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12「城下町-Castle Town-」

 異常成長を遂げたシズ迷宮は、上層と下層に分かれている。

 上層となる城下町エリア。そして下層の地下迷宮エリア。下層へは四つある街の大通り、その中央に流れる水路から入れる。

 高い城壁に囲まれた広大な城下町は、城を中心に東西南北に伸びる大通りによって、四つの区画に分かれている。

 街並みが大きく変わることはないが。夜の華が躍っていたと思われる通りや鍛冶屋などの産業通りなど、瓦礫となっている家屋から通り毎の特色が推測されている。

 その家屋も王都にある街並みと比べても、高い建物が多く建築技術の高さも感じられた。瓦礫の廃墟でなければ、華の都として国の象徴となれるほど壮言な街であったことは間違いない。

 そんな城下町には異物となる存在、魔物がそこら中を闊歩している。

 以前よりも全体的にレベルが一段上がっている魔物達。特に新たに確認された魔物達の中には、知能が高く、身体能力も高い獣人系や魔法耐性が高く、その身体の素材によっては物理攻撃にも強い魔法人形(ゴーレム)が他の魔物よりもさらに一段階、上の存在として街を闊歩していた。

 そして何よりも、それらの危険な魔物が城下町の全エリアで確認されていることで、上層と言えど決して油断できないエリアとなっていた。

 つまり迷宮に入った途端、獣人や魔法人形と交戦する可能性があるということ。これは同時に、迷宮外に強い魔物が這い出る可能性が高い事でもある。


 この問題は新人や低級ハンターが多いシズの組合と、見習い魔術師にとっては大きな問題となっていた。

 元々、稼ぎの無い不人気な迷宮だったシズには、中級以上のPTは寄り付かなかった。そのため、シズ組合に所属するハンターの八割近くが兼業ハンター。要は体力と力のある地域住民が社会奉仕のために協力していたのである。

 これは何もシズだけで起きている事ではない。シズ以外にも稼ぎの無い迷宮は存在し、出現する魔物が弱い場合。兼業ハンターが迷宮内の魔物を間引いているところは昔からある。

 だが、シズはその中でも特に稼ぎが少なく、出現する魔物も弱かったので、ハンターの実力と等級は全体的にかなり低い。

 過去の記録から、魔物の氾濫回数も少なく、その規模も小さいかったため、駐留する街軍も必要最低限に留められていた。今は以前の三倍に増員されている。

 この影響は迷宮の成長当初から出始めており、半年もしない間に100人近いハンターや街軍の兵士が、入り口からほど近い場所で獣人と魔法人形の犠牲となっている。その多くがハンターや兵士になって一年未満の者か、低級の兼業ハンター達である。

 この問題を解決するため、組合は引退した4級以上のハンター5人を、戦闘指導教官として新たに雇入れた。今迄は、兼業ハンターでも十分対応できていたことで、引退した7級ハンターがボランティアで務めてくれていた。

 だがこれからは、この5人の教官が戦闘訓練を毎日開く体制を整えた。

 そしてハンター歴が一年未満の者と八級以下のハンターには、週に三日以上は必ず訓練を一年間は受けるように通達し、これから入って来る新人には義務化することにした。

 まだ始めて三ヵ月の為、効果は目に見えて表れてはいないが、徐々に死亡件数は減っていくことを期待されている。


 こうして長閑な田舎迷宮街だったシズは、慌ただしく本来の迷宮街にその姿を変えつつあった。



 カイルやレックス達若手の魔術師とハンター達がバルドとエリーの下で働き始めて半月が経過した。

 この半月はレックス達若手PTの実力把握と、バルド達との連携を習熟するために使われ、迷宮調査よりも魔物討伐に重きを置いたものになっていた。

 この期間でレックス達は、バルド達の戦闘力の高さに驚かされるばかりだった。魔術師なのにその手には剣や槍、戦斧を持って、魔物と接近戦を行い屠る。ディゼル達がいなくとも、この程度の迷宮なら問題無く彼らだけで攻略できるだろう。

 何せ、彼らが戦闘で魔術を使う姿を、レックス達は三回しか見ていないのだから。


「獣人と言えど、まだレベルは低いな。ゴーレムも小型しかいない。これも興味深いと言えば、興味深い」

「そうだね。本来ならもっと強い個体が出てもおかしくない。やはり異常成長が関係してるのかな?」

 軽く獣人とゴーレムの小集団の一部を殲滅したバルドとエリーは、迷宮の規模の割に弱すぎる魔物しかいない事に疑問を口にし、その考察を始めていた。彼らの周りでは、今だに戦闘が続いているがさして気にする様子も無く、二人は議論を続ける。

「それはあるかもしれない。そもそも、26階層未満は小迷宮に分類されるが、中には此処より強いレベルの魔物が出る所もある。ヒューゼの仮説では、迷宮内で死んだ者が多い程、迷宮の魔物は強くなるとあるが、あれはあながち間違いではないのかもしれないな」

「そういえば、シズの死亡件数はかなり少ないよね。それこそ、年に数人しか死亡してない。だけど一年くらい前からその数が少しずつ上がってたはずだよ。中には10人以上が帰って来なかった日もあったはず」

 バルドはまだすべての資料に目を通してはいない。レックス達との連携習熟を優先させているからだが、エリーは今回で三度目。それも一日で切り上げるため、シズの過去の資料をバルドよりも目を通していた。

「ふむ。帰ったら一年前。いえ、過去五年程の記録を確認するか。もしかしたら、迷宮の成長に関して、何か関係があるかもしれん。このちぐはぐ具合はやはり異常だ。例の嗤う骸骨。確か噂に上がり始めたのが一年くらい前から。関係を調べる必要があるな」

「そうだね。軽く調べたけど、あの個体だけレベルが高いのは確かだった。でも、レベルが上がったスケルトンの資料が少ないから、比べるのが難しいんだよね。実際に対峙してみないとはっきりとは分からないかな。だけど、成長前のシズにいた魔物と比べると確かに異常個体だね」

 エリーは今のシズ迷宮に出る魔物の調査を優先させてはいるが、合間に嗤う骸骨の骨についても調べている。

 その彼女の見解は、第三段階の迷宮の深層にいてもおかしくないだった。特に特出すべきは魔法耐性の高さ。今のシズ迷宮に出てくるゴーレムよりも明らかに高い。フェルナから聞かされた融合魔法を耐えきったというのは、全くの出鱈目ではなく本当の事だろうとエリーは確信した。

 何故なら、魔導師四人で放った融合魔法に、ほんの僅かだか欠片が溶けずに残ったからだ。威力は抑えたとはいえ、ジョージ以外は魔境の魔物を屠って来た実績ある魔術師である。この結果はエリーとその弟子達を昇天させるに足るものだった。

「会ってみたかったなぁ、その嗤う骸骨に」

 周りが静かになり、エリーが呟いたその一言は皆の耳にも残る。そして何故か、カイルやレックス達は嫌な予感を覚えるのだった。


「さて、今日はこれで撤収しましょう。ゴーレムもかなり狩れましたね。これが狩れるようになれば、だいぶハンター達にとっては良い収入になるでしょう」

 バルドは荷台に積み上がった魔物の死骸や素材を見ながら、この日の探索の終了を告げた。

 その荷台を曳いているのは、エリーがほぼ専属として雇っている「運び屋(ポーター)」PT「肉体美(マッスル)

 通常なら6人以上必要そうなその荷車を、肉体美は4人で曳き、バルド達の歩く速度に遅れない様について来る。

 彼ら運び屋は迷宮組合とは別の組織「運び屋協会」に属し、組合から迷宮入場許可証を発行されている専門職である。基本は自衛に徹して、荷車や大型背嚢に採取物や魔物素材などを積んで運搬する役目と、深層に潜るハンターPTに同行して彼らの食料など物資の運搬を担い、それを生業とする者達である。

「だねぇ~。私はあまり必要はないから、余った分は組合に卸してみんなで山分けして」

 エリーが参加する回は、必ず肉体美も参加する。そして荷台がまんぱんになると撤収するので、日によっては夕刻に差し掛かる頃には撤収が始まる。何より嬉しいことは、普段よりも魔物の素材を多く持ち帰れることである。


 今のシズ迷宮には「彷徨う鎧(リビングアーマー)」や「魔力珠(マジックオーブ)」などの金になるアンデッドが多数出現する様になっていた。

 リビングアーマーは当たり外れはあるが、憑依しているアンデッドを倒すと身に着けている装備がそのまま残る。動きもスケルトンよりは早いが、倒し方を知っていれば得に苦戦することなく倒せる魔物である。

 マジックオーブも下級ハンターや魔術師にとって有益な魔物。魂の欠片を残しやすく、魔力が結晶化した珠を落とす。だが、低級魔法を使ってくる魔物のため、注意が必要ではある。そしてもう一つ気を付けないといけない事は、魔法を数回放つと自然消滅し、何も落とさない点である。そのため、素早く倒す必要がある。

