表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界測図師のライセンス~差別されてきたウミビトですが、世界最難関ライセンスを獲得したので、種族も国境も関係なく旅をします。  作者: 謝命雲丹丸


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/40

25話 龍の置き土産

 龍の姿が完全に消えたのを確認し、俺は甲板に出て信号弾を装填する。

 引き金を引くと、ヒュルルル……という音と共に、鮮やかな青い花火が空に咲いた。

 作戦成功の合図だ。


 しばらくして、周囲に充満していた『赤鬼の舌』の激辛煙が風に流され、薄まったのを確認してから、骸骨船を収納する。


「──解除リリース


 俺が短く告げると、黒い骨の船は霧のように霞み、元の小さな数珠へと戻って俺の手元に収まった。

 支えを失った『銀の天分儀』のメンバーたちが、地面に放り出される。


「う、うぅ……」


「た、助かったのか……?」


 ざっと見たところ、負傷者と無傷の者は半々といったところか。

 骨折や打撲は痛々しいが、龍と正面から接触して死者ゼロなら重畳だろう。


 だが、動ける者たちも呆然とするばかりで、一向に仲間の手当てをしようとしない。


「おい。手当してやらないのか?」


 近くにいた重戦士に問いかけると、男は虚ろな目で首を横に振った。


「回復薬や包帯を積んだ馬車が、さっきの騒ぎで逃げてしまった。俺たちはもう、何も持ってない……」


 武器も、物資も、そしてプライドも。

 すべてを失った彼らは、ただ途方に暮れるしかなかった。


「カイ様! ご無事で!」


 そこへ、森の奥からロイドとエドモンドたち『紅蓮の探究者(クリムゾンシーカー)』のメンバーが駆け寄ってきた。


「お疲れ様です! まさか龍を御すなんて……凄すぎます!」


 興奮気味に語るロイドを制し、俺は『銀の天分儀』の連中を親指で指し示した。


「ロイド、彼らの手当をしてやってくれ」


「えっ? こいつらを、ですか?」


 エドモンドが露骨に嫌そうな顔をする。無理もない。

 彼らは依頼を不当に横取りした相手だ。情けをかける義理はない。

 だが、俺は足元の惨状を顎でしゃくってみせた。


「よく見ろ。アストリア家の御令嬢が成人の儀式を行う神聖な場所が、こんなに汚れてる」


 辺り一面、龍が撒き散らした未消化の餌と胃液──平たく言えば、大量の吐瀉物で埋め尽くされている。強烈な酸臭が鼻をつく惨状だ。


「こいつらを治して掃除させる。……それとも、お前がやるか?」


「……っ!?」


 エドモンドが顔を引きつらせ、首を横に振った。


「……はぁ、わかりました。ですがカイさん、あの龍を逃がして良かったんですか? 死体から素材を剥ぎ取るはずじゃ……」


 エドモンドが未練がましく空を見上げる。

 確かに龍の鱗や牙は高級素材だが、今回はそれ以上に割のいい『収穫』がある。


「お宝なら、ここにある」


 俺は足元に広がる惨状──龍の吐瀉物を指差した。


「えっ? ……これですか?」 


 エドモンドが顔を引きつらせる。

 そこへ、エルゼが駆け戻ってきた。


「カイ! 無事だったのね!」


 俺の姿を確認するなり、安堵の表情で肩の力を抜く。


「ああ。それじゃあ、お宝の収穫タイムだ」


「収穫って……この汚物が?」


 エルゼが顔をしかめて鼻をつまむ。

 俺はロイドたちに『銀の天分儀』の治療を任せると、エドモンドとエルゼを促し、躊躇なく吐瀉物の中へと歩を進めた。


 俺は屈み込み、汚物にまみれた地面をのぞき込みながら問いかけた。


「二人は、『クジラ』という海の魔物を知っているか?」


「ク……ジラ? なんだいそれは」


「初耳ですね」


 二人ともキョトンとしている。ウミビトじゃなきゃ馴染みはないか。


「さっきの水龍より一回りデカい、海の覇者だ」


「龍よりデカい……!? 想像もしたくないね……」


 エルゼが身震いする。


「ははは、まあ滅多に人を襲ったりはしない温厚な亜竜だよ。で、そのクジラの体内で消化不良物が固まると、稀に『龍涎香りゅうぜんこう』という石ができる」


「龍の……香り?」


「ああ。クジラみたいな亜竜種からでも一応は取れるんだが、本物の龍種から採れるそれは別格でな。お香としても極上の香りを放つが、何よりあらゆる病に効く万能薬の素材になる。……ただ、欠点があってな」


 俺は足元のヘドロの中から、『灰琥珀色』をした拳大の塊を拾い上げた。

 袖で汚れを拭うと、独特の甘く重厚な香りが漂い始める。


「龍を殺して腹を割くと、死と同時に質が大幅に下がるんだ。だから──『生きたまま取り出す』のが、最高の採取方法ってわけだ」


 俺は灰琥珀色の塊を、呆然とする二人の前にかざしてみせた。


「これだ。これが他にないか探してくれ」


「はぁ……。まあ、カイさんが言うならやりますけど……」


 エドモンドが露骨に嫌そうな顔をする。

 だが、次の俺の一言で、その表情は一変することになる。


「ちなみにこのサイズで、市場価格は金貨八十枚ってところかな」


「「金貨八十枚ッ!?!?」」


 二人の目が限界まで見開かれた。

 金貨八十枚。数年は働かずに遊んで暮らせる大金だ。


「さあ、宝探しだ。黄金の山に見えてきただろ?」


「はい喜んで!!」


 現金なものだ。

 さっきまで顔をしかめていたエドモンドは、袖をまくり上げると、宝の山(ゲロ)へとダイブしていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