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審判はサブスクで  作者: 海浮蝉


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第五章:正義とは 5-1

・・真夜中のオフィスは静まり返っていた。


 以前の署内の喧騒や、怒鳴り声が飛び交うパトカーの中とは大違いだ。

 私が転職したIT企業は、夜間サーバーの保守管理を専門とする、無機質そのものの場所だった。白い照明の下、並ぶサーバーの筐体からは、一定のリズムでうなるような冷却ファンの音だけが聞こえてくる。真夜中ということも相まって、この空間は私だけの世界だ。この無機質な静寂こそ、私が転職した理由だ。


 私は自分の判断に、間違っていなかったと何度も確認した。あの地獄のような正義から逃げ、この静かなシステムの中に身を隠したのだ。これでいい。

 画面には、膨大なデータが流れ続けている。 サーバーのトラフィック分析。アクセス元、アクセス数、そして帯域幅の負荷。


 数時間後には、月に一度の「ビッグイベント」がある。

 私はマウスを握りしめ、目を細めた。機械的に数値を追うだけで、感情が入り込む余地は一切ない。 だが、その数値の異様な高まりは、私の腹の底を冷たく鷲掴みにした。


『SHITOU-LIVE-03』


 そのストリームが、サーバー全体の帯域幅の半分以上を占めていた。 それは、他のどの動画配信サービスやオンラインゲーム、あるいはニュースサイトのトラフィックを遥かに凌駕する異常な数値だ。

 そして、そのトラフィックの中には、「投げ銭」のログが混じっている。 一瞬で数万円が動いている。熱狂。狂気。

 逃げてきたはずなのに、私は今、この国の狂気の心臓部を、データという形でまざまざと見せつけられている。私がこのサーバーを守らなければ、この配信は途中で止まってしまう。

 私の仕事は、この「死のエンターテイメント」を、安定して消費者に届けることだった。

 私の信じる正義をあざ笑うかのように、画面の隅に表示された視聴者数が、五百万を超えた。


 逃げてきたはずだった。信じられなくなった正義を脱ぎ捨て、最も機械的で最も感情から切り離された業界に飛び込んだはずだった。だが、入社して間もなく、会社がこの仕事を受注してしまった。

 政府系の大型案件。社内は沸き立った。その熱狂の片隅で、逃げ場を失った私は静かに目を閉じるほかなかった。


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