魔法少女はエッチじゃないです
学校、テーマ
俺は多分だけど、海月になりたいんだと思う。深海の底にポツンと浮かぶそんな存在に。きっと俺はそんな存在だと思う。だから俺はクラスの中でなるべく息を潜めて過ごしている。授業のチャイムが鳴り、昼食が始まる。鼻から息を吸い、このクラスの海の中に戻る。みんなは海の上で仲良く話していて俺は関係ない。そういう奴だから、きっとな。こっそり椅子を引いて、教室から出ようとする。ドスドスと音が聞こえる。気づかれないようにしてるはずなんだけどな。俺の席の前の人の椅子に彼女は座る。
「なに、また、こっそり出ていくつもり」
弁当箱を机に置く。少し不機嫌な様子で話しかけてくる。彼女は海月、俺の友達、、、多分だけど。
そうだよね、一緒に食べてくれるだけで友達だよね。
「いや、そんな滅相もございませんよ」
ハハハと渇いた笑いをする。彼女は少しムスッとした顔をした。あれ、なんか間違えたかな。
「私と君はそんな関係じゃないじゃん」
「そうでございましょうかね」
彼女は弁当を広げて卵焼きを箸で手に取る。
「では私たちの関係がみんなにわかるようにしようか」
卵焼きを俺の方に向ける。教室がザワっとしてる。
女子は驚きの目を向けるし、男子には憎しみの目をこちらに向けてくる。
「そうだね、俺たちはそんな関係だったね。ごめん、俺が悪かった」
自分でも信じられないくらい早口なのが分かる。
教室はほっとしているような空気が流れる。
彼女はニヤッと笑って卵焼きを食べた。
「今の、心臓に悪いでしょ」
俺も弁当袋に入ったおにぎりをあける。
「だってそうでもしないとどっかいなくなるじゃん」
「それは、、、そうですけど」
最近というか高校に入ってから屋上の踊り場に移動して食べることがあった。あそこは誰もいなくて食べやすいんだけどな。おにぎりを口に入れて食べる。シンプルな塩だけどこれでいいんだよ。
「また、具が入ってないじゃん」
「別にいいじゃん、人の好みだろ」
「好みなんだけどさ、、、昔は色んなのおにぎりに入れてたじゃん」
「昔のことだよ、それは」
「唐揚げとかハムとか焼きそばとか」
「それだけ聞くと、昔の俺だいぶ偏った食べ方してるな」
「偏ってたけど、何も入れないはちょっと変かな」
「変か?」
「変わったかな」
そう、俺は変わったんだ。君みたいにみんなを照らすような太陽にはなれないんだ。そのあとは無言で俺らはご飯を食べた。無言の中、独特の空気が流れたそんな気がした。
ー
放課後、クラスの人たちの声がたくさん聞こえる。
「どうするよ、今日」「暇なら一緒にファミれ行かね」
「それアリだね」「アリだね」
教室の会話を聞きながら俺は立ち上がり、教室から出る。出る時に彼女の方を見たが、友達と話している様子だった。そうだよな、俺みたいな奴と話すなんて変だよ。そう、変だよ。ぐっと拳を握りながら、教室から出る。玄関で靴を取り出し、スリッパを入れる。靴に足を入れ、玄関から出る。ゆっくりとした足取りで外に足を踏み出す。踏み出したんだが、目の前で地面を睨みながら何かを探しているような人がいた。うん、いた。長い髪の毛が地面についてるくらいに自分のことなんかどうでもいいくらいに。え?女の子で髪の毛って大事なんじゃない。昔の記憶が少しだが思い出してしまう。小学校のいやな記憶が、こびりついた焦げ跡の記憶の一部が見えてしまう。
「あの、大丈夫ですか?」
俺は話しかけてしまう。こんなことをしないともう決めたはずなのに。髪の毛がバサァと顔にかかる。相手の顔が見える。すごくうるうるとした顔でこちらを見てる。やばい、どうしよう。
「えっと、その、コンタクトを落としてしまって、どこに落ちたか分からなくて」
「うん、大丈夫。落ち着いて、落ち着いて」
目の前の子はあわあわとしたような状態である。
「大丈夫、俺も全然時間あるから」
「そうなんですか!」
顔がパァと明るくなっていく。
「じゃあさ、どの辺に落としたか覚えてる?」
「えっと、この辺で落としたのは覚えてるんですよ。でも見当たらなくて」
また泣きそうになってる。
「俺も一緒に手伝うから」
「ありがとうございます」
感情のジェットコースターかな、この子は。
地に膝をついて、探してみる。まだ明るいから流石に探しきれるとは思うけどな。
見にくいんだよな、地面に落ちてるのとか。ぐっと目を凝らしながら見る。なんか後ろでコソコソと話し声が聞こえるけど、独り言だよな、流石に。
キラッと光って何かが見えた。コンタクトレンズが落ちていた。そ〜と触り、後ろを振り返る。
「見つけたけど」
返事は返ってこなかった。彼女はその場にいなかった。ケースだけ残していなかったのだ。
なんというか、自己中な人とは思った。
ケースにコンタクトをいれ、周りを見渡す。あんまりにも人がいなく、ちょっと不思議に思った。この時間なら部活動の人たちが大きな声量でグラウンドを駆け回ってないか?少し気になり、学校に入る。
すると学校内には誰もいなかったのである。まるで誰も存在しないみたいに。ありえないと思い、玄関の時計を見る。俺が出た時間を指していた。なんで、流石に探す時間に5分くらいかかったはずなのに,なんで戻ってるんだ。心の中が霧に掴まれたそんな感じがする。走って自分の教室に戻る。廊下は走るなとは言われたがそんなことを言っている場合ではない。教室の扉は開かれており入る。教室内にはやっぱり人はいない。時計を見ると時間が変わっていなかった。いや動いてなかった。携帯を取り出そうとするが圏外になっており連絡もつけない。つかおかしいだろう、携帯が繋がらないの!そんな田舎でもねぇぞ、ここ!少し頭の糸が切れそうだが、そんなことを気にしてる場合じゃない。窓を開けようとするが開かない。開けられない。成人男子の握力でも開けられない窓がそこにあった。他の窓も試したが同じであった。するとキラリと光が見えた。
