意外な刺客
「ここの喫茶店、いい雰囲気ね。何だか、落ち着くって感じ」
美香が、正直な感想を述べた。向かいの席の、佐久間了は、ぼんやりと想いに耽っていた。とりとめもない平凡な想い。
「ねえ、聞いてんの?了ちゃん」
「う、うん?何だって?」
その時だった。喫茶店の扉が開いて、中年の禿げ頭の男がやって来ると、離れた席に座った。
「あれ、美術史の高垣先生よ。こんなところに来て、休憩かしら?」
美香が、声を落として言う。彼らは、東都大学の工学部の学生である。美香と佐久間は、もう一年前からの付き合いだ。
「あのう、失礼ですが?」
と、急に、二人に声をかける者がいた。彼らが振り返ると、そこに、背広を着た若い男がいた。彼が、名刺を出して言った。
「私、東都日報の桜田と申します。いやね、いま新聞の特集記事で、「現代の若者の私生活実態」というのを組んでましてね。ぜひ、あなた方のような人にインタビューしたくてー」
見ると、美香が、佐久間に目配せしている。それで、佐久間は、桜田に、
「あの、すみません。ちょっと失礼します」
美香が、グイグイと佐久間の袖を引き、喫茶店の隅に隠れるようにして、
「ねえ、了ちゃん、今の記者、何だか怪しくない?この前、了ちゃんの言ってた闇魔の手先じゃないの?だって、奴ら、人に化けるの、上手なんでしょ?」
「うん、そんな気もするけど」
美香が、二人分の代金をレジで払いながら、
「とにかく、この場は逃げましょ?あたし、嫌な予感がしてきた」
美香が、先に立って、佐久間を喫茶店から、上へと昇る階段を上がっていく。引きずられるようにして、佐久間もあとに続く。
やがて店のあるビルの屋上に出た。外は、強い風があって、寒い。佐久間が言った。
「おい、美香ちゃん、何でこんな所までー」
美香は、背中を向けたまま、振り向かない。やがて、彼女は、低い声で、
「まんまと騙されたわね、佐久間」
と、振り向いた美香の口には、青白い牙が生えていた。やがて、美香の全身が、赤黒い肌の怪物と化して、細長い触手を無数に伸ばしてきた。
「出たか!闇魔の化け物め!」
佐久間は叫ぶと、そのまま空中へと跳躍していく。サイコキネシスだ。そして彼は、意識を闇魔ネクロスへと集中させた。しかし、その触手が、伸びてくると、空中の佐久間に絡みついて、グイグイと全身を絞め上げてくる。身体がちぎれそうだ。やがて、佐久間の全身が発光すると、満身の力を込めて、触手を引きちぎった。一瞬、ネクロスの威力が弱まった。その隙をついて、佐久間は、意識を眉間に合わせて、理性力を最大限まで上げると、ネクロスの心臓部に向ける。ネクロスが弱っていく。奴は、最後の力を振り絞り、口から、黄色い毒液を吐きかけた。素早く、佐久間が、身をかわして、さらに理性力を上げると、ネクロスを攻撃する。やがて化け物は、物凄い音を立てて、その場に崩れ落ちた。佐久間の勝利であった。
ゆっくりと佐久間は、屋上に下降した。そこに、ズタズタになった美香の哀れな姿が残っていた。
「おい、美香ちゃん、大丈夫か!」
「り、了ちゃん、..............、あたし、..............、奴らに襲われて、............、こ、これ、彼女の、.............、居場所が、...........」
そこまで言うと、美香は、意識を失ったようだ。佐久間は、美香を抱え上げて、屋上を降りていく。しかし、まだ、闇魔との闘いは始まったばかりだ。そして、次に、彼に待ち構えている恐るべき罠とは....................。




