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010「顔合わせ-Meeting-」

 その日、迷宮組合の大多目的室には、現在シズ迷宮街にいる三組の専任ハンターPTに加え、元々シズにいた若手PTの疾風、紅蓮、陽炎が集まっていた。彼らは若手PTはゼンの計らいで、それぞれ専任ハンターのPTに同行して迷宮探査に付いている。要は専任ハンター達に、若手を育てろとゼンが職権を乱用して押し付けたのである。

 この時、拒否する事も出来たはずの専任ハンターの隊長達だが、ゼンが髪を失くし、今だに怒り狂っていた時期に配属されたため、一応抗議はしたものの話合い(なぐりあい)の結果、三人は渋々了承した。ちなみに、後に配属されてきたレイラによって、正式に合同PTとして書面上でも記載されることになる。この時は誰も反論しなかった。何故なら、全員鼻の下を伸ばしていたから。実年齢を知れば、どうなっていたか・・・。

 だが、何故彼らが合同PTを渋ったのか、それはシズが辺境の人気の無い小規模迷宮だったことが理由である。以前にもフェルナが指摘していたが、こういった迷宮のハンターは、兼業の地元民が大半を占める。そのため、等級が実力に見合っていない場合が多いのだ。

 しかし、この三組の若手PTは基礎をゼンによって固められており、特にレックスを始めとした各PTの上位陣は、等級通りの実力を持っていた。とりあえず様子見で同行を許して数か月、何時の間にか常態化していた訳である。


 彼ら専任PT にも二つある。一つは組合本部が抱える正規員。そして、各迷宮街の組合が認定したその迷宮限定の現地採用の専任PTである。違いは単に国から給与が出るか、迷宮街の支部から手当が出るかの違いでしかないが、シズにはこの専任PTは今までいなかった。

 さらに彼ら正規員は、正規組織に属する公務員のような立場である。通常は自分達で勝手にPT名を決めれるが、彼らには識別目的のPT名が付いている。今回シズに配属されて来たPTは「第三探索課対魔物係一班アガラ隊・二班イガラ隊、三班ウガラ隊」の3組。

 一班あたりの班員は15人。隊長(3級)1人、副隊長(3級)2人、戦闘員12人(4級4人、5級8人)構成されており、正規員は4級以上のハンター。5級以下のハンターは準正規員となっている。

 しかし、全員が神樹の実を最低3個は食している。所属する5級ハンターも勿論食しており、等級以上の実力を彼らは持っている。

 一般的なハンターのPTも、この専任ハンターの隊員構成を参考に10人前後でPTを組んでいる者達が多い。小規模でも最低5人PTを組合は推奨している。

 そして迷宮の深部に潜る場合は、同級のPT2~3組が集まり、魔術師を加えた合同PTで挑むのが一般的となっていた。

 この若手PTも10人前後の二十代の若者で構成された一般的なPTとなっている。


「おい、聞いたか?」

 アガラ隊隊長ディゼルはここに来る前に、組合本部から派遣されて来た職員二人が不穏な話をしている所に遭遇していた。

 それは、大魔女フェルナの弟子の中で最も変人と言われている二人の魔導師が、このシズの魔術塔に入っていく姿を見たというもの。

「まじかぁー。おかしいと思ったんだよ。急に潜るの止めてここに来いって言われたからよぉ」

「・・・むぅ」

 それに応えるのは、二十代で3級まで上り詰めたお喋りで活発な性格をしているイガラ隊隊長のロイド。そして、四十代に入ったばかりのウガラ隊隊長のゴードン。ロイドとは反対に、寡黙で冷静な性格をしている。だが、そのゴードンでさえ眉間に皺を寄せ、何処か嫌そうな雰囲気を出していた。

「あの、その魔導師が何かあるんですか?」

 三人の隊長だけでなく、集まった専任PT全員が諦めに似た顔になっていた。それを不思議に思った疾風のレックスは、同行しているアガラの隊長であるディゼルに問い掛けた。

「・・・まぁ、すぐに分かると思うが、先に話しておいた方がいいか」

「それが良いと思うぜ。あとから地獄見るよかいいだろ」

「うむ、ロイドに同じ」

 何やら物々しい雰囲気になりつつある場に、集まった疾風と紅蓮、そして嗤う骸骨事件時は休暇でシズから離れていた陽炎全員が身構えた。

「はははは、そう身構えるな。取って食われるようなことはない。ただ、かなり趣味に走る人達でな。おそらく、これからしばらくはその二人に俺達全員が振り回される。だから、事前に二人について知っておいた方が良いってだけだ」