バッと光の方に顔を向けるとそこにいたのは魔法少女?であった。いや杖を持って、空に飛んでる時点で魔法とは思うが,少女にしては身長が高すぎないか。いや今そんなことを言うのはやめよう。学校の渡り廊下の取手に綺麗に着地し、手をかざしていた。かざした手から分からない文字が現れ、そこから炎のようなものが出ていた。炎の先を見たら、顔が時計の形をした怪人?みたいなのが立っていた。
ー
「こいつ、意外と強い!」
私はだいぶイライラしている。こんな時の止まった世界、早く壊したいのに。正直に言えば、高校生になったから自分の殻を破りたくてコンタクトにしたのに、秒で壊してしまったこと。それを他人にお願いしてそのまんま放置したこと。だいぶ頭にきてる。出てきた幻怪が思ったより、姑息な戦いをしてくること。
「どうだ、魔法少女。時の止まった世界ではお前1人しかいないからな。ジリ貧にさせてそこからは、ウヒョ、ウヒョ」
思った以上に下劣かもしれない。でも正直言ってきつい。出した技はあいつに止められるし、近づくとすごい勢いで逃げていく。ちょっというか、だいぶうざい。どうしよう、何か近づく手はないのかな。
「何か手伝おうか」
ドキッ!と心臓が止まる。バッ!と横を振り返る。するとさっきコンタクトレンズを拾ってくれた人がその場にいた。心臓のバクバク音が止まらない。
「なんでいるの?」
「うん、それ俺が一番聞きたい」
彼も疑問の顔をしていた。
「じゃあ、あいつを倒してから考えましょう」
「あ、やっぱ倒す感じなのね」
「それ以外になんかあります?」
彼は腕組みをして、悩んだ。
「多分ないね」
「ですよね」
少し黙り込み、私は思いついてしまった。でも多分こんなことをしたらどうなるか保証できない。
「ちょっといいですか」
彼に耳打ちをする。彼はとんでもない顔をしていた。驚きの表情と信じられない表情をしていた。
「いいね、やってみる価値はあるね」
納得が早くないか、多分ミスったら命飛ぶよ。そんな作戦を立てた私が悪いんだが。
幻怪の姿を見る。あそこから動いていない。
「やっと顔を出したね、結構長かったけど大丈夫だったかな」
変な心配してる、あの人。
「だって、ここには2人しかいないんだから君に何かがあったら困るじゃないか、僕が!」
違ったわ、周りが見えてないタイプだったわ。
魔法陣を手から展開し、幻怪につけつける。
「見たはずだよね,君の攻撃は当たらないって」
言葉を無視して、煙を噴き上げる。
「そんな目眩しをしてもさ、君の力を削るだけだよ」
私は隣にいた彼に目配せをして、持ち上げた。
そのまま幻怪に投げつけた。
向こうは驚きの目をしていた。頭の時計を操り、彼を止めようとしたが彼は止まらない。私の勘が正しければ、彼はなんでも止めることができるが、それは多分魔力を帯びてないのものに限る。だって私自身を止めればいいのに、止めなかった。止めることが出来なかったのだ。彼はコンタクトケースを持っている、あれは私が昨日の夜、うまくいくようにぐっと願いを込めたのだ。そん時に魔力が入ったんだと思う。このままだと彼が突っ込んでそのまま地面に叩きつけられて目にものを見せられない形になるので、私がここで手を打つ。コンタクトケースだけ私の手元に移動させる。すると飛んでいる彼は止まり出した。だけど急に止まったら今までのスピードが全部押し殺せる訳じゃない。ドゴンとものすごい勢いで、地面に幻怪ごと叩きつけられた。私はすぐに彼の元に向かう。大丈夫、心臓が止まってるだけで済んでる。魔力がこもった杖を彼に握らせる。
彼は息を吹き返す。
「殺す気か!」
第一声がそれなら多分大丈夫だろう。
「いや、止まっていたとはいえ、怖いわ!」
彼の言葉を右から左に受け流し、伸びてる幻怪に対して腹に杖を突き立てる。
うげっと反応をしめして、そのまま技を構える。幻怪の周りに魔法陣が敷かれてその上から炙る。
彼はゾッとしたような顔をしていた。
「そんなに驚くことじゃないよ、このままだと3人でここで過ごすことになるからね」
青い炎が一瞬で幻怪の体を包む。すると時が止まった世界が動き出す。身体が光出す。一瞬で光に包まれて、私は机の上に立っていた。彼は教室の廊下に尻餅をついていた。幻怪だった人は机に突っ伏していた。彼は多分なんとなく上を向いた。うん、それは悪くないんだけどさ、私スカートなんだよね。見えるんだよね、パンツ。机から降りて、膝を曲げて彼と同じ目線に立つ。
「見たでしょ」
彼は渋く顔をしかめて「はい」と頷いた。
「正直でよろしい」
後ろを振り向く。ー私はどうしたの??自分でも何を言ったのか、頭が沸騰してくる。多分湯を沸かせることができるくらいにぐつぐつしてる。違うもん、ちょっとカッコつけただけだもん。魔法少女とか可愛く見られるもんだからクールにしたいもん。
「あの、色々と聞きたいことがいっぱいあるんだけど」
彼はそう私に聞く。
「うん、いいよ」
私は魔法少女の時はクールだから、カッコつけて答える。
「その目のやり場に困るというか、思春期なんすよ」
「え?」
自分の格好を見る。ギチギチというくらい服が悲鳴をあげている。だって1人でいる時は気にしる必要なかったもん。体を包み、彼に一言を言う。
「えっち」
「はぁ?!誰がエッチだ!」
「君のことじゃん、君しかいないじゃん」
「いやいや、そんな格好してる君が悪いじゃん」
「これは正装ですぅ」
口を尖らせながら話す。ちょっとムカついてきたな。杖をトントン叩き、煙を出す。
ゴホゴホと彼は煙を吸っていた。
「どう、これだったら文句言わない?」
「いや、その煙が肺に入って」
