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婚約していないのに、婚約破棄されました

掲載日:2026/05/05

「そこの角の一人でふてくされているお嬢さん。良かったら私と一緒に踊りませんか?」

「……誰かと思ったらガルダーじゃない。――遠慮しとくわ。足を踏みつけられる趣味はないもの」

「これは手厳しい。――踊ってる最中に、足下を見る余裕のある人を誘うことにするよ」


 ガルダーはそう言って、肩をすくめながらニヤリと笑う。私も同様にニヤリと笑う。

 ガルダー伯爵令息とは、領地が近いこともあり、幼い頃から共に成長してきた仲だ。昔は私よりも小さくて可愛かったのに、今では見上げないといけないぐらい身長が高くなってしまった。

 貴族の中で、相手の顔色をうかがわずにすむ、希少なおしゃべり相手の一人だ。


「しかし本当にどうした?そんな隅っこで縮こまって、何かあったのか?――そのままじゃカビが生えちまうぞ?」


 ガルダーがおどけながらも、少し心配そうに私の顔をのぞき込む。


「あぁ気にしないで。――今日の舞踏会にストークル男爵が来ているらしいから、あんまり顔を合わせたくなくて」

「ストークルって言うと……ああ、あの」


 ガルダーは顔をしかめてそうつぶやく。

 ストークル男爵は、数年前から私に言い寄って来ている男である。普通に言い寄って来るだけなら構わないのだが、気軽にスキンシップをしてきたり、よく分からないポエムを送りつけてきたり、私の体型について感想を述べてきたりするのだ。私の体型についてとやかく言う前に、鏡をしっかり見てほしい。


「遠巻きに見とくから、あんまり気にせず楽しんでこいよ。何かあればすぐに行くからさ」

「ありがとう。でもガルダーこそ楽しんでおいでよ。――まだ婚約者いないんでしょ?」

「ふん。余計なお世話だってんだ。それに婚約者の件は、レイナにだけは言われたくないね」


 ガルダーは私に向かって、べーっと舌を出す。

 ガルダーとの会話はとても心地良い。いじられても不快な気分にならないし、なんだか、からかってしまいたくなる。


「――おっと、噂をすれば、だ」


 ガルダーが急に目を細め、私の背後をジッと睨みつける。……嫌な予感がする。

 私がバッと後ろを振り返ると、そこには案の定、ストークル男爵がいた。


「おやおやレイナではありませんか。ご機嫌いかがですか?スタイルも以前より引き締まっておられますな。感心ですぞ」


 ストークル男爵はそう言って(名前を呼び捨てにすることは許可していない。悪寒がするので止めて欲しい)、私の腰に手を伸ばそうとする。

 すると、何かがスッと横からそれを遮る。ガルダーだ。


「どうもストークル男爵。レブナンド伯爵の息子、ガルダーと申します。以後お見知りおきを」

「何だ君は。……そういえば先ほどレイナと親しげにしゃべっていたではないか。一体どういう関係なのだ!?」

「レイナとは領地の近さもあり、幼い頃から親しくおります」


 ガルダーがそう言うと、ストークル男爵は急に顔を真っ赤にする。


「き、貴様!今、レイナと呼び捨てにしたか!」


 それは私があんたに言いたいわ。勝手に台詞を奪わないでくれ。


「普段から名前で呼び合っているのでつい。公的な場では相応しくありませんでしたね」

「普段から呼び合っているだと!?」


 ガルダーにしてはとても丁寧な対応をしたのに、なぜか裏目に出たらしい。

 私もガルダーも何がなんだか首をかしげる。


「もう我慢ならん!レイナ!お前との婚約を破棄する!」

「「は!?」」


 思わず口からこぼれ落ちる驚きの声。私はいつの間に婚約をしていたのだろう。

 ガルダーも開いた口が塞がっていない。まるでクルミ割り人形のように、だらしなく下顎が開いたままだ。今、口に何か突っ込んでやったらどんな反応をするのだろうか。……いやいや、そんなことしている状況じゃない。


「レイナ、お前婚約してたのか?」

「してないしてない!これっぽちもしてないわよ!全く冗談がお上手ね、ストークル男爵は」


 というか冗談であって欲しい。冗談だったとしても別に面白くもなんともないけど、少なくとも冗談だと思っていないよりは良いに決まっている。


「冗談などは言っておらん!この間お茶会で言っていたらしいではないか!現在は婚約していないが、素敵な殿方が現れたら婚約しても良いと!」

「確かに女性貴族方とのお茶会でそのような発言はしましたけど」


 なんでそれがあなたと婚約することになるのよ!というかなんでそれを知ってるわけ!?普通に怖いわよ!


