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クラゲの親子  作者: 夏乃緒玻璃


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一話 ハルコさんとシュウ君

 クラゲコラム①


 クラゲは必死だ。

 弱くても原始的でも、どんなに気ままに見えても必死で生きている。

 水の流れが無いと生きられないが泳ぐのが下手。

 ただ浮かんでいるようにしか見えなくても、当人は必死に泳いでいる。

 餌がないと生きられないが、目の前の餌ですら上手くとれずに餓死したりする。

 でも餌を取るのが下手なだけで、やはり餌は欲しいのだ。頑張って生きているのだ。



 ◇◇



 シングルマザーのハルコさんは29歳。


 元気いっぱいの可愛い女性。

 よく「美人のサザエさん」などと言われる、慌て者でお人好し。いつもたいていニコニコ優しいが、怒った時はプクッと頬を膨らます癖がある。


 それを息子くんに「アンパンマンみたい」と言われ、本気で泣いた事がある。アンパンマンって可愛い要素無いじゃないって。そこまで言っては逆にアンパンマンに失礼だと思う。


 そのママを泣かせたのが、シュウ君6歳。

 ハルコママの宝物。ママによると、くりくりしていてフニフニしていて世界一可愛い、との事。


 ママは少し、駄目なママのようだ。

 しかし、確かにシュウ君はしっかりしていて優しく利発な男の子だ。


 2人は小さなアパートで2人暮らし。

 少し前まではペット可マンションで猫のフニャ子と三人暮らしだったけれど、引越しの時にフニャ子はお婆ちゃんの家に預けてきた。


 ハルコさんは週に5日ほど、接客業で働いている。

 メイド服を着て、おいしくなーれ!と呪文を唱えるコンパニオンさん。

 少しだけ年齢をごまかしていたりするが、明るく元気な人気者だ。

 その間はお婆ちゃんがアパートにくるか、逆にシュウ君がお婆ちゃんの家に行っている。


 シュウ君としてはフニャ子に会えるので、お婆ちゃんの家に行く方が嬉しい。


 しかしお婆ちゃんが来る時は必ずお菓子やケーキを買って来てくれるので、どちらがいいかは悩ましい。

 最近は近くに100円ケーキのお店ができて、「来て欲しい」に傾きつつある。

 哀れ、フニャ子。

 ちなみにフニャ子と名付けたのはハルコママ。子猫の時にフニャフニャ泣いていたからだという。

 やはり少しセンスがおかしい。


 ハルコさんはシュウ君を溺愛している。

 それを自覚しているし、お婆ちゃんによく注意されてもいる。

 しかし治らない。自分の息子くんを愛して何が悪いのかと思っている。

 そのせいでシュウ君も少しだけ甘えん坊になってしまっているのがお婆ちゃんの悩みの種だ。


「ただいまあ!シュウ君!会いたかったよー」


 帰宅するとそう言って抱きつくのがハルコさんの日課。

 抱きついて、抱きしめて、頭をなででまた抱きしめる。


「シュウ君の為に頑張ったよ。ママはシュウ君の為ならなんでもできるんだよ」


 シュウ君は「苦しいよ」とか「痛いよ」と言いながら、されるがまま。


 しかしある日、勢い余ってシュウ君を押し倒してしまい、そのまま頭を壁に打ち付けてしまった。

 シュウ君は滅多に泣かない。

 その時も、痛みを堪えて「痛いよ」とか細く言っただけだった。

 ハルコさんは真っ青になって息子を抱え、タクシーに乗って病院に直行した。


 小一時間後、診察室。

 看護師さんに包帯を巻かれる息子の横で、先生に怒られうなだれるハルコさんだった。


「お母さん、可愛がりすぎるのも虐待なんですよ」


「はい、すみません」


「息子さんの方がしっかりしてるじゃないですか。ちゃんと気をつけてあげないと」


「はい。すみませんでした」


 帰り道、怪我したシュウ君と、息子よりも肩を落としてしょんぼり歩くハルコさん。


「元気だしなよ」


 息子に慰められる母親だった。


「100円ケーキ買って帰ろっか」


 慰められて少しだけ元気が出たハルコさんが提案し、二人は仲良く買い物をして家路についた。


 その日から、ハルコさんが帰宅時にシュウ君に抱きつく事はなくなった。






挿絵(By みてみん)




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