9-7
両手で頬を包んで呆然とするアウロラの肩に、そっと優しい手が置かれた。
「悲しむことは無いよ。これはね、組織力の差なんだ」
アウロラを慰めたのはカモノハシ室井だった。
「…組織力?あなたは誰?」
「俺は通りすがりのカモノハシの怪人さ。お嬢さん、君が敗れたのはアレなんだ。なんだろう?世間は建前ばかり。だけどなんだ?あれ?つまり、その…」
カモノハシ室井はメモを取り出して、自分が言うべきセリフをおさらいした。カモノハシ室井は赤嶺を指さして
「彼はうちの組織の戦闘員。だから我々は応援してる。もし君がうちの組織の専属アイドルになるなら、この応援は君のものになる、らしいよ」
アウロラは改めてライブハウスの会場を見回した。上下黒いユニフォームの戦闘員たちが一致団結して赤嶺を応援している。そして、彼らの熱い声援を受けた赤嶺が
「ちょー気持ちいい!サイコーだぜーい!」
と叫んでいる。光の渦の中、赤嶺は絶頂にあった。
「そしきりょく…」
アウロラの虚ろな目が赤嶺の晴れ舞台を見つめる。
「私のものになるの?ステージの真ん中でみんなの声援と七色の光に包まれて…」
「そうさ!その通りがそうなのだよ!だから、この書類にサインをするといい」
カモノハシ室井がニジヘビ団アイドル雇用契約書をアウロラに差し出した時だった。
「そこまでだ!恐るべき悪者め!」
ハンチング帽子と外套をまとい、顔の上半分を隠す仮面を被った男がアウロラとカモノハシ室井の前に現れた。彼の出現によって緑川の演奏と赤嶺の歌が中断され、スタジオが静かになる。
「頭脳は無邪気で体は頑丈!解決できない事件は常に忘れがち!捜査から実刑までこなす越権行為の探偵ヒーロー、シャーロック・アキオ!」
と正義のヒーローことシャーロック・アキオは名乗り上げると同時に
「犯人はこの中にいる!」
と宣言した。