「ストークル男爵。なぜその発言で、レイナとあなたが婚約するという話になるのでしょうか?私には全く理解できなかったのですが」


 ガルダーが眉間を抑えながら、苦悶の表情でそう言った。まったくその通りだ。


「理解できんのか。これだから若造は困る。レイナは二十二歳を過ぎてもまだ婚約していない。普通は婚約してないと焦る年頃だ。しかし彼女は焦っている様子はない。――つまり、彼女の中で素敵な殿方という心に決めた存在がいるのだ。それが私だと言うことだ!」


 ……正直何を言っているか理解出来なかった。共通言語をしゃべっているはずなのに、全くの異世界の言葉に聞こえるのだから不思議でしょうがない。ストークル男爵の頭の中では、一体何がどう繋がっているのだろうか。とりあえず、彼の世界で1+1の答えが2でない事は明らかだ。


「ストークル男爵。落ち着いて聞いてください。――私はあなたと婚約したいと思っておりません。あなたと私は赤の他人です」

「……なっ!ならばどうして二十二にもなって婚約しておらんのだ!それこそレイナが私と婚約したいと思っている気持ちの表れだ!嘘はいかん!――さては私に婚約破棄された事がショックすぎたのだろう。しかたがない。態度を改めると約束するのであれば、婚約破棄は無かったことにしてやろう」


 ダメだこりゃ。何を言っても通用しないらしい。ここまで行くとキモいを超えてすごい。……いや、すごいをさらに超えてキモいかもしれない。


「お前何を言って」

「ガルダー!大丈夫だから」


 私はガルダーの振り上げた右手を両手でやんわりと押さえる。

 こんな奴のためだけに、憲兵の厄介になってしまっては目も当てられない。


「わかりました。――私は婚約することにいたします」

「おお!わかってくれたのか!では早速婚約を結ぶとしよう!」

「レイナ!なんでそんな!」

「……何を勘違いされているかわかりませんが、あなたと婚約するわけではありません。――私はここにいるガルダーと婚約をいたします!」


 私はそう言って、ニヤリと笑いながらガルダーの顔を見る。

 ガルダーは始め困惑した表情をしていたが、だんだん顔に赤みが差していき、すぐに耳まで真っ赤になってしまった。


「な、何を言っているのだ!私と婚約するのではないのか!」

「あなたは、私がこの年になっても婚約していないのが気持ちの表れだと言われていましたよね?もう私はガルダーと婚約いたしました。あなたへの気持ちはこれっぽっちもありません。お引き取りください」

「……ふん!後悔しても知らんからな!」


 ストークル男爵はそう捨て台詞を吐くと、踵を返して会場に消えていった。


「……レイナ本気か?」

「あの場を乗り切るためにああ言っただけよ――あなたも私と婚約なんて嫌でしょ。安心して頂戴。婚約相手は別で探すことにするわ」

「……嫌じゃない」

「え?」

「レイナと婚約するのは嫌じゃない。むしろ、その――俺と婚約しないか?」


 ガルダーは真剣なまなざしでそう言った。

 いつものおふざけではない事はすぐにわかった。というより、ガルダーはこういう大切な場面ではふざけたりしない。なんだかんだ真面目なのだ。そこが彼の良いところなのだ。


「……そういうのはもっと堂々と言いなさいよ。耳が真っ赤よ。おかわいいこと」

「う、うるせー!」


 ガルダーは顔を真っ赤にして叫ぶ。その反応を見て、私も思わず笑みをこぼす。

 見上げるほど大きいはずなのに、なぜだかとても可愛く、愛おしく感じる。


「冗談よ。ありがとう、とても嬉しいわ――不束者ですが、これからよろしくお願いいたします」




 こうして、私とガルダーは婚約することとなった。

 ちなみに、我々の恋のキューピットことストークル男爵は、婚約してない相手を婚約破棄したというトンデモ話が広がりに広がり、社交界の爪弾きものとなったとさ。

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― 新着の感想 ―
ストーカー男を鮮やかに撃退!お見事です!!
レイナの余裕綽々なのかっこいいなぁ。 お可愛いこと。とかいってみたいー。 強め令嬢良き。
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