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027「行方-Whereabouts-」

 廻りながら浮かぶ20の生首を見ながら、手を叩いて嗤う骸骨とそれを眺める魔術師が一人いた。

 骸骨を襲撃した者達の中で、唯一生かされたその魔術師の名はアンネ。何故生かされているのか分からぬまま、彼女はその場に留まり続けている。

 勿論、彼女は何度も逃げようと試みた。だがその度に、嗤う骸骨が放つ謎の魔術によって手足を撃ち抜かれ、今では四肢の感覚は無くなり、逃げる事を諦めていた。

 既に生きる事さえ諦めたアンネは虚ろな眼で、少し前まで生きていた者達の生首を眺めていた。

(何で・・・私ばかり・・・)

 彼女の心の中は、自身の不幸を嘆き続けていた。


 アンネはかつて、魔術塔に所属していた魔術師の一人だった。だがある日突然、同僚の男二人と共に拘束され、秘密裁判にかけられることになった。

 突然の出来事に混乱するアンネは、その身に覚えのない罪に何度も身の潔白を訴えるも、裁判では彼女の証言は一切無視されただけでなく、異例の速さで判決が下った。

 彼女に言い渡された判決は三つ。

 一つ目は魔術塔からの除籍。彼女がこれまで成してきた全ての成果が、彼女のモノでは無くなるという事でもある。

 二つ目は、魔術師にとって死罪の次に重いとされる魔力封印。その名の通り、魔力が操れない様に魔具によって枷が科される。これは禁固刑の刑期などを終えたとしても、生涯外される事の無い刑となっている。

 最後の三つ目は、禁固五十年。当時二十五歳だった彼女が刑期を終える頃には、頂きが二回ほど世代交代しているかもしれない程の月日である。

 そして魔術師専用の監獄に移送される当日、彼女の元にはかつての上司であり、師でもある魔導師が彼女の元に訪れた。

 拘束から一月近くの間、一度も自分に会いに来なかった彼女が、何故今になって会いに来たのか。何故、裁判にも出席せず、擁護もしてくれなかったのか。

 彼女の中では様々な考えが一月の間に駆け巡り続け、出た結論は「見捨てられた」だった。

 既にその頃になると、未来に絶望していた彼女に師の言葉は届かず、只々虚ろな顔で焦点の合わない眼で宙を見詰めていた。

 その彼女の姿に、師である魔導師もその日は諦めるしかなく踵をかえすこtになった。しかしそれ以後、アンネとの面会は認められず、彼女が監獄から姿を消した事さえ、師は知らないままである。

 アンネを突然襲ったこの一連の事件は、彼女が知らず知らずのうちに、ある魔導師の背信行為に関わっていたことが原因だった。

 そして、彼女が本来受けるはずだった刑は「死罪」だった。

 だが、アンネの死罪が回避された理由は、師である魔導師を含め、複数人の者が様々な対価を払って、彼女に恩赦を与えるように嘆願した結果である。さらに、今も彼女の刑の減軽を複数の者が求め続けていた。

 もし、アンネがこの事を知っていれば、もしかしたら違った未来があったかもしれない。しかし、アンネに彼らの思いと行動が伝わることは一度も無かった。

 そして月日は経ち、絶望の獄中で暮らす彼女の元に、ある者が契約を持ち掛けに来た。

 魔術師の監獄は通常の監獄と違い、面会さえ難しいはずだが、その男は警備さえ引かせて彼女の前に立った。そして一枚の皮紙をアンネに渡した。

 それは魔術によって交わされ、契約者に縛られることを条件に、一定の自由を得ることが出来る契約だった。

 アンネは迷ったものの、それを選んだ。何故なら、魔力封印も解かれることが明記されていたため。

 だからこそ彼女は目を瞑った。それが違法なものであると分かっていたとしても。彼女は自由と魔術をもう一度得るために、自身の運命を大きく変える契約に手を染めるのだった。



 ケルトは自分が作り上げた芸術を前に愉悦に浸っていた。

 少し前、障壁で遊んでいた彼に対し、背後から襲って来た人の集団。彼らを返り討ちにしたケルトは、一人を残して全員の首を撥ねた。

 だって、面白い事を思い付いたんだもん。がケルトの言葉である。

 撥ねた首は一つ、一つ丁寧に空中に並べられ、ケルトの手によって廻転が加えられていく。

 時に廻転の同期がずれれば、置き直して再び廻す。そして、全ての生首が綺麗に同期し、空中で廻転し続けるオブジェが出来上がった訳である。

 ここに芸術家ケルトが爆誕した瞬間だった。

(ガハハハハハハハハハ。さすが俺様。覇道の合間のちょっとした寄り道で、世界を感動させてしまうとは。ガハハハハハハハハ。さて・・・)

