10話 イカレた旅には、イカレた仲間を
「当然のことながら、発見された土地の権利は、原則として発見者に帰属します。──もっとも、それを『維持』できるかどうかは、全く別の話ですが」
「維持……?」
「ええ。たとえばカイ様が新島を発見したとして、そこを他国の艦隊や海賊からたった一人で守りきれますか? ……不可能です」
パティックは淡々と言葉を続ける。
「ですので、多くのサーベイヤーは貴族の後ろ盾を得て活動しております。カイ様も、当然アストリア家の庇護下にあるものと認識しておりますが」
……なるほど。
世間的には、俺は「アストリア家お抱えの測図師」という扱いになるわけか。
「ゆえに、カイ様が発見された土地は、形式上はアストリア家を通じて、アルヴェン王国領となります。領土としての管理権までアストリア家に与えられるかまではわかりませんが、最大の栄誉である『発見の功績』は、アストリア家のものとなるでしょう」
「その代わり、旅にかかる費用や装備の準備、面倒な手続きの一切は貴族側が負担します。島名の命名権なども、通常はスポンサーである貴族に帰属しますな」
金と権力を出す代わりに、名誉と領土を得る。
サーベイヤーは実働部隊として、リスクを背負って道を開く。
分かりやすい等価交換だ。
「無論、どこの組織にも属さず、個人で新天地の発見そのものを目的とする……いわゆる『物好きな方』も存在すると聞いております」
パティックは眼鏡を押し上げた。
「しかし、そのようなフリーの測図師が発見した土地も、最終的には武力を持ったどこかの国家に編入されるのが大半です。……個人が国家に対抗することはできませんから」
それが現実です、とパティックは締めくくる。
夢のない話だが、納得はできる。
俺だって、発見した島を自分で統治したいわけじゃない。ただ、そこへ「行くこと」が目的なのだから。
「もう一つ、聞いてもいいか?」
「ええ、何なりと」
「さっきの女──エルゼが言っていた、『Aランククラン』ってのは何だ?」
パティックは頷き、眼鏡の位置を直した。
「はい、ご説明しましょう。……まず前提として、我々『ギルド』は、四大陸すべてに支部を持つ世界的な中立機関です。世界政府加盟の六十八ヵ国から資金提供を受けて運営されております」
「国から金が出てるのか」
「はい。行政や市民から依頼を受け、それを冒険者に提示し、達成報酬を仲介する。あくまで『仕事の斡旋所』とお考えください」
パティックはそこで言葉を区切り、指を一本立てた。
「対して、『クラン』とは冒険者たちが自主的に作った互助組織のことです」
「互助組織?」
「ええ。たとえば、『希少な鉱石を二百キロ納品せよ』という行政からの依頼があったとします」
「ああ」
「産出場所の特定くらいであれば、我々ギルドでも可能です。しかし、実際に鉱脈を掘り当てる技術、荷物を運搬する手段、その間の魔獣からの護衛、専門機材の準備……これらを、たった一人の冒険者でこなすのは困難でしょう?」
「……まあ、そうだな」
荷物持ちもいれば、戦う奴もいる。全部一人でやろうとすればパンクする。
「そもそも、現場の細かなマネジメントまで役人ができるなら、最初から自分たちでやっていますからな」
「なるほど」
「そこでクランの出番です。依頼が高度になればなるほど、個人の力には限界が来ます。そこで装備や人材、知識を融通し合い、組織として依頼を達成するのです」
パティックは説明を締めくくるように、俺の目を見た。
「そのクランの中でも、実績、規模、武力においてトップクラスに位置するのが……先ほどのエルゼ嬢が所属する『紅蓮の探求者』です。この国でも五本の指に入る実力派Aランククランというわけです」
なるほど、よく分かった。
つまり、さっきの女はただのチンピラじゃなく、「エリート集団の一員」だったわけだな。
「みんな、クランには入るのが普通なのか?」
俺が尋ねると、パティックは首を横に振った。
「いえ、半々といったところでしょうな。なにせ冒険者というのは、組織に縛られることを嫌う自由人が多い稼業ですから」
組織の恩恵を受けるか、個人の自由を取るか。
ウミビトの船団社会にも似たような構造はある。どこの世界でも、人の集まりの悩みは変わらないらしい。
「ただ、サーベイヤーともなれば、既存のクランに『入る』というより、自ら『創る』側になることがほとんどですが」
「……創る?」
「ええ。先ほども申し上げました通り、地図のない未知の世界へ飛び込むなど、正気の沙汰ではありませんから」
パティックは困ったように笑い、肩をすくめた。
「通常のクランは、あくまで利益と安全を天秤にかけて活動します。『死ぬ確率が高い上に、儲かるかどうかも不明な旅』になんて、誰も付き合ってはくれませんよ」
「……。」
「貴方の旅に付き合ってくれるような『命知らず』は、ご自身で見つけ出し、集めるしかない。──それが、サーベイヤーの宿命でしょうな」
「……なるほどな。いろいろと教えてくれて助かった」
俺は立ち上がり、パティックに礼を言った。
これ以上の長居は無用だ。
「いえ、とんでもございません。カイ様のご活躍、楽しみにしております」
パティックに見送られ、俺は応接室を後にした。




