人質にされた娘
入院した美香を見届けて、佐久間は、病院を出た。きっかけはあった。たとえそれが、闇魔との壮絶な闘いになるとしても、それが、彼の避けがたい使命であった。すべては、以前に、佐久間が闇魔に苦しめられる悪夢の中から、彼を救い出した知的生命体セシルとの出会いであった。セシルは、宇宙の二大攻防を示唆して、今もそのふたつの偉大なる力の闘いは続いていることを教えた。すべてを繁栄させる善なる力と、すべてを滅亡させる邪悪なる力。そして、セシルによって、自らのサイオニクス戦士としての超能力に覚醒した佐久間は、邪悪な闇魔に挑むため、茨の道を歩んでいくのであった。そして、今日、そのきっかけは、意識をなくす前に、美香が彼に手渡した小さな紙片に残されていた。そこには、都内の或る場所が記されていた。ともかく、そこを目指そう。佐久間は決意して足を進めた。
都内もここまで来ると、暗い森林に囲まれて、鬱蒼とした雰囲気である。木々の中を潜りながら、佐久間は、目的地が近いことを知った。やがて、一軒の山小屋風の屋敷の前まで来ると、ここだと、佐久間は確信した。躊躇いなく、佐久間は、扉を開き、屋敷に入った。中は、照明もなく、薄暗い。廊下を進み、奥の扉を開く。そして、はっと驚いた。
何もないガランとした部屋の中央に、粗末な椅子が置かれ、そこに、一人の金髪の少女が、胴体を縄でグルグルに巻かれて、監禁されていた。佐久間が来るや否や、彼の頭の中で、少女の声が響いてきた。
(誰?そこにいるのは、誰なの?)
佐久間も、頭の中で、
(君、テレパシーが使えるのかい?いつから?)
(子供の時から。あたしは、アドリア、アメリカのバージニア州に住んでいたの。でも、テレパシーのことは、ずっと秘密にしてきたわ。誰も信じないし。でも、前に夢の中でー)
(セシルと会ったんだね。僕と一緒だ)
(彼女に導かれて、日本まで来たわ。でも、途中で、奴らに捕まって)
そこで、アドリアは、黙り込んだ。嫌な予感がして、佐久間は、背後を振り返った。
部屋の戸口のところに、ひとりの黒いコートの男が立っていた。彼は、瞳を光らせて、佐久間を睨みつけ、
「お前が、佐久間了か。これは、これは。俺たちが拉致せずとも、自らノコノコとやって来るとは。ちょうどいい。ここらで、片をつけてやる!」
男は、コートを脱いだ。とたんに、彼の肉体が、メキメキと盛り上がり、全身に剛毛が生え、頭に3本の角と、鋭い牙、長い腕にも鋭い爪が伸びた。闇魔アブズルである。
その時だった。佐久間の頭の中で声がした。アドリアだった。
(あたしも闘うわ。頑張って!)
そして、今や、ふたりの戦士と、闇魔アブズルとの過酷な闘いの火蓋が切って落とされようとしていた.................。