 レックスと紅蓮の団長ジャナル、そして陽炎の団長リリィの三人は顔を見合わせ、そしてディゼルに向き直った。

「分かりました。教えて下さい」

「先に話しておくと、魔術師としては二人共一流だ。そこは心配するな。まずは―――」

 ディゼルが主に若手PTの三組に説明を始め、所々でロイドやゴードン、副隊長のハンター達が愚痴交じりに補足を加えていく。それは途中から二人の魔導師から受けた無茶ぶり体験の話に変わり、専任ハンター全員が何時の間にか話に加わっていた。そして、それを聞くレックス達はドン引きするのであった。


「ディゼル、ロイド、それにゴードンも珍しく饒舌だねぇ。これなら迷宮内を一日中駆け回っても全く問題なさそうだねぇ。ふふふ」

 突如声を掛けられ、全員が部屋の扉に目を向ける。そこには少しだけ開いた扉の隙間から顔を半分だけ出し、部屋の中を覗くエリーがいた。

ーガタッガタタッー

 目が合ったディゼル達三人はすぐに立ち上がり、どうにか繕おうと必死に弁明を始めようとしたが、その後ろからもう一人の変人バルドが扉を開けて姿を見せた。

「やぁ。三人とも久しいね。それにしても随分な言いようじゃないか。これでも、無理はさせない様に配慮しているつもりなんだが。その様子だと、少し甘やかしすぎたかな?」

 三人の隊長は肩を落とし、椅子に座るのだった。

「・・・終わった」

 ゴードンの呟きは、ハンター全員の耳に残るのだった。


「やぁ、君達がディゼル達が預かっているという若手PTだね。師からは、シズの若手の中では優秀で真面目な将来有望なハンターだと聞いているよ。既に知っているかもしれないが、自己紹介をしよう。私は第五階位魔導師バルド。師の求めに応じてシズ魔術塔に転籍した。主に迷宮構造に関する研究の傍ら、宝物の蒐集を趣味にしている。よろしく頼むよ」

 掛けている眼鏡を指で押し上げながら自己紹介をした男魔導師バルド。先程聞いた通り、魔術師というにはがっちりとした体格に、服の上からでも分かるほどよく盛り上がった筋肉。前衛職もこなせる武闘派魔術師である。

 そして、その隣に並ぶ女魔導師は、バルドとは違い標準的な魔術師の装いだが、治癒士や医者が身に着ける白衣を着ているが、その所々に黒い染みが見え隠れしていた。彼女が別名「魔物博士」と呼ばれている狂信的な解剖学者。

「私もバルドと同じ第五階位魔導師のエリーだ。普段は塔内で魔物の生態やその身体の構造について研究している。よろしく」

 二人の自己紹介に固まる若手と、天を見上げる専任PT。両者は全く違う反応を示しながら、顔合わせが始まった。


「さて、先程レイラ嬢からも正式に許可を貰った。任務外では、私とエリ―に協力して貰う。事前に日程などは何時も通り配布するので安心してくれ。基本は普段の迷宮探査と変わらないが、一階層から順に区画整理をしながら、その区画をくまなく調査する事になるだろう。それと」

 バルドがエリーに目配せすると、彼に続くように話し始めた。

「私が同行する際は、魔物の遺体を運んでもらう場合もある。その際は別途にこちらで運搬要員を手配するので安心して欲しい。生憎、今日は早速迷宮に潜っているので紹介は出来ないが、私が懇意にしているハンターPTだ。それと、私はバルドが潜る日程に合わせるので、急な同行をお願いすることは無い」

 二人は矢継ぎ早に要件を皆に告げ、理解したか確認する様に見回した。

「さて、今の所大きな問題は起こってはいないと聞いたが、構造変化までの期間がだいぶ長くなっている。以前は一か月半から二ヵ月だったものが、今も変化が起きる気配がない。そのため、何時でも退去が出来るように、城下町エリアに限定して調査を進めるつもりだ。異論は?」