「じゃあちゃんと見てね」
手で煙を払いながら彼は私を見る。
そうだ、これを見れば分かるでしょ。立ち上がり彼の表情を見る。驚いていた、目を開かせて驚いていたんだ。
「あの時の地面睨みの子?」
すごく不名誉な呼び方をされている。
「紅葉って言います!!」
ー
「じゃあ、説明しようか」
長い髪の毛をゴムで一纏めにして眼鏡をかける。
ファミレスに入り、ドリンクを机に置いて話す。
彼はポカンとしていた。
「いや、伊達だよ」
「そういう問題じゃないよ」
「じゃあ、あれあんまりご飯を頼まなかったこと?」
「それも違うんだけどな」
彼は頭を掻く。
「説明しないと訳わかんないじゃん」
「それはそんなんだけどさ」
こほんと息を整え、私は口を開く。
「妖怪っていたらわかる?」
「それは流石にわかるけどさ」
「じゃあ、今妖怪はどこに出るでしょうか?」
質問をする。へっ?と彼は目を点をする。
「それは夜とかじゃないの、みんなが寝静まった夜とかさ」
「そんなアニメじゃないんだからさ」
「じゃあ、どこに出るのさ」
チッチっと人差し指を振り、スマホを取り出す。
「スマホがどうしたの」
「今はここから出るの」
「は?」
彼は驚いた顔をする。
「インターネットから出てくるんだよ、今の妖怪」
「それってやばくない」
「うん、やばい。けど条件を満たさないと出ないんだよね」
「例えば?」
「願いかな」
ストローを触り、氷を動かす。
「氷はさ、時間が経つと溶けるじゃん」
「そうだね」
「で、その中にあるジュースとかに混ざるんだよ」
「混ざってどうなるの」
「自分の願いに沿った妖怪になるんだよ。これを幻怪って呼ぶんだけどね」
彼はピンときてない様子だけど。
「あの人は多分だけど、何かあったんだろうね。時を止めたいくらいに追い詰められてたんだろうね」
少し暗い顔を彼はする。
「私がすることは混ざった人を離すことなんだよね」
「あんなに燃やして」
「そう、燃やすしかないんだよね。混ざったやつを離すのは難しいんだよ。だから一度空にする」
ジュースを飲み込む。
「空っぽにした状態にして、もう一度過ごしてもらう。それしかないんだよね」
はぁと彼は渋々納得している様子であった。
「ちょっと新しいジュースを取ってくる」
席を立ち、ドリンクバーで入れる。
コップにコーラを入れる。私は考えてしまう、また満たされない時はどうするのかと。イタチごっこになってしまうのではないのかと、私の努力なんてものは無駄なのかとそう思ってしまう。
「ごめん、待たせちゃった」
私は席について彼に笑って話しかける。
「全然、ご飯が来たから見てただけど」
席には私が頼んだとり天定食が置いてある。これ大好きなんだよね。彼のテーブルを見るとライスだけが置いてあった。
「まだ君の分がきてないの」
「いや届いてるよ」
「えっ?」
ちょっと衝撃を受ける。ライスだけの人とか初めて見る。
「早く食べないと冷めるよ」
「冷めるとかじゃなくて、ほんとにそれだけで十分なの」
「うん、普通じゃない」
めちゃめちゃ当たり前みたいな顔してる。
箸を割って、私も食べる。
多分だけど、彼も幻怪になる可能性がある。てゆうか、私と同じ動ける時点で可能性があるじゃん。彼の様子を見よう、判断はそれからしよう。
ー
私はファミレスで友達と話をしている。最近の話題とか流行っているファションの話とか他愛もない話をしている。そしたらさ、驚くよね。彼が女の子と一緒にファミレスに入ってくるなんてさ。
「どうしたの?」
友達が話しかけてくれる。
「え?」
「いやそのオーラがさ」
「そんなに?」
「うん、出てた。般若みたいな顔してたよ」
そんな顔をしていたのか、私は。
「いやいやちょっとボーとなってただけだから」
「それにしては顔凄すぎるよ」
「ほら、パフェ来ちゃったから。ねぇ、食べよう」
目の前に店員さんが運んでくれた。私がストロベリーパフェと友達がチョコレートパフェだ。
スプーンを手に持ちクリームの部分を口に入れる。甘いのは美味しいのだ。さっきまで彼に悩んでいたことが薄れていく。まぁ、あるよね。女の子と一緒にファミレス行くぐらい。
「美味しいね」
私はいつの間にか口に出ていた。
「そうだね」
「やっぱりさ甘いのがいいよね」
「うん」
「このいちごの部分とかさ」
「うん」
「話聞いてる?」
「聞いてるけど、目がずっと向こう向いてるよ」
え?意識してなかったけど私は彼の方を見ているらしい。
「そんなに気になるの彼のこと」
友達はそう言ってくる。
「いやいや、全然だよ。全然昔からの幼なじみだけとかじゃないからさ。うん、ぜんぜん。そんなんじゃないし、中学から会わなくなっても全然寂しくなんてなかったしさ、久しぶりにあったら昔よりなんか変わりすぎてて、気になるわけないよ」
「うん、分かったからやけ食いしないで食べなくていいよ」
目の前にあるパフェは半分ほど消えていた。
「ごめん」
「全然良いよ。そういう話聞いてて面白いし」
友達は気にしてないような顔をして聞いていた。
「あたしだったら気になるしな、その子のこと」
「そう思うよね〜」
私は良い友達を持ったな、ほんとに。
「ほんとは好きでしょ、彼のこと」
ぶっ!一瞬息が止まってしまった。急にそんなことを言われるなんて思ってなかったから。友達の顔を見るとニヤニヤ笑っている。
「そりゃ、好きですけど」
だんだん声が小さくなるのが自分でも分かってしまう。
「だったら、早く言いなよ」
「いや、そのやっぱりあるじゃないですか」
思わず敬語になってしまうくらいには言葉にできなくなる。
「うん、まぁ分かるけどね」
彼女はチョコレートのパフェをスプーンでとり食べる。
「そうだよね!」
