第1話 人魚姫の敗北
鏡の前、彼女は化粧をしていた。
口紅を塗り、肩まで伸ばしたウェーブがかった髪を軽く手櫛で整える。鏡に映った自らの出来栄えに満足して彼女は口元をほころばせた。
彼女、ではなかった。
可愛らしくメイクを完成させた彼・赤嶺バンサク(21歳)は部屋に戻り、ベッドに腰掛けてテレビをつけた。テレビ画面には特撮ヒーロー物の番組が映し出されている。
画面の中、海開き前の閑散とした海水浴場で、三人組のアイドルであり正義のヒーローでもある人魚姫戦隊・セイレネスがマーモットの怪人と戦っていた。
ヒーロー名『セイレーン・ウヌス』こと十河トウコ(20歳)は
「ニジヘビ団の悪党ども!小田原の海を、アナタたちの好きにさせないわ!」
と、彼女たちの専用武器である戦闘用パドル『バトルパドル』を構えた。
同じくセイレーン・ドゥオの真田サクラ(19歳)、セイレーン・トリアの柿沼カレン(20歳)もトウコに続いてパドルを怪人に向けて突き出した。
彼女たちと対峙する怪人・マーモット橙木(27歳)は
「ここに、おいらたちニジヘビ団が経営する海の家を建てるのだ。夏にはそれなりの収入が見込めるはずだよ。もちろん税金なんか払わないぞ!邪魔をするならお前たちもこんなふうにしてやる!」
と手にしたクッキーをバリバリ食べて見せた。マーモット橙木とセイレネスの周りには、上下黒コスチュームの戦闘員たちが打ち倒されて散らばっている。
ヒーローと怪人の戦闘がしばし繰り広げられた。セイレーンの三人がバトルパドルやキックでマーモット橙木を攻撃し、マーモット橙木もパンチ・キック・頭突きで応戦した。