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クラゲの親子  作者: 夏乃緒玻璃


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二話 クラたん登場

 帰宅時に飛び付いてくる事はなくなったが、テンションが高いのは相変わらずだった。


 ハルコさんは実はいつもクタクタなので、ゆっくりゆっくりと階段を登り、部屋の前でいったん止まる。

 そして疲れた顔を見せないように息を整えてから明るく勢いよくドアを開けるのだ。


「ただいまっ。シュウ君!」


 息子とお婆ちゃんがお疲れ様を言う前に、ハルコさんはハイテンションでバッグから小さな瓶を取り出す。


「じゃーん!今日から家族が増えましたっ。さかさクラゲのクラたんですっ!」


 シュウ君もお婆ちゃんも思わず目を丸くする。


 ガラス瓶の中に、3センチくらいの傘のようなものが泳いでいる。体全体的を使って、傘を閉じたり開いたりしながら踊るように水中を舞うクラたん。


「さかさクラゲって言うんだって。あんまり餌あげなくても長生きするんだって。飼い方も書いてあるの」


 また「ジャーン」と擬音を作り、バッグからごそごそとプリントを取りだす。

 先に擬音を言ってしまったのでタイミングが合わず、取り出してからもう一度「ジャーン!」とドヤ顔をする。


「前にママがクラゲが好きって言ったら、お客さんが、ううん会社の人が買ってきてくれたんだよ」


 そう言いながらハルコさんは少し憂いを込めて笑った。


 その日から、クラたんのお世話がシュウ君の仕事になった。

 マニュアルに書いてある通り、エサのブラインシュリンプという小さなミジンコのような物を触手の近くにそっと放してやる。

 クラたんは気が向けばすぐ食べるし、そうでない時は無反応で泳いで行ってしまう。

 そんな時は、そのままにしておくと水が汚れて生きていけなくなってしまうので、餌を取り出して捨てる。


 すぐ横にご馳走があるのに気付かずにエサを探しに行ってしまう。クラたんは少しかわいそうな子だ。


 餌やりが終わると、ハルコママはシュウ君に偉い偉いをして、お仕事料の100円をブタさん貯金箱に入れてあげる。早くいっぱいになるといいね、と言いながら。


 母の日までにいっぱいにして、割ってカーネーションとケーキを買ってあげるのがシュウ君の極秘計画だった。知っているのはお婆ちゃんだけ。

 目標達成までは、まだまだ遠かった。


 ◇◇


 クラゲコラム②


 サカサクラゲの生態


 サカサクラゲはその名の通り傘を海底に向け、口腕こうわんを太陽へ広げるというユニークな生態を持つクラゲで、通常のクラゲとは異なり、ほとんどの時間を海底や水槽のガラス面などに傘を下にして付着し、逆さまの状態で過ごす。

 体内に褐虫藻という藻類を共生させており、褐虫藻が光合成によって作り出す栄養分の一部を吸収するので、しばらくなら餌を食べなくても大丈夫。

 生息域も淡水なので飼育も海水のクラゲより楽。

 動物なのに光合成で活動できる凄いクラゲだ。




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