第1章 第1話『キャンプ、そして別れの空』
はじめまして、ゆうきと申します。
本作『転生スローライフ三重奏!』は、現代の女子高生3人組が「命の境界線」を越え、
異世界で“ほんのり幸せな第二の人生”を歩むまでを描いた、転生スローライフ×友情成長ファンタジーです。
第1話では、まだ異世界ではなく「現代」が舞台。
ですが、この“前日譚”こそが後の物語に深く響いてまいります。
「今を大切にすること」「何気ない日々の愛しさ」
それらが失われる瞬間に、何が残るのか。
少しだけ切なく、でも必ず温かい物語をお届けできたら嬉しいです。
それでは、どうぞ本編をお楽しみくださいませ──!
「うわあっ、ちょっ……朱音、そこ火強すぎっ! 焼き魚が炭化してる!」
「はっ!? うわっマジかーっ!! せっかく釣ったヤツがあああああ!」
「……焦げの炭素構造って、割と人体にも影響あるから、食べ過ぎ注意だよ。うん」
夕暮れの空の下、森の奥に設営されたテントサイトには、今日もにぎやかな女子高生たちの声が響いていた。
湖のそばに広がるこのキャンプ地は、知る人ぞ知る穴場。
観光客も少なく、静かで自然がいっぱい。木々のざわめきと虫の声が、まるで世界を包み込む子守唄のように耳に届く。
「……ふふっ。あたしさ、こういうの、ずっとやりたかったんだよね」
朱音が、夕日に照らされた笑顔を見せながら、炭化しかけた魚を見つめて呟いた。
「何が?」
「なんつーかさ……将来のこととか、進路とか、部活のこととか。いろいろギスギスしてたじゃん。だからさ、こうやってバカやって、焚き火囲んで、好きなだけ笑える時間が……すげー貴重だなって」
その言葉に、凛が火の揺らめきを見つめながら、小さく微笑んだ。
「わたしも……うん。ここでの時間が、本みたいに、終わらなきゃいいのにって……思ってた」
「終わらない物語は、たぶんないけどさ」
澪が手にしたコップに口をつけながら、さらりとそう呟く。
「でも、だからこそ記憶に残るんだよ。有限だからこそ、価値があるの。……まあ、だからって、魚を炭にしていいとは言わないけど」
「うぐっ! 痛烈なツッコミ!!」
3人の笑い声が森に溶けていく。
こんな時間が、いつまでも続くと思っていた。
――けれど、その夜、すべては終わった。
***
「……え? なに、地響き?」
「え、ちょ、なにこれ、水の音……?」
「朱音っ! 見て! 湖が……!」
夜更け。テントの外で鳴り響いたのは、どこか異様な音だった。
まるで世界そのものが軋んでいるような、音というより「感覚」。
湖が突然、不自然な渦を巻き始めたかと思えば、水面が膨張し、空に向かって盛り上がっていく。
「うわっ、危ないっ――!」
朱音が凛を庇いながら跳ねた瞬間、凄まじい水柱が弾けた。
見えない何かに引き込まれるように、3人の身体がふわりと浮かぶ。
水の中でもない、空でもない。重力も空気も消えたような“無”の空間。
凛の指先が、朱音の手をぎゅっと握る。
澪が眉をひそめ、震える声を絞り出した。
「――これ、夢じゃ……ない」
そして。
目の前に、光の柱が現れた。
「ふわぁぁ……よかったぁ〜、間に合いましたわぁ〜」
ゆらり、と宙に浮かぶ光の中から現れたのは、銀髪の少女。
宝石のように輝く瞳、ふんわりとしたドレス、おっとりとした微笑み。
まるで、おとぎ話の中の貴族令嬢のようなその人は、黒い空間の中でひときわ鮮やかだった。
「あなた方、お名前は〜……えっと、朱音さん、凛さん、澪さん、で、合ってますよね〜?」
「……え?」
3人が声を失う中、少女は小さくお辞儀をして言った。
「はじめまして〜。わたくし、管理神リュミエール=ファル=セレスティアと申します〜。
この度はですね〜、異世界転生キャンペーンにご当選、おめでとうございます〜!」
「…………へ?」
「え、なにそれ」
「お迎えって……えっ……死んだの、うちら?」
声にならない問いが、黒い空間に溶けていく。
その中で、女神は間延びした口調のまま、ふんわりと微笑んだ。
「はい〜、あなた方はもう、元の世界には戻れませんの。
でもですね〜、安心してくださいませ〜。これからはもっと楽しい、癒しと希望とスローライフの世界が、あなた方を待っていますわぁ〜♪」
――こうして、3人の少女の「物語」は幕を開けた。
それは、終わりと始まりが交差する、別れの夜空の下から。
──第1話 終──
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。
「えっ、もう死んだの!?」と思われた方、正解です(真顔)
現代パートをしっかり描いたことで、彼女たちの“今”が愛おしく、
だからこそ失われた瞬間に、心が揺れたのではないでしょうか。
ですが、ここからが本番です。
まったりスローライフの異世界が、彼女たちを待っています。
女神様とのゆるふわ邂逅、そして幻想的な湖畔の屋敷生活が、次話から幕を開けます。
少しでも心に残った方、ぜひ次回もお付き合いくださいませ
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