 一通り、自身の芸術を堪能したケルトは、背後にいる女魔術師に振り返る。

 捕まえた当初は泣き喚いていた女は、今は虚ろな眼でケルトの芸術に心を奪われている。

(ふむ。人の中にも我が芸術を理解できる者がいるのだな。いや違うな。我が骨から溢れる芸術への情熱が、種族の垣根を超え、人にも感動を与えたのか・・・。我ながら、何とも末恐ろしい才能だ。ガハハハハハハハハ)

 本当の所は、態々彼女の目の前で、そこらに転がる身体から首を撥ねる所を見せたからだが、ケルトのずれた常識では分かるはずがなかった。

(さて、とりあえずここには今の所、要は無いな。行くとするか)

 城を今一度見上げ、ケルトは捕まえた女魔術師を担ぐと、薄くなり始めた霧の中を当ても無く進み始めるのだった。

 

 既に陽は昇り、夜には気付けなかった色付いた街並みを眺めつつ、少しずつ曲がっている通りを進んでいたケルトは、凡そ街の構造を把握した。

 彼の予想では、城を中心に蜘蛛の巣の様に街が広がり、横軸の通りはどれもズレなく直進が出来る様に造られている。つまり、このまま進めば街を一周できるということである。

 そして、縦軸の路地や通りは、所々で突き当りにぶつかり、中心の城に直進では辿り着けない作りになっていた。

(大通りと思しき通りはあれから一つだけ横切ったが、丁度城の真横に出た。つまり、城を中心に四方に同じ大通りがある可能性が高いな。それにしても、大通り間にある一つの区画が広い。陽が昇っている間に、街の全てを周ることは不可能だな。それに・・・)

 立ち止まり、考察に耽っていたケルトの前に、獣人の一団が立ち塞がる。さらに、ケルトの背後の路地からも、わらわらと別の獣人の一団が姿を現し、彼を挟み込んだ。

(う~ん、こいつを連れているからだろうが、さすがに面倒になって来たな)

 街の散策がなかなか進まなかった理由が、数百歩歩く毎に襲い掛かって来る魔物達に対処しているからだった。

 今、ケルトの肩には捕まえた人の女が担がれている。それを狙いに、集まった魔物はケルトにも攻撃の意思を見せ、襲い掛かって来る始末だった。

(おらっ、おらっ!見よ。これが婆さんとの戦いから学んだ俺なりの答え。不可視の魔弾に、半分だけ魔術を混ぜることで、威力そのままに半分の魔力で済むんじゃないかという発想で生まれた新たな魔弾。その名も!半不可視の魔弾!)

 嘘である。半日ほど前に復活したばかりのケルトは、城を見た時から街の散策に忙しく、そんなことは一度も考えてなどいなかった。

 だた、障壁での戦いで思い付いただけの魔術である。

 半不可視と名付けている通り、条件次第では不可視に近い透明度を誇るが、拳より小さい魔球が魔力の光りを帯びているため、不可視ではなくなっている。また、その威力も半分以下に落ちているため、完全な劣化版と言える魔法になってしまった。

 しかし、ケルトが想定していた以上に魔力消費は少なく、以前の1/3くらいまで節約には成功している。威力を抑えれば、さらに必要魔力は少なくなるため、雑魚狩りにもそれなりに使える万能な魔法とも言えた。

 次々と襲い掛かって来る獣人に対し、ケルトは前後に劣化版不可視の魔弾をその口の中に放り込み、迫る獣人達の頭を破壊していく。

 獣人が身に纏う厚く硬い毛皮は、そこらの下手な鎧よりも防具性能に優れる。その硬い鎧に撃つよりも、口の中に放り込み、喉や頭蓋を破壊した方が楽に倒せるのである。

(確かにこいつらは、個々の身体能力も知恵も高い。だが、獣の習性かそれとも本能か、噛みつこうとして、口を広げる癖があるんだよな。そこを狙えばいちころよ。ガハハハハハハハハ)

 魔弾を四方八方に撃ちながら、ケルトは前に進み、先に前方の獣人を一掃することを選んだ。

 だが、さすが獣人である。ゴブリンやゾンビと言った知能の低い魔物とは違い、彼らには攻撃の幅と戦術を駆使する知能がある。そして、それを可能とするだけの身体能力も持ち合わせている。

 実際、劣化版不可視の魔弾を掻い潜り、ケルトの傍まで辿り着く個体もいた。

(う~ん、ここは広すぎるな。ちょっと危ないか・・・)

 ケルトは迫る獣人達の攻撃を躱し、空いている片腕でいなしながら、今の状況を冷静に分析していた。

 地下迷宮ならば、天井があることで頭上からの攻撃を心配する必要はない。通路の幅も、馬車一台と半分に届かない程しかなかった。

 しかし、今ケルトがいる街の通りは、馬車二台がすれ違えるほど余裕があり、頭上に遮る物は一切無い。左右の廃墟を使えば、安全な位置から投擲や魔法を放てる。そして、獣人の身体能力ならば、壁伝いに移動も出来るだろう。

 ケルトがほんの数秒考えている隙に、予想した通り、四体の獣人が左右の廃墟を駆け上がり、ケルトの頭上に向かって飛び掛かって来た。それと同時に左右前後からも獣人が迫って来る。

(ガハハハ。地下迷宮にいた獣人よりも余程強いぞ!戦う場所が違うだけで、こうも変わるのかっ。面白いっ!面白いぞっ!ガハハハハハハハハハ)

 ケルトは他は無視して、右から迫る獣人の一体の懐に入り込み、その腹に魔力を纏わせた貫手を突き刺し、その背骨を掴む。

 そのまま獣人を廃墟の壁まで押し込むと、振り向き様に背後から迫っていた獣人達に向かって、痛みで暴れ続ける獣人を放り投げ、その動きを一瞬奪った。

 そして、壁を背にしたケルトは残る方向から迫る獣人達に向けて、不可視の魔弾を放つ。通常の不可視の魔弾なら、その固い皮膚を貫通し致命傷を与えることが出来ることは、地下迷宮の獣人で既に検証済み。

 ケルトに迫っていた前列の獣人達の胸部には拳ほどの孔が次々と穿たれ、さらにその後ろにいた獣人にも致命傷を与えた。

 バタバタと倒れる獣人を前に、ケルトは少し驚いていた。

(あれっ?背中まで貫通したぞ。どういう事だ?地下迷宮にいた獣人も確かに皮膚は貫通したが、背骨辺りで止まってたはずだが・・・。まぁ、いっかっ。ガハハハハハハハハ)

 嗤うスケルトンから放たれた謎の攻撃に、獣人達は足を止めて防御を意識した動きに変わる。これもゴブリンやゾンビ達とは違う行動だった。

 知能の低い魔物は前にいる魔物が倒れようと、標的に向かって馬鹿正直に突撃し続ける。その行動も間違ってはいないのだが、何も考えていないので足並みも揃わず、各個撃破されて終わることがよくある。

 ケルトも魔物に生まれ変わった当初は、自我が薄く、本能のみで人に突撃をしていたからよく知っていた。

 だが、獣人は違う。知能が高い事で未知の攻撃に恐怖し、考える事を覚えてしまった。つまり、時に必要な馬鹿正直な突撃をあまりして来ない。

(知能を持つとは、時に足枷になるか・・・。これも学びだな。ガハハハハハハハハ)

 勢いを失った獣人達は、ケルトの不可視と半不可視の魔弾を織り交ぜた攻撃に翻弄され、徐々に数を減らしていく。

 背後からの奇襲も、ケルトが高い家屋の壁を背にしている事で廻り込む事は出来ず、廃墟の壁を駆け上がる獣人は、ケルトが最優先で撃ち落とすため、空からの奇襲も成功しなかった。

 それでも身体能力は高いのが獣人である。仲間の死骸を盾にしたり、それをケルトに投げてくるなどして、魔弾への対処と同時に妨害も行って来るあたり、油断出来ない魔物だった。

(ふい~。抱えたままの戦いは前回で慣れてるが、あっちと違ってここは広過ぎるな。さすがに一度に迫って来る数が多すぎる。だが、俺の勝ちぃ~。ガハハハハハハハハ)

 何度か接近を許し、危険な状況になりながらも、ケルトは魔力を惜しまず使ったことで、この場を何とか切り抜けることが出来た。

 数十体の獣人の屍の中、ケルトの嗤い声が通りを駆け抜けるのだった。



 通りの響き渡る嗤い声を上げる骸骨を、比較的無事な廃墟の屋上から覗く者がいた。望遠鏡を使ってケルトを観察していたのは、ウガラ隊隊長ゴードン。彼はその姿を確認すると、下にいるアガラ隊とイガラ隊に手信号で合図を送る。

 それを受けたディゼルとロイドは、それぞれの隊を次の小区画に進めつつ、次の偵察ポイントにロイドが昇り始める。

 彼らはゼンの命を受け、武闘派のバルドとその部下達を連れて、嗤う骸骨の足取りを追っていた。

 そして、昼も正午が近づく中、その特徴的な嗤い声の主をようやく補足したのだった。

 アガラ隊に追いついたゴードンは、ディゼルに並んで覗き見た情報の共有を行う。

「軽装備のおそらく女を一人、肩に担いでいた。それと獣人の群れ二つ、40体前後を全滅させていた」

 報告を受けたディゼルはしばし考えつつ、ロイドからの報告も待つことにした。

「厄介なスケルトンだな。本当に」

「そうだな。本当に復活するとはな」

 二人がぼやきながら、次の合図を待っていると、建物の屋上にいるロイドから進めの手信号が送られてきた。

「行くぞ」

 戦闘音で気付かれないように、十分な距離を取っての追跡が始まった。

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