第四章:贖罪 4-5
・・・それはいつもの他愛もない話。
「おい、透、見たかよ。あれ、ヤバくね?」
講義が終わって、いつものように学食に向かっている時、友人のコウジがスマートフォンを突き出してきた。華の大学生、退屈を殺すことだけが使命のような日々だ。コウジのスマホ画面に映っていたのは、「金網デスマッチ最新戦!」という刺激的なタイトルと、血まみれの男が倒れているサムネイルだった。
「ああ、死闘法だろ? なんかそんなの始まったってニュースで見たけど」
「見てねぇのかよ!マジで人生損してるって。あれ、ガチの殺し合いだから。死刑囚が、生きたければ目の前の奴を殺せってルール。サブスクで見放題だぜ」
コウジの目が、興奮でギラギラしている。周りの連中も頷いている。
「ゲームとか映画で血を見るのは飽きたけど、あれは違う。ガチなんだよ。命の重さが、画面越しでも伝わってくる。しかも、さ」
コウジは声を潜め、画面をスワイプした。
「次の対戦、やばいぞ。あの通り魔事件の加藤幸雄だ。あいつ、もう2勝してんだって。あんな薬物中毒者がさ、生きるために人を殺してるって、最高のエグさだろ」
「あの事件、そんなのあったな。もう結構経つよな?」
「そうそう。まあ俺らはガキだったけど、世間は騒いだろ? その犯人がリングに立ってるんだぜ。しかも、あいつが勝つと、遺族に金がドサッと入るらしい。国の法って、ほんと面白いこと考えるよな」
「遺族に金か……なんか、複雑だな」
「複雑?なんでだよ。極悪人が殺し合って、その金で被害者が救われるんだぜ。国公認の、究極のチャリティーマッチって感じじゃん。サブスク代が、誰かの家賃になると思えば、俺らもいいことしてるんだよ」
コウジはそう言って、俺の肩を軽く叩いた。
『さあ、お前も今すぐサブスク登録! 正義を、エンタメで買え』 画面には、そんなコピーが踊っている。
平凡な日々に飽きていた。刺激が欲しかった。 そして、目の前のエンタメは、正義という大義名分まで与えてくれている。
俺はコウジからアプリのURLを受け取り、立ち止まった。 一瞬、脳裏に母親の、最近のどこか憂いを帯びた顔がよぎったが、すぐに消えた。 母は、確か以前、この配信を見ていないか、と心配そうに聞いてきたことがあった。
——まあ、見るくらい、別にいいだろ。みんな見てるし。
次のマッチまで、あと数日。 俺は、自分の運命が、誰かの血と繋がっていることなど、知るよしもなかった。




