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審判はサブスクで  作者: 海浮蝉


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10/21

第四章:贖罪 4-2

・・・ニュース番組は、朝からやかましかった。


『死刑制度の廃止。代替刑「死闘刑」の施行から、間もなく一か月』


 テロップの文字は、画面の隅で点滅している。キャスターは、満面の笑みでそれを伝えている。その背後には、まるでスポーツジムか、格闘技のプロモーションのような、光と影を強調したCG映像が流れていた。


 死闘法。


 成立の報を聞いたあの日、俺の脳は現実を拒絶した。最愛の妻を奪った男が、人道的に死ぬことを許されず、命を賭けたエンターテイメントの舞台に上げられる。それは、妻が虫一匹すら殺せなかったことを知っている俺にとって、この国が狂ったことを示す何よりの証拠だった。


 だが、世間はこの狂気を熱狂で受け入れた。


「犯罪被害者及び遺族の窮状を救う、画期的な制度です」

 コメンテーターの、正義を盾にした言葉が耳に突き刺さる。 死刑囚は金網のリングで殺し合う。その様子はネットで配信され、視聴者はサブスクリプションで熱狂し、投げ銭を繰り返す。そして、その収益の全てが、犯罪被害者と遺族に補償金として渡る。

 ——奴が生きて、人を殺すたびに、俺の生活が繋がれる。

 妻を失って以来、精神的な不調で勤めていた会社を辞め、俺は社会から切り離されて生きていた。妻の命を奪った男の死を、心の底から願い続けていたはずなのに。

 恐る恐る、手元のスマートフォンで残高を確認する。

 日付は一週間前。 『シトウケイヒガイシヤホシヨウキン』 カタカナで印字された、あまりにも無機質なその文字列の下に、見慣れない六桁の数字が記されていた。

 手が、激しく震えた。 スマホを掴む指の力が抜け、あやうく落としそうになる。 これは、あの男、加藤幸雄が金網の中で、誰かの息の根を止めて稼いだ金だ。


「これ、が……」

 自分の復讐は、あの男の死だった。それだけを願って生きてきた。 なのに、俺の人生は、皮肉にもあの男の「生」に依存する構造に、組み込まれてしまった。 この金が、次の家賃となり、次の食事となる。

 汚い、汚すぎる。吐き気がするほどに汚れたこの金を、俺は拒否すべきではないのか。 しかし、妻のいない世界で、正気を保って生きていくためには、この金が必要だった。 スマホを握りしめたまま、俺は時間を忘れて、その場で立ち尽くした。


 しかし、どれだけ時間がたとうとも、この気持ちの整理はつかなかった。


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