 バルドはこの中で先任隊長となっているディゼルに視線を合わせた。

「いつも通りだな。異論はない。上が許可したのなら、俺達はそれに従うだけだからな。ただ、こいつらも同行するがいいんだな?」

 ディゼルは向かいに座っているレックス達に顎で確認する。

「あぁ、問題無い。それに付いてもレイラ嬢から許可を貰っている。君達は臨時でシズ組合支部の先任PTが与えられるはずだ。ディゼル達に比べれば安いが、私達に同行する際は手当が出る。あと塔からも少しばかりだが、報酬を出す許可を貰っているから受け取って欲しい。ジョージから君達の実力は聞いている。大いに頼りにさせてもらうよ」

 若手PT達は全員が顔を見合わせながら、少し嬉しそうに声を上げた。基本的にハンターの収入は討伐による報償金と依頼があれば、魔物や迷宮内の生殖している動植物の採取などが一般的。その他、組合から危険手当が一月毎に貰える。しかし、これまでシズには金になる魔物も植生も無かったため、彼らは兼業ハンターにならざる負えなかったのだ。それが、毎日ではなくとも別途で手当が付き、魔術塔からも報酬が出るなら収入はぐっと安定する。はしゃぐのも仕方ない事だった。

 だが、それを見ていたディゼル達の目には憐みの色が見え隠れしていた。

(可哀そうに・・・。それ以上に扱き使われることになるとも知らずに・・・)

 ディゼル達ははしゃぐ若者達を見て、一月もしない内にその眼から光が失われるのが、容易く想像できてしまっていた。

「続けていいかな?」

 バルドの一言で、はしゃいでいた若手たちは恥ずかしそうに姿勢を正し、再び聞く姿勢になった。

 少し微笑ましい光景に、二人の魔導師は優しく微笑みを向けるが、その裏では。

(良い労働力を手に入れましたね)

(若くて体力も有り余ってる。しっかり働いてもらおう。ふふふふふふ)

 とんでもない裏の顔を覗かせていたのだった。


「そういえば、そこの若い二人も同行するのかな?確かカイルとエバだったよね」

 ロイドはここまで一言も発することなく、バルド達と一緒に入って来たカイルとエバに目を向けながら訪ねた。二人はたまに彼らと同行して、探索を共にしていた。ロイドは一度切りしか共にしていないが、他の専任PTの評価は一律高い。

「えぇ、その通りです。二人は私が潜る際は必ず同行します。既に何回か二人を連れて潜っていると聞いています。問題無いと思いますが、何か気になる点があれば伺いましょう」

「あぁ、いや。ただの確認だ。俺の隊は一回しか一緒に潜ってないんだ。まだ二人の実力をはっきりとは把握してないってだけさ。ディゼルやゴードンからは、才能は間違いなくあるって聞いてるから、反対するつもりはない」

 ロイドは直ぐに不安に思っているのではないかという疑惑を否定した。同僚たちからの話から、少なくとも男の方の実力は等級詐欺だと聞いていた。

「では、ここからは改めて今回の異常な迷宮変動の調査について、進め方を説明します。と言っても、この様な事例は一度も報告されていません。年単位での調査になると思うので、よろしくお願いします」

 バルドの発言に、大きな溜息が自然と出るディゼル達。その反対に報酬に眼を釣られ、瞳を輝かせる若手。机を挟んで二局相反の反応に、二人の狂人は薄ら嗤うのだった。


 そして一月後、ディゼル達が予想した通り、レックス達若手の瞳からは光りが失われ、現実から逃げるかのように遠い眼をしていた。



(ちっ、ここに閉じ込められてどのくらい経った?そもそも、迷宮内だと時間の概念がな。それに俺眠くならないし。だが、その分魔術に関する研鑽は積めたな。しっかし、そろそろ見つけてくんねぇかな?)

 宝箱の上に座り、一人で愚痴るケルト。カタカタとなる音に答える者はおらず、只々部屋に木霊するだけだった。

(しっかし、この部屋の壁や扉はどうなってんだ?大魔法をぶち当てても傷一つ付きやしねぇ。この宝物部屋だけ迷宮じゃないみたいだ)

 この部屋の唯一の出入り口。綺麗なままの扉を睨みつけながら、ケルトは深い思考の海に潜る。この部屋は一体何なのか?新たに思い出した記憶や知識と、これまでに思い出していた分を含め。既に千回以上に及ぶ思考回数を重ねながら、再び考察を重ね合わせるのだった。

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