第四章:贖罪 4-2
・・・ニュース番組は、朝からやかましかった。
『死刑制度の廃止。代替刑「死闘刑」の施行から、間もなく一か月』
テロップの文字は、画面の隅で点滅している。キャスターは、満面の笑みでそれを伝えている。その背後には、まるでスポーツジムか、格闘技のプロモーションのような、光と影を強調したCG映像が流れていた。
死闘法。
成立の報を聞いたあの日、俺の脳は現実を拒絶した。最愛の妻を奪った男が、人道的に死ぬことを許されず、命を賭けたエンターテイメントの舞台に上げられる。それは、妻が虫一匹すら殺せなかったことを知っている俺にとって、この国が狂ったことを示す何よりの証拠だった。
だが、世間はこの狂気を熱狂で受け入れた。
「犯罪被害者及び遺族の窮状を救う、画期的な制度です」
コメンテーターの、正義を盾にした言葉が耳に突き刺さる。 死刑囚は金網のリングで殺し合う。その様子はネットで配信され、視聴者はサブスクリプションで熱狂し、投げ銭を繰り返す。そして、その収益の全てが、犯罪被害者と遺族に補償金として渡る。
——奴が生きて、人を殺すたびに、俺の生活が繋がれる。
妻を失って以来、精神的な不調で勤めていた会社を辞め、俺は社会から切り離されて生きていた。妻の命を奪った男の死を、心の底から願い続けていたはずなのに。
恐る恐る、手元のスマートフォンで残高を確認する。
日付は一週間前。 『シトウケイヒガイシヤホシヨウキン』 カタカナで印字された、あまりにも無機質なその文字列の下に、見慣れない六桁の数字が記されていた。
手が、激しく震えた。 スマホを掴む指の力が抜け、あやうく落としそうになる。 これは、あの男、加藤幸雄が金網の中で、誰かの息の根を止めて稼いだ金だ。
「これ、が……」
自分の復讐は、あの男の死だった。それだけを願って生きてきた。 なのに、俺の人生は、皮肉にもあの男の「生」に依存する構造に、組み込まれてしまった。 この金が、次の家賃となり、次の食事となる。
汚い、汚すぎる。吐き気がするほどに汚れたこの金を、俺は拒否すべきではないのか。 しかし、妻のいない世界で、正気を保って生きていくためには、この金が必要だった。 スマホを握りしめたまま、俺は時間を忘れて、その場で立ち尽くした。
しかし、どれだけ時間がたとうとも、この気持ちの整理はつかなかった。