 そして一番の稼ぎ頭がゴーレムである。身体の素材によって強さが大きく変わり、魔法も使う。そして魔法耐性が高いため、魔術師泣かせと知られる危険な魔物。だが、残す素材単価は一番高い。シズに出てくるゴーレムは石素材の為、身体に価値はないが、核は魔術触媒を中心に多様な素材として重宝されているため、これだけは必ず採取して持ち帰ることが、組合と魔術塔の両方から通達が出されている。

 このため運び屋の需要は右肩上がりなのだが、いかんせん元からシズには運び屋が居なかった。大抵は迷宮組合とは別に、運び屋協会の支部もあるのだが、ここシズには小さな窓口が組合内にあるだけ、職員も組合が委託を受けて兼任していたほどだ。

 当初は下級ハンターが、運び屋の役目を引き受けていた。今も数が足りていないため、協会も急いで集めているが間に合っていないのが現状だ。

 支部の建物さえ間に合っていないので、迷宮傍にある街軍施設から使用していない小さな倉庫を仮支部にしているくらいである。

 そのため、運び屋を臨時でしていた下級ハンターの中には、協会に移籍している者もいる。


「この中のどれだけ残るかな?」

 リリィは積み上がったお金(魔物の死骸や素材)を見上げながら呟いた。

「結構残ると思うよ。今回は魔石の大きさが、小指の先くらいはあったからね」

「やったぁ~」

 リリィの呟きを拾った肉体美の団員が笑顔で答えると、リリィは少し飛び跳ねて喜んだ。リリィだけでなく、若手PTは皆口元が緩んでいる。

 迷宮が生み出す魔物は偽物が多い。本物の魔物と違い、迷宮の何かが生み出していると考えられており、世界に定着するまでに一定の時間を要する。

 定着が不十分なものを迷宮から運び出すと、定着度合いによって元の大きさから小さくなるのだ。中には迷宮から出た途端に自然消滅するものまである。

 この定着の度合いを測る術はただ一つ、魔物なら必ず体内にある魔石。この大きさによって判別する方法のみとなっている。凡そ、小指の先ほどの大きさがあれば、ほぼ定着していると見ていい。

 この魔石は魔物が死ぬとただの石になるため、残念ながら価値は無い。価値が付くとすれば、この魔石が魂の欠片に変化した場合のみとなっている。



 組合酒場の一角。三人の若手PTの団長が集まり、早めに終わった探索の疲れを命の水(エール)で癒していた。

「今日は欠片もかなり手に入れたから、かなり良い探索だったな」

「そうだね。臨時収入もかなりあったよぉ~。でも、まだ始まって半月だけど。み~んな、身体が悲鳴を上げてるよ」

「俺も休みの日は、家から一歩も出ない日があるからなぁ。兼業してる仕事も休業させてもらったし、相当覚悟決めとかないと置いてかれるな」

 レックスとリリィは街の外から来たハンターだが、ジャナル達「紅蓮」はシズ出身者で結成されたPTである。ジャナルを含め、全員が何かしらの仕事をしながら、迷宮に潜っている兼業ハンターである。

「私達もだよ~。シズの人達皆優しいよね。事情を話したら、快く送り出してくれたよ」

「僕達もだよ。ジャナル達が紹介してくれた仕事先の人達は、皆応援してくれてるし、中には月初めに止めたのに満額出してくれたところもあったよ。ジャナル。本当にありがとう」

 レックス達もゼンから教えを受け始めてからは、何かしら副業をしなければ食べていけないかった。そんな時に助けたのがジャナル達である。彼らは自分達の伝手や仕事先を、レックス達に斡旋した。そこから仲良くなり、一緒にゼンからも教えを受けるようになった兄弟弟子である。

「気にするなよ。それより、明日からも頑張ろうぜ。師匠以外の上級ハンターと、魔導師から学べる機会なんて滅多にないぜ(シズ初の一級PTに皆で上り詰めるんだ!)」

「そうだね。愚痴を吐いてる場合じゃないね(一番非力な私でもゴーレムを倒せたんだ。もっと学んで、強くなるんだリリィ。そして)」

「この機会を絶対にものにしよう。皆で(次は必ず一撃で砕くんだっ!いるなら出て来い、嗤う骸骨)」

 三人の若者は、三者三様の思いを胸に、命の水を飲み干すのだった。

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