクのボタンを押した。
「観覧されております皆様方にお知らせです。海堂元気も生き返らせることになりました」
モニター横の数字はうなぎのぼりに増えていく。
モニターの一つに映る淳史は生き返った海堂秋姫と熱い抱擁をした。
お読みいただありがとうございます!
深夜に何を書いているんでしょうかね。
一応個人的にはハッピーエンドです(ㆁωㆁ)