バン!と机を私は叩いてしまった。友達はびっくりしていた。口につけてたスプーンを落としそうになってた。
「あの、すいません。えっとごめん」
私は縮こまってしまった。
「良いけど、落ち着いてね」
「はい、ごめんなさい」
申し訳無くなってしまう。
チラッと彼の方を見ると、一人だけだった。
あれ?彼女はどこに行ったんだろう。
ドリンクバーまで目を配らせとそこにいた。身長は私より少し小さめかな。あんな子が好きなのかな、彼は。スリーサイズとか私より胸大きくない?結構あると思うんだけどな、私は。いやいやそんなことはどうでもよくて。お腹とかスッキリしてて少し羨ましい。私だって、軽いし。うん、軽いもん。お尻だって負けてないし、、、いやだいぶ負けてる。
「ねぇ」
友達はトントンと私の肩を叩く。
「え?」
「いやいや見過ぎだからさ」
「そ、そんなことないよ」
「首がすごいことになってる」
「へ?」
自分でも間抜けな声を出している自覚がある。
「よし、食べようか」
「え、いけんの。彼女に聞いた方がいいんじゃない」
「大丈夫、後で話をするから」
「怖いから、完全に頭にきてない」
「全然、全然」
「笑いながら怒ってるの才能だよ」
さっき言ってた自分の言葉は思ったより強く言っているらしい。
ー
キーンコーンとチャイムが鳴る、これから昼食の時間であるが、私にはやることがある。いやそんな一緒に食べる人がいないとかそんなんじゃないから、全然違うから。うん、彼のところに行くつもりだ。
怪しいでしょ。幻妖に最も近い存在しているんだから、目を配るのは大事。彼の教室に移動する。となり同士のクラスだから着くのはすぐだ。でもいない。彼の姿が見えない。どうしうよう、教室の中で女の子が少しイライラしている様子だった。何かあったのかな。いやいやまずは彼を探すところから始めないと。
「ねぇ」
イライラしている様子のあの子が私に話しかけてくれた。
「はい?」
あ!よく見たらこの人、あれじゃん。昨日ファミレスにいた子だ。
「彼、見なかったか」
「いや、見てないけど」
「そう、だったらいいんだけど」
プンスカとなりながら彼女はクラスに戻った。
なんで、私に聞いたんだろう?別にクラスの人に聞けばいいのに。ちょっと探してみようかな。
こういうのはね、男の子は屋上とかにいるんだよね。いやまぁ、ここは屋上が空いてないんだけどさ。階段を上がって上に上がる。でも、ちょっとだけど嫌な予感はしている。一歩ずつそっとあんまり音を立てないように。屋上近くの踊り場までついだが彼はいない。携帯だけがあった。
あ〜!!もう!!!遅かった〜!
周りに誰もいないことを確認して胸ポケットからアイテムを取り出す。ペンが伸びて、杖になる。何回見てもマジックのアイテムすぎるよね、これ。
私は息を吸い、大きな声を出して私は変わる。
「魔法」
足元に光が見え、私を包む。ヒールにロンググローブ、ピチピチのスーツ、ぐっと私の体に張り付く。
ふぅと息を吐く。そろそろ変えたいけど、どうしたら変わるのかな、これ。拾った物だし、しょうがないんだけどさ。
携帯の画面を見つめる。たいがい見れば、その人が何に悩んでいるのがわかるんだけど、あまりにも見えなさすぎる。暗くて、わからない。ちょぅと不安だけど、やりますか。身体を粒子に変えながら、入っていく。
ー
声がしたからきたんだけど、なんで彼とあの子の弁当箱が2個あるの?しかも誰もいないし。屋上も鍵が空いてないし、階段ですれ違った記憶もないし。
どういうこと?あ、携帯が落ちてる。私は携帯を触ってみる。多分だけど彼の携帯なんだろうけど。ついてるのかな?画面が真っ暗なんだけど、何も見えないな。どうしようか、待ってみる?でも、どうしようか。う〜んと悩んで見ると画面の中に人が見えた。魔法少女?背が高いし、私が昔見てたアニメとかにしてはデカくない。色々デカい気もするけど、、、なんかデジャヴを感じる。声が聞こえる気がする。スマホに耳を近づけるけど音は聞こえない。じゃあ、違うのかな。でもまだ聞こえる。私、耳鼻科に行った方がいいのかな?
「下だよ」
「?!」
目の前にいたのは蜘蛛がいた。うん、普通に蜘蛛。こういうのって可愛い感じのファンシーなのが出るんじゃないかな。しかも5センチくらいの大きさなのだ、まあまあ大きい。
「まぁ、びっくりするな」
腕をカサカサさせて私に話しかけている。いや普通にちょっと生理的に。
「あの、申し訳ないんですけど。そのカサカサするのやめてもらっていいですか。ほんとにちょっと」
うえっと胃液が上に上がる。
「何?」
蜘蛛は不思議そうな態度をしていたがいやまぁ、気分は悪い。
「その何者とか色々聞きたいんですけど、ちょっとほんとに」
「最近の若い奴は」
蜘蛛から何かから抜けて、私の中に入ってくる。
『これでどうだ』
頭の中に響いてくる。ちょっと頭痛がするくらい痛い。
「もうちょっと小さくできません」
『わがまま奴だな』
うん、これで聞こえる。
「はい、大丈夫です」
『言わなくても聞こえてるわ』
「じゃあ、誰ですか?」
私は心の中にいる人に話しかける。
『我は、あの板に入っている奴の支援者』
「そうなんだ。え?じゃあなんでここにいるの?」
『それは、、、そうだな。正直に言おう』
「はぁ」
『ほんとは我と一心同体となりて、妖怪を退治するのが普通なのだ』
「おう、普通とか言われても私はわかんないぞ」
『そういうな、カッコいいんだぞ、我を纏うのは』
「う、うん」
『いや、そのすまないが話がずれたな。我は眠っていたのだ』
「はい?眠っていた?」
『そう来るべき時に備えてな。だが眠りすぎたのだ』
「つまり寝坊したの」
『そういうことだ、理解が早くて助かるよ』
「今、私に出来ることはなに?!」
『そうだな、我を纏え。話はそれからだ』
え?
