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「今日のヒーロー…アキオ兄ちゃんは僕の初恋の人なんです。僕、子供の頃から顔も恰好も女の子みたいで、男の子たちにいじめられて。それを助けてくれたのが近所に住んでいたアキオ兄ちゃんだったんです」
「あいつは昔からヒーローだったわけだ」
「そうなんです。アキオ兄ちゃんは子供のころから拳法の道場に通ってて強くって。でも優しいから、いじめっ子にも乱暴なことはしなかったんです。くすぐり拳法だー、なんて言いながらいじめっ子をくすぐって笑わせて、いじわるを止めさせたんです」
「それで赤嶺も拳法を」
「はい」
「初恋の人が正義のヒーローでこっちが悪の組織じゃ複雑だ」
「でもいいんです、はい」
それから少しの間、二人は無言でカクテルを飲んだ。キャンドルの明かりだけが揺れていた。
「なんだか眠れなくてカクテル作り始めちゃったんですけど、紫垣主任が一緒に飲んでくれたから、よく眠れそうです」
「そうか、良かった」
赤嶺が手にしたキャンドルの明かりで二人は食堂を出た。非常灯で廊下は薄明るかったが、なんとなく赤嶺は部屋の前までキャンドルの火を消さなかった。
「おやすみ」
そう言って紫垣が自分の部屋に入る。
赤嶺も部屋に戻った。赤嶺は暗い部屋の中でキャンドルの火をしばらく眺めた。
「あっ、お部屋火気厳禁だった」
赤嶺はキャンドルの火を吹き消した。常夜灯のわずかな明かりが部屋の中を照らし出す。赤嶺の手の中に明かりを無くしたキャンドルのシルエットが見えた。
赤嶺はキャンドルをベッドのヘッドボードの棚に置いて、ベッドに入った。横を向いて、毛布を抱きしめる。
「…おやすみなさい」
部屋の中に、ライムの匂いが残った。
《 第9話 初恋はギムレットの中に おわり 》