「もうですか!」
『それ以外にやることはあるのか』
「まぁ、色々と聞きたいことしかないけど」
『全然時間がないから、後で。力を込めろ!』
ぐっと全身に力を入れる。そうすると身体の中から全身を青い炎が纏う、熱くはない、だけど怖いよ。普通言わないかな、何が起こるかくらい。
『ヨシ、なれたな』
「もうですか」
『あぁ、板で見てみろ』
姿は身体が青く全身が燃えている、でもところどころ人肌が見えるんだけど、膝下とかおへそとか大丈夫なのだろうか。
「見えてるんですけど」
『その服を燃やして作っているからな、我慢しろ』
「へ?」
燃やしているのは服、というと早く何かしないとやばいんじゃない。
「ど、どうしましょうか!」
『慌てるでない』
「こっちは服燃えてるですよ!」
『板に飛び込め、そしたらなんとかなる』
「適当だな」
『一応神様だぞ』
板に飛び込むの、このサイズに。どうやって入るのさ、飛び込むのかこのまま。いや足しか入らないそうなんだけど。
『考えるなよ』
早よ行けと言われたなこれ。
え〜い、ままよ!
思いっきり目を瞑り飛び込む。
ー
俺は俺が嫌いなんだと思う。うまくいかない自分が嫌だし、彼女に対してどうすれば良いかわからない自分も嫌だ。小学校の頃はよかった、いやあの時から変わりはなかったんだと思う。自分が前に出ると誰かに迷惑をかけてしまう、だったら海の中で過ごした方がましだ。あのサイトを見たのは小学校できっと運命だった。何かを見たんだ、キラキラとした輝きを。そこから俺は、手放した。自分にとっていらないものを。いらないもの、、、?うん、そうだあのサイトに書いてあったんだ。そのぶん捨てないと俺は俺にならない。
「私はそう思わないよ」
魔法少女の声が聞こえる。
「そんな格好で俺に言うの」
魔法少女はボロボロの服で息を荒げた様子でこちらを見ている。
「人と人が絡まって君になるんだよ」
頭にキタ。わからないくせに、分かろうともしないくせに。屋上に立っている俺は体から糸を取り出す。そこから腕に触手を絡ませて、彼女を縛ろうとする。
「逃げないとどうなるのかな」
息を思いっきり彼女は吸い、杖に魔力みたいなのを入れている。その場に炎が上がる。
「それじゃあさぁ!無理だって分かってないじゃん」
炎の中を触手が通り、彼女に触れようとする。
ぶん!と思いっきり火を払う。そこに魔法少女はいない。
「逃げたのかな?!さぁ、逃げていなくなれよ!」
自分でも強く言ってることがわかる。
「逃げないよ」
魔法少女は俺の後ろに立っていた。フラフラとした様子でこちらを見てくる。すごくイラついてくる。なんでそんな状態で。
「ちっ!」
「あっ、舌打ちした。じゃあもっと君に近づこうかな」
こいつはなんなんだ。ちょっとしか会ってないのにづかづかと入ってくる。頭の中に誰かが見えた、そんな気がした。
「俺はいらないって、そう決めたのに」
頭を掻く、記憶を捨てるように。
「隙だらけだよ」
こいつは俺の前まで来て身体に炎を浴びせた。あぁ、やっとこれで終われる。俺は誰でもない空っぽの俺になれる。笑い声が出てしまう。
「ハ ハ ハ ハ ハ!! 」
ー
上から彼がもえる姿が見えた。火の中で笑う姿はなんだか救われている、そんな気がする。だけど、それはダメだって私のココロが言っている。青い炎は私の目線の先に魔法少女が倒れている様子を見せた。多分だけど彼女がやったことは分かる。そう、これになってから私の感覚は鋭くなっている。この海みたいなのは彼の記憶でできていること、潜れば潜るほど、断片的だか見ることができた。子供特有の普通と違うところがあれば、ひどくそれはひどく人を責める、そんな様子や親の期待に応えることができないそんなどうしようもないことが見えた。
それが見えた時に私は多分だけど、むかつていたんだと思う。うん、気づくことが出来なかった自分に。彼に何を言えばいいかわからない。だけどこんなところにいるのは絶対に違う!
燃えている屋上に足を下ろす。彼は笑いながら自暴自棄のようになっていた。表情が見えない、でも笑顔なんだと思う。私は息を吸い込み、思いっきり彼の頭をぶった。彼は転がり、屋上のフェンスに思いっきりぶつかる。デカい音がなり、倒れていた彼女が起き上がった。炎が消え、彼女は驚いた顔をしていた。
「なにしたの、、、?」
「思いっきりぶってやった」
「炎が消えたら、彼はこのままなんだよ」
「そうなんだ、、、」
「そう」
やばいことをしてしまったかもしれない。いやいや、多分大丈夫だよ。
「私に任せて」
うん、嘘をついてしまった。だって言ってくれないんだもん。中にいる変なのが。
「は、は、来たんだ」
彼は立ち上がり、笑顔を見せる。でも笑っているようには見えなかった。
「うん、そろそろ授業が始まるしね」
彼はポカンとしていた。後ろを向くと彼女もポカンとしていた。あれ、そんな変なこと言ったかな私は。
「そうだ、そうだったね」
彼は楽しそうに笑い始めた。私は顔が赤くなっていくのを感じた。
「もう!早く帰るよ!」
「うん、まだ帰れないかな」
「なんで」
彼の表情は暗くなっていた。
「だって、ここは幸せだよ。誰もいないし、変な関係だってない」
「でもこんな苦しいところじゃあ君が可哀想だよ」
ナニカが私の前を横切った。これは触手だ。後ろに勝手に下がっていく。振り向くと彼女が、私を背中から引っ張っていた。
「何してんの!」
「だってこんなところにいたら彼が可哀想だよ」
「可哀想とか言うな!」
「そうだ、陽キャの君にはわかんないだろうけどね」
あれ、二人して私のこと責めてる?
「あの人は私じゃあもうどうしようもないからずっと燃やしたんだ」
「そうだ、俺はそれで良かったんだ」
は?私は立ち上がり、彼を思いっきりぶつ。
でも頬を叩いた感覚はない。触手に止められていた。
「二度もぶってどうするの、それで俺がどうにかなると思っているのかな」
「思ってない」
「じゃあ止めないでくれるかな」
「嫌だ!」
「わがままだな!」
ドカンと私の横に触手が叩きつけられた。
「それで私をぶつの」
「あぁ、この力があればこんな世界で王様だよ」
「それであなたはなんになるの」
「俺は、、、」
彼はそこで言葉を詰まらせた。
ゴボゴボと空間が泡を立て始めた。
「俺は、俺だよ。あぁ、俺だって俺なんだよ」
泡をが周りに出始める。多分空間が彼に共鳴しているんだろう。
「は、は、ハハハ。だって俺は俺にならない」
「違うよ、人は自分のなりたいようにしかなれないよ」
「じゃあ、俺はなんになるんだよ。答えてみろよ!」
「分からないよ、私だって自分が何者なのか分からないんだから」
「はぁ?ふざけるなよ」
「ふざけてない」
「なんなんだよ、お前は!」
触手が彼を身に纏っていく。
「そうだ、だったら俺は誰かになればいい」
彼は飛び降りていく。私たちは急いで落ちた彼を見にいく。彼は周りの思い出を身体に取り込んでいく、だんだん身体が膨らんでいく。
「どうしよう」
「えぇ!あんなに彼に対して言ってたのに」
「だって、どうすれば良かったのかな」
「まぁ、まずは彼をなんとかしないと」
目の前にいたのは巨大な海月がそこに立っていた。
「大きくなったね」
「あぁ、これで君たちを倒せるよ」
とんでもない大きさの物体が学校にぶつかる。
私は目を瞑ってしまった。開けると空を飛んでいた。彼女が私と一緒に飛んでくれた。
「飛べない?もしかして」
「分かんない。どうしたらいいか」
「仲良しだね、君たちは」
また振り下ろしてくる。彼女は私を連れて飛んでいく。多分だけど、彼女の負担になってるよね、私は。
「ねぇ」
「なに、飛んでる途中だけど」
「教えて、やり方」
「ほんとに?!」
「うん、だってあなたの負担になってるんだよ」
「じゃあ、一度しか言わないよ」
「うん、しっかり聞くよ」
「イメージして、飛べる自分を」
ブワァと風が飛んで、彼女は手を離してしまう。
私は落ちていく、このまま落ちたらどうなるのかな。いや余計なこと考えるな、イメージしろ。自分が飛べる姿を。私は頭の中を、考える。飛べるイメージがつくやつ、羽なら天使みたいな翼とかがいいじゃんかね。ぐっと力を入れて羽を形成しようとする。だが彼は見逃しはしなかった。触手が私に飛んでくる。駄目だ、このままでは羽をイメージしても飛べない!考えろ、私は。あ、あるじゃん。彼と一緒の思い出が。靴下の青い炎を動かし、私はリフボードを作り出す。勢いよく迫ってくる触手にリフボードを当てる。そのままの勢いで私は飛ぶ。魔法少女は驚いた顔でこちらを見ている。
「飛べるんだ、それで」
「うん、イメージしてたらこれが出てきた」
魔法の杖にまたがる彼女は驚きの声がしてた。
「でもどうしようか、あれ」
巨大な海月が立っていた。
「どうしようかな」
『ならいい手があるぞ』
「え?いましゃべった?」
「ううん、話してないよ」
「じゃあ、彼?」
『いや、我だが』
「誰?誰ですか?」
『そうか、我が分からぬか』
「そんなことやってないで教えてもらっていいですか」
ちょっと不満そうに私は言う。
巨大化した海月はこちらの様子を見ている。お互いに顔を合わせて私は飛ぶ。
「え?合図は?」
魔法少女は驚いていたが、多分だけどなんとかなる。ボードに火を入れ、彼の元に飛ぶ。巨大になった彼は周りの触手を束ねて傘のようにして盾にしている。
「これで君たちの攻撃は効かないぞ」
ボッ!と彼の身体の一部分が燃え上がる。よし!効いてる!彼女が触っていた魔法陣はついたまんまだ。後ろにいる彼女の方を見る。
「だいぶきついからさ、早くお願い」
すごく踏ん張っていた。彼女の頑張りに応えるためにも私はもっと足に力を入れて、ボードと共に上に上がる。燃え上がる場所を確認して彼の顔を見る。先ほどまで笑ってはいなくとても悲しい顔をしていた。
「ごめん」
ボードを踏み、空中に飛び立つ。身体全体の炎を纏い、彼に蹴りを入れる。蹴りを入れた瞬間、彼は笑っていた。どうして笑ったんだろう、いや私には分からない。自分で自分のことだって分からないのにな。私は叫んだ、声を彼に届かせるように。世界がバキっと割れる。私は一瞬瞬きをしていた。その瞬間には元の場所に戻っていた。屋上の踊り場で三者三様な動きをしていた。横で気絶している人とネズミに説教されてる人とスライディングの格好をしている私。何これ?
ー
俺はどうなんだ。どうって炎に燃やされてぶたれて燃やされて蹴られて目が覚める。半分ぐらい燃えてね。まだ頭がクラクラする。海月の顔がぼやぁと見える。ウルウルとした顔ではこちらを見ている。「よかった、生きてた」彼女は俺をぐっと抱きしめた。熱が身体に伝わってくる。俺はなんてことをしてしまったんだろう。こちらもぐっと抱きしめた。「あ」
こんなに自分のことを見ている人がいるんだ。ごめん、ごめん。「ありがとう」言葉が出てしまった。我慢ができなかった。嬉しかったんだ。
「ごめん、あんなことをして」
「全然、気にしてないよ」
彼女は僕の肩をたたく。
「まぁ、あんなところ初めて見たけど」
え?どこの話をしているんだろう。
「だって子供の時のさ」
ばっと口を彼女の手に当てた。
「それは絶対まずい」
「へ?」
周りをばっと見るとなんかネズミに怒られている人いない?
『我がいれば最初からあのような無様を晒す必要はなかったのにな』
こくんと彼女は正座で頷いていた。
嫌だな〜、ああいう状況見るの。
『我に力を戻せ』
「それは、」
彼女は声を出そうとした。
『理由はいい』
やばいくない、こういう話をしてるの。
「あの、お取り込み中いいですか」
俺はいつのまにか声を出していた。ネズミが見たことない顔をしていた。めっちゃ目つき悪い顔をしてるな。彼女はパァと輝くような顔をしていた。ぐっと心が掴まれそうになる。海月もこちらを向いてくれる。
「大丈夫?」
小声で話しかけてくれる」
「ごめん、手伝って」
「いいよ」
海月はぐっと親指を立てる。
「あのですね、俺は彼女に救ってもらいまして」
もっとネズミの目つきが悪くなる。般若くらいでしか見ないぞ、その顔。
『なんじゃ』
すごく圧がある。
「その、先ほどのなんですけど」
『ほう』
「あのだいぶ燃えてた時間がなかったら、多分ですけど、間に合ってなかったじゃないすか」
『それはそうか』
「だからその力を返すのは早いんじゃないかな〜」
「私もそう思います」
海月も答えてくれる。
「あの子の力がなかったら私だって無理でした」
むぅと頬を膨らませるネズミ。普通に怖いな、ネズミが膨らませるのは。
『まぁ、お主がいうならいうか』
ネズミがその場を歩き出した。
彼女はホッとした様子で足を崩した。
「良かった〜、ありがとう」
「それはどうも」
「ほんと、この年にもなって正座するとは思わなかったよ」
「痺れてない?」
「ちょっとね」
彼女に手を差し出す。
「えっ、あ、ありがと」
手を掴み立ち上がる。
「どういたしまして」
「あの、ロマンスしてるとこ悪いけど」
「え?!」
「そんなことしてないよ」
海月はこちらに声をかける。
「まだ昼休みなんだけど」
声の方に目を向けると今になって思う。海月の格好がとんでもないことになっている。さっき抱きついた時に気づいていればよかったのに。長袖のシャツがノースリーブのシャツになっている。なんならおへそが出ている。スカートとか膝下の結構長いやつなのに、膝上から数えた方が早いぐらい短いんだよね。足元に至っては何もない。ちょっと目線を上にしてしまう。
「なんで急に上を向いたの」
「いやそのね」
制服を俺は脱ぐ。別に上着くらいは渡せるから。
「へっ?はっ?!」
海月は困惑している。
「なんで、なんで脱いでいるの」
「その格好なんだけど」
その場でくるくると回転している。
「だから俺の上着貸すから」
「そんなことしたら噂されない??」
ガチャガチャと動きながら、話をするとぐいっと割り込んでくる。
「私にいい考えがある」
大丈夫かな、だいたいそういうのは失敗しない?
「これで完璧」
俺の服を彼女に着せる。ほんとか?
「よし大丈夫だ」
俺もそう言う、それくらいしか言えない。
海月はものすごくブンブンと横に振りながらこちらを見る。
「大丈夫だよ、あの子は彼氏さんとフフフくらいしか思われないよ」
ぐっと渋い顔を海月はする。
「じゃあ、先に俺は戻るから」
「え?」
「一緒に入って噂されたら困るのは君だからね」
階段を降りる。
ー
チャイムが鳴り、放課後に鳴る。私はあの二人が教室に戻った時のことは知らないし、正直どうでもいいんだけどさ。でもなんだか喧嘩?しているような声が聞こえる。
「あのさ、もう帰るのは違くない」
「友達と帰ればいいじゃん」
「帰れないでしょ!」
「なんで」
「同じクラスいたよね。私、めちゃくちゃ言われたんだよ」
「良かったじゃん」
「良くないよね、友達に生暖かい目でやるねとか言われたし」
「それくらいじゃん」
「何が?!休みの時間になったらずっと聞かれるのていうか詰められてたの」
「言えばよかったじゃん」
「言ってもわかんないでしょ!」
「そうだね、あんなことした仲だからね」
彼女の顔が赤くなっていく。こういう雰囲気は別にいいんだけどさ。あの仲に入るのはちょっとな。
そろ〜と靴を履き、外に出ようとする。
「もう帰るの」
彼が私に気づいていた。やばい、どうしよう。
ぐるっと彼女は振り返りこちらにくる。
「あなたに聞きたいことがいっぱいあるの」
ぐっと私の手を両手を握る。
「へぇ?!」
「放課後、悪いんだけど空いてる?」
別に私が帰ったところで見たいアニメを消化するだけだから行ってもいいんだけどな。
「いいよ」
「ほんとに!」
ブンブンと手を振り、歩いていく。
彼の方を見るとニヤニヤしていた。
「何が面白いの」
「彼女の熱心さに心打たれたか」
変なこと言ってるよ。
彼女の家に着いたんだけど、彼も一緒にいる。いやまぁ普通か。彼女の家は一軒家で4LDKくらいあるように見える。
「上着の制服、どうしようか」
「別にそのまま俺が着るよ」
「え?!」
「まぁ、消臭剤とかかけるけどさ」
「そしたらね、洗濯しよう、ね」
「はぁい」
彼の表情は残念そうに洗濯カゴに入れていた。あれ?変なことしてない?
「ちょっと汗かいたから、着替えるね」
「いいよ」
彼は冷蔵庫から麦茶を取り出してコップに二人分入れている。
「ごめんね、これしかなくて」
目の前に置かれる。
「いえ、いいです」
なんかさっきから変じゃない。
「何か食べたいものとかない」
「そのオムライスとか食べたいかな。じゃなくて!」
バンと机を叩いてしまった。
「同棲してるの??!」
「そんなに声を荒げなくていいよ。俺が居候させてもらってるだけ」
「そうだよね、ごめん」
声を小さく、してしまう。
「君って何?」
「うん?」
不思議そうな顔をしている。
「いや別に、ただ両親が蒸発しただけだよ。ただこの人たちに拾ってもらって幸せだよ」
私は言葉が出ない。思った以上に重い話だった。
「そんな重たい顔をしないでよ」
「重たいでしょ」
「でももう終わったことだからさ」
お茶を口につけて飲む。味がするはずなんだけどなんも味がしない。
「そんな緊張しなくてもいいよ」
彼はニコッと笑っていた。
「じゃ、じゃああのさクラゲみたいなのになったのて」
自分でも分かっている。すんごく切り込んでいるということに。
「彼女はさ、すごいよね。みんなの輪の中にいて」
黙ってお茶を飲む。空気に耐えられなくて半分ぐらい飲んでしまった。
「俺は、きっと誰かに必要にされたいんだよね」
その気持ちは私も少しはわかる。
「でもその気持ちは昔に潰されたから、もう消えたかったんだよね」
「だからあんな感じに」
「そう、びっくりしたよね。思った以上にクラゲすぎて」
「思ったんだけど、携帯とかって」
あ〜と頭を上に向く。
「ここの親の人が優しくてさ」
「そう、なんだね」
だんだんと歩く音が聞こえる。
「上がったけど、、、空気重っ!」
ー
「色々聞きたいことがあるけど」
丸いテーブルを介して3人が正座している。
「どれから行った方がいいですか」
彼女は敬語で話してくる。
「別に敬語じゃなくてもいいよ」
「そう、そうだね」
少し黙って空気が流れる。
「じゃあさ」
全部私が言う前に目の前が炎が見えた。
「なんで急に燃えてるの」
「私だって聞きたいよ、お気に入りの服着たのに」
電話が急に鳴り出す。
「固定電話とか鳴らないんだけどな」
ガチャと彼が出る。
「はい、ええ、はい。そうなんです、はい」
誰からの電話だろう。
「学校の屋上に来てほしいって」
「誰が?」
「体育の先生だと思う」
「私たちと接点なくない」
「罠だな」
「え?罠なの」
「あまりにも罠すぎる」
「罠なんだ」
「だったらどうしよう」
「大丈夫、だって二人いるから問題ない」
彼女はどんと胸を叩く。そのままの勢いで姿を変えた。ガチャと窓を開けて箒を彼女は取り出す。私もボードを作り、乗る。そのまま宙に飛び立つ。
日が沈む少しの時間が私たちは飛び立つ。
「私たち飛んでるけど大丈夫なの」
魔法少女は帽子を手に取りながら、くるりと一回転する。
「全然大丈夫だよ。みんなスマホに夢中で上を向かないし」
「そうなんだ」
屋上に私たちは辿り着く。パサっと地面につく。
ガチャと音が聞こえる。
「「やば」」
屋上の上の部分に二人して隠れる。誰が来たのかな。
「やっぱり体育の先生だよ」
「そうなんだ、あんまり会ったことないからさ」
「ちょっと顔が怖いからさ」
『聞こえとるぞ』
二人して顔が合わせてびっくりする。
あまりにも聞き覚えのある声だし。
「あのネズミですか」
「蜘蛛の人?」
『そう、その両方だ』
ええ、なんで入ってんだろ。
『一番近い人間がこいつじゃったからな、仕方ない』
「りんり、倫理観が、、、」
彼女はものすごく泡を吹きそうになっていた。
「じゃあ、このまま探そうか」
『いないぞ』
「へ?」
『あれは我がやったのだから』
「そうだよね、私が見えないんだから」
「はい?」
魔法少女は帽子を遊ばせている。
「なんとなくだけど、見えるだよね」
「早く言ってよ」
「でも見えるのは携帯に入った人だけ」
「だったら早く言ってよ」
悩むような顔をしてしまった。
『カッカッカッ、我が話したかったから呼んだのじゃ』
「じゃあ、もう帰っていいですか」
魔法少女は箒を取り出す。
『いや、我の話を聞いてくれんのか』
「長くなります?」
『授業2回分ぐらいかな』
「長いね」
『簡単に言わせてもらえば、3人に部活をやってもらいたい』
「急な話ですね」
『そうだな、まぁ明日虚構部に来てもらえばわかる』
変な部活だなと私は思った。
「変な部活ですね」
魔法少女はもう呟いていた。
『まあまあ、明日分かるから。じゃあな』
すごい勢いで下に降りて行った。
「凄かった」
「そうだね」
「帰ろうか」
「そうだね」
箒とボードを使い、家に戻る。
「早かったね」
彼はエプロンを着て、フライパンを構える。
「うん、その話だけされて終わった」
「え、何その自習みたいなやつ」
私はぐっと力を入れて炎を消す。
彼女は驚いた顔をしていた。
「え!自分でできるの」
「うん、別に普通じゃない」
彼女は下を俯いていた。小声で「私だってこれ慣れるのに半日ぐらいかかったのに」そんな声が聞こえた気がした。
「今日は何作ったの?」
彼の方にトコトコと向かっていく。
「わあ?!」
彼は驚いて皿が落ちそうになる。
「え?」
「もう、頼むから服なんか着込んで!」
私は近くにあった手鏡を写す。半袖のパジャマが悪かったのか腹巻しか残ってない。自分の顔が熱くなっていくのが分かる。
「えっち!」
洗面台まで走る。
ー
「また、言われたね」
「あのさ、今の俺が悪いの?」
「全然、悪くないけどね」
俺は彼女の方を見る。皿に乗せたオムライスをテーブルに乗せる。
「え?3人分」
「うん、食べるでしょ」
彼女はこくんと頷いた。
「じゃあ、手を洗ってくれる」
「そんなお母さんみたいなこと言う?」
彼女は洗面台に移動する。
テーブルに料理を運ぶ。洗面所から声が聞こえる。
「それって彼のじゃない」
「大丈夫だよ、きっと気にしないよ」
「そうなのかな」
二人が戻ってくる。
海月は俺のパジャマを着ていた。お風呂に入ろうと思ってカゴに入れておいたのに。
「ご飯、どれでも食べてね」
「あれ、突っ込まないの」
「別に服が無いんだからしょうがないじゃない」
「そうなのかな」
紅葉はテーブルについてスプーンを持つ。
「じゃあみんなで食べよう」
「うん」
「いいけど」
みんなで手を合わせて俺たちは夕ご飯を食べる。
この時の俺たちは知る由もなかった。明日の部活がとんでもないことに